リヨンと闇の種子6
大陸の北。
吹雪吹き荒れる氷原が次の行き先だった。
リヨンの先導で氷原を歩いていく。
オーガは寒さに強いらしく、防寒具などは特に着ていない。
その代わりツトムはガッツリと鎧の下に防寒具を着ている。
準備に時間がかかりリヨンが文句を言ったほどだ。
それから延々と氷原を歩いてきた。
次の種子を持った生き物まであと十キロほどらしい。
「しかしこう吹雪がひどくっちゃ戦うどころじゃないんじゃないか?」
「……どこかで休もう。晴れるまで」
リヨンが立ち止まったのでツトムが横に来る。
「了解! では雪でかまくらを作ろう」
「……かまくら?」
「ああすまん、えーと雪で簡易の家を作るんだよ」
「へえ」
まあツトムに任せれば万事うまくいくだろう。
リヨンは楽観的だ。
ツトムはさっそくかまくらを作り始める。
手慣れた動きで雪をブロック状に切り分け、リヨンが感心して見ていると、あれよあれよという間に家の形になっていく。
三十分もしないうちにドーム型のかまくらが出来上がる。
丁度大人二人が横になれるほどの大きさだ。
「ツトムが居て助かるな」
リヨンがぼそりと呟く。それを聞いたツトムは、
「そうだろうそうだろう。俺は使える男なのさ。もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「調子に乗るな」
リヨンはツトムの頭をこつんと叩く。
それからツトムとリヨンはかまくらの中に入り、入り口を軽く塞ぐ。
「じゃあ飯にしますか」
ツトムも魔法の袋を持っていた。しかもかなりの容量が入るものらしく、実にいろんなものを袋から取り出す。
魔道具の簡易コンロをまず取り出し、スープを作る。
それにパンをつけながら食べるというわけだ。
リヨンのリクエストに答え、肉が多く入っている。
以前襲ってきたロックバードの肉だ。
A級食材である。
リヨンは渡された熱々のスープをおいしそうに食べる。
「おかわりはまだあるから言ってくれ」
ツトムも自分の分をよそいながら言った。
そうして二人とも充分に食べ、お腹いっぱいになった。
外の吹雪はまだ続いている。
二人はそのまま横になる。
ツトムは魔法の袋から毛布を取り出しリヨンに渡す。
リヨンは受け取ると、眉を顰める。
「ツトムのがなくなるんじゃないか?」
ツトムは答えた。
「大丈夫。俺はこのまま横になるから。マントがあるからなんとかね」
防寒具、鎧、マントだ。
しかしそれではたいして休めないだろう。
「しかたがない。二人で使うか」
リヨンはそう言うと自分の体と一緒にツトムも毛布に入れる。
「ただし変なことをしたら殺すからな」
「へいへい、せいぜい気をつけますよ」
ツトムの背中に抱きつく形だ。
オーガの体温の温かさが毛布の中を温くする。
そうして二人は眠りについた。
***
朝、起きたら吹雪がやんでいた。
二人は簡単に昨日の残りのスープで朝食を済ませ、また歩き出した。
「しかしこんなところに住む生き物なんて一体どんな奴なんだ」
リヨンが答える。
「かなり大きい生き物だ。私たちの事にも気づいている」
「それって……」
ツトムは思った。氷原に居る大きな生き物。
そんなもの一種類しかいない。
「氷竜か」
リヨンが頷く。
「恐らくそう」
「またやっかいな相手だな」
氷竜は翼がない竜の一種だ。
人の居るところには近づかないため、半分伝説になっている生き物だ。
「まあ倒せれば一財産できると考えよう」
「そうなのか?」
ツトムは雪を踏みしめながら答える。
「ああ。どの部位も高く売れる。半分伝説の生き物だからな」
「へえ。それはいいな。……そろそろのはずなんだが」
「居ないな。あ、あれじゃないか」
ツトムが指さす方向を見ると、黒い穴がぽっかりと開いている。
洞窟だ。
二人は慎重に洞窟へと進む。
もういつ襲って来るかわからないほど近づいている。
洞窟にたどり着く。
ツトムは魔法の袋から光るガラス球を一つ取り出すと洞窟の中に投げ入れた。
ライトの魔法があたりを照らす。
「いる。この中だ」
リヨンがつぶやく。
「いくしかないか」
ツトムは剣を抜くとライトの魔法を剣に掛ける。
ツトムとリヨンは洞窟を奥へと進んでいった。