幼少期
ドワーフの里に匿われた姉弟がいた。
盗賊に襲われた馬車の中で震えていた姉弟を、ハイドワーフの鍛冶師が助けたのだ。
盗賊は打ち取ったものの、二人以外の人間は殺されてしまっていた。
不憫に思った鍛冶屋は里に連れて帰り、二人を育てようと心に決めた。
里は普通のドワーフの里ではない。
ハイドワーフの里だ。
ハイドワーフとは、半精霊とでもいうべき存在で、普通のドワーフとは違い、いくつかの精霊の力を使うことのできるドワーフの上位種族である。
場所は大陸の北。
険しい岩肌を登った先に里はあった。
普通の人間には決してたどり着くことのできない岩石をくりぬいた住居が並ぶ、ハイドワーフたちの暮らす神秘の隠れ里。
そこで二人は育てられた。
人間の育て方を知らないハイドワーフたちは、ハイドワーフとして二人を育てた。
姉はアンフィ、弟はオルターと言った。
保護した時点でアンフィは五歳、オルターは三歳だった。
アンフィは燃えるような赤色の髪に薄灰色の瞳、弟のオルターは白銀の髪の毛に薄紫の瞳。
二人とも人形なような整った顔立ちをしている。
二人はハイドワーフの里ですくすくと成長した。
そしてハイドワーフから武術を叩き込まれた。
ハイドワーフの里に居を構えている、古の人間の女賢者マリーナからは魔法を習った。
オルターは幼少期より、鍛冶に興味を示し、四歳のころにはすでに武器を作り始めていた。
「師匠、できました!」
八歳になったオルターは出来た小刀を師匠のグリムに渡した。
グリムは無言で受け取るとじっくりと調べる。
オルターはどきどきしながら師匠の言葉を待った。
「うむ、良い出来だ。魔力もちゃんとこもっている。これなら十分だ」
と、満足そうにうなずくと、小刀をオルターに返す。
「やったっ!師匠に褒められたっ! 」
オルターは小躍りして喜んでいる。
グリムは感慨深げに髭をなでながら思った。
……あれからもう五年か。人間の成長とはかくも早いものなのか。
オルターは砂が水を吸うように、教えれば教えるだけ技術を覚えていった。
ドワーフは秘伝の技を惜しげもなくオルターに授けた。
もはや里以外の鍛冶屋など相手にならないだろう。
魔力を武器に込めるという高等技術もあたりまえのように使って武器を作っている。
ハイドワーフの秘術に、魔力の最大値を増やす術がある。
ハイドワーフの鍛冶は金属をたたく一回一回のすべてに魔力をこめる。それは普通のドワーフたちには失われた技法だ。
幼少期に魔力を鍛えなければ、それは叶わない。
そうして出来た武具はすべて魔力が付与されたものになる。
ハイドワーフの秘術。
それは幼少期に秘薬を飲むことで毎日少しづつ魔力の最大値を上げていく。
魔力は使えば使うだけ際限なく最大値が上がってゆく。
そうして八歳になるころには、アンフィとオルターは恐ろしいほどの魔力を持っていた。
オルターは天才だった。鍛冶や魔法だけでなく、どんな技術でもすぐに覚えてしまう。
ただし、戦闘に冠する技術だけはどうにもならなかった。
練習の時は大丈夫なのに、いざ対人、となるとどうしても腰が引けてしまう。
そこは姉の出番だった。
姉アンフィは戦闘の才能があった。
また、そのための努力も怠らず、何時間も剣をふるうことも苦も無くこなした。
現在アンフィは歴戦のハイドワーフの戦士と互角の戦いを繰り広げられるまでになっていた。
魔法と剣。きちんと住み分けできている、いい姉弟だった。
***
そして、オルター十歳アンフィ十二歳の春。
その出来事は起こった。
人の身でありながら、結界を抜けて客人がハイドワーフの里に訪れたのだ。
聖女アンリと名乗ったその者は勇者を迎えに来たといい、アンフィの前にかしずいた。
魔王の復活はハイドワーフたちも気づいており、アンフィに最高級の武具を授け、送り出した。
***
それから二年。
勇者の一行が魔王に敗北したという情報がドワーフの里に届いた。
オルターは信じられない思いでその話を聞いた。
「姉さまが負けた……」
呆然と自分の部屋に戻りふさぎこんでしまった。
そしてその次の日の朝。
目が覚めたら、オルターは突然、思い出したのだ。
自分は、日本で生まれた、古澤勇という名前の17歳の高校生だったということを。




