リヨンと闇の種子4
夜に更新できたら、もう一話アップしようと思います。出来ないかもしれません……。
ツトムはそのまま吹き飛ばされ、地面を何回もバウンドし、大きな木にぶつかりやっと止まる。
「時間切れ、か」
ツトムはそう呟くと、盛大に血を吐いた。
リヨンはゆっくりとツトムに近づく。
「私の勝ちだ」
「……ああ、お前の勝ちだ。俺はもう動けねえ」
リヨンはツトムの頭を掴む。
ツトムはレベル六の後遺症でピクリとも動けない。
すべてリヨンにされるがままだ。
リヨンは止めを刺すのに躊躇する。
何か忘れている。
大事な何か。
今それを思い出さずに止めを刺したら絶対に後悔することになる。
内なる闇の種子の言葉に耳を傾けず、リヨンはそれを思い出そうと眉間にしわを寄せる。
しばらくそうしていてから、ツトムの頭を掴んだまま、ぼそり、と呟いた。
「……ソウルアタック?」
リヨンの魔力が減り、ツトムの体からこぶし大の黒い塊が二つ抜け出し、宙に浮かんだ。
リヨンはツトムから手を離すと、その種子に手を伸ばす。
そして胸の前に引き寄せるとその闇はリヨンの胸の中に吸い込まれて消えた。
ツトムはくたり、とその場にくずれ落ちた。
リヨンの体を快感が押し寄せる。
リヨンはうっとりとその快感に身をゆだねる。
「……何だ、その呪文、持ってたんじゃねえか」
「…………今、思い出したのよ」
夢うつつのようなリヨンは、そう言うとその場を離れようとした。
ツトムがそれを引き留める。
「待ってくれ」
リヨンは気分がいい。
「何?」
「俺は二日は動けねえ。このままここに放置されると狼共に襲われちまう」
「だから何?」
「生きたまま食われるのは勘弁だ。俺をどこか無事に過ごせる所まで連れて行ってくれ」
リヨンは呆れた。
「今まで殺し合いをしてた相手にそれを言う?」
「ああ。藁にもすがるってやつだ」
そもそもリヨンが魔法を使えると初めから思い出していれば、殺し合いもしなくてすんでいた。
その引け目からリヨンはその男の言う事を聞いてもいいか、と思った。
昨日休んだ木のうろのような所を見つけたら、そこに放り込めばいいだろう。
リヨンはそう思うと、男の剣を鞘に戻し、肩に担いだ。
フルプレートアーマーを着ているが、リヨンにとってはたいして重さなど感じない。
「うおい。もうちょっと丁寧に扱ってくれ」
リヨンは効く耳を持たない。
次の闇の種子があるだろう方向にまっすぐ進む。
次はだいぶ離れたところにあるようだ。
リヨンは飛ぶように走り出す。
男の悲鳴があたりに木霊した。
***
ツトムと戦ってから一週間ほどたった。
ツトムは動けるようになってもリヨンから離れなかった。
当たり前のようにリヨンについてきた。
そしてなによりツトムの話は面白かった。
リヨンは皆と離れてから、人との会話に飢えていたらしい。
話は面白いし、料理もできる。
リヨンはツトムと一緒に旅をすることにした。