リヨンと闇の種子9
動かなくなった氷竜から黒い塊が現れ、リヨンに向かって漂って行く。
リヨンが新しい闇の種子を手に入れている間に、ツトムは剣を回収することにした。
剣は洞窟の壁に半ばまで刺さっていた。
「どんだけ力があるんだよ……」
ツトムはあきれる。
その剣もツトムの黒いオーラが切れると下に落下した。
「おっとあぶね」
避けてからツトムは地面に突き刺さった剣を引き抜き、刀身をチェックする。
刃こぼれ一つしていない。
武器屋のおやじが良い作りだと言って、実際その武器屋にあった一番いい剣だったのだが、素材が分からなかった為、かなり安く手に入れることが出来た剣だ。
しかも魔法が掛かっているが、何の魔法かもわからない。
武器屋のおやじ曰く、売りに来たのは貴族だったらしい。
二束三文にしかならず、それでもいいから買い取ってくれという事で買い取った品だそうだ。
呪いじゃないから大丈夫大丈夫、という事だった。
種子をその身に受け入れ、うっとりとしているリヨンに背を向けて、ツトムは氷竜を解体することにした。
今のリヨンのうるんだ瞳を見てしまうと、ツトムまでどうにかなってしまいそうだ。
ツトムは極力リヨンの方を見ずに氷竜を調べる。
ツトムは思った。
氷竜とはいえ、エルダードラゴンだ。
冒険者ギルドにでも売れば、かなりの値段で売れるだろう。
ひょっとしたら一生遊んで暮らせるだけの金額になるかもしれない。
しかし魔法の袋があるとはいえ、全部は入りきらない。
まずはツノと爪、それから牙と歯だ。あとは眼球か。
肉も高価で取引されるだろうし、血も貴重だ。
さすがドラゴン、捨てるところがない。
しかしリヨンはすぐに次の種子の所に行きたいだろうから、素早くしないと回収できない。
ツトムは魔法の袋から斧を取り出すと闘気を纏わせ、素早く解体していく。
レベル六まで使ったが、すぐに解除したのでこの間のように動けなくなることはない。
ツトムはついでに食事用に肉を焼くことにした。
木の枝と薪を袋から取り出すと、薪に“ファイア”の魔法で火をつける。
木の枝に血を抜いた肉を刺し、火にくべる。
火が通ってきた肉に胡椒を振りかける。
この世界の胡椒はそこそこ値段が張るが、手が届かないほどの金額というわけではない。
香辛料は様々なものを大量に袋に入れてある。さらにツトム自ら作った香辛料さえある。
ツトムの唯一の趣味である。
そこへ肉の焼く匂いにつられたか、リヨンが寄ってきた。
「すごい良い匂いがする」
「ああ、新鮮だからな。頃合いを見計らって食べててくれ」
「私は生でもいいんだがな。しかしツトムの料理は焼いてもうまい」
リヨンはそう言い焚火の前に座ると、串を一つ取り美味しそうにかぶりついた。
今のうちにと、ツトムは解体のスピードを上げる。
肉にかぶりつきながら見ていたリヨンは、ツトムに言った。
「ツトムは食べないのか?」
「ああ、後ででいい」
「……今一緒に食べよう。目の前で動かれると落ち着かない」
そう言ってツトムに枝に刺さった肉を一本差し出す。
それから、
「食べ終わったら私も手伝う」
そう言った。
ツトムは驚いてまじまじとリヨンを見た。
「高く売れるのだろう? お金は大事だ」
「あ、ああ。助かる」
ツトムは解体をやめ、リヨンの横に座って肉を受け取った。
そしてかぶりつき、
「さすがドラゴンの肉だ。今まで食った中で一番うまい」
頷いたリヨンと一緒に、もくもくと氷竜の肉を平らげていった。