凱旋
聖王国シーサは燃えていた。
教会の礼拝堂に出た僕たちを待っていたのは、燃えているシーサ王国だった。
呆然と上空を見上げてる男に言った。
「何が起きてる!?」
悲鳴、喧噪、逃げ惑う人々。
城下町のあちこちから火の手が上がっている。
「デーモンだ。デーモンが攻めてきた。ここはもうだめだぁ」
男は両手で頭を押さえ座り込んでしまった。
デーモンだって!? 一体どうなっているんだ。
「ウリシュナ、どう思う?」
ウリシュナは人間体になっている。
ラフェ達レッドドラゴン達もだ。
「わからない。私が最後に覗いた時は地上に異常は見られなかった」
と言うと、ウリシュナはすぐに竜魔法で巨大な紺色の竜に変化した。
そして左肩を下げ、背中に乗るように促す。
「ちょっと上空から見てくる。ここからは各自の判断に任せる!」
僕はウリシュナの鞍に飛び乗る。
ウリシュナが羽ばたき、離陸しようとしたところにミオが飛び乗ってきた。
「ミオも行くにゃ!」
僕は頷くと、ミオは僕の後ろに座った。
ウリシュナが空中へ飛び上がる。
グレーターデーモンだ!
グレーターデーモンが口から炎を吐き建物を燃やしている。
あっちにもこっちにも。
火を吐き建物を燃やしているグレーターデーモンがいる。
僕たちはグレーターデーモンの方へ行こうとしたところを、
「まて」
鋭い殺気と男の声で止められた。
空中で話しかけてくる、だって!?
僕らはその声を掛けてきた方を見る。
浅黒い肌をした男だ。
黒いスーツにネクタイをしている。
なんて場違いだ。
しかし背中に蝙蝠の大きな羽をはばたかせている所が、この男が普通の人間ではないことを物語っていた。
僕はウリシュナの背でランスの柄を握りしめる。
ミオも立ち上がって臨戦態勢だ。
「おまえは誰だ!」
僕が少し苛立って言う。
はやく下に居るグレーターデーモンを倒さないと。
「我は魔神八王が一人、“傲慢”のグリフ。このまま放っておこうとも思ったんだがな。一族を滅ぼされてはさすがに見ているだけにはいかぬ」
僕はショックを受けて言った。
「魔神八王だと!? 三層のボスか、六層のボスという事か?」
三層は巨大スライム、六層はユウカが居た場所だ。
男はフッと笑い言葉をつづける。
「両方とも違うな。我は四層の支配者だ」
四層。四層?
僕は頭を回転させる。
そしてその事実に衝撃を覚える。
だめだ。四層を通った覚えがない。
どういうことだ?
「考えてもわかるまい。認識を誤魔化す魔法の罠を掛けさせてもらった。罠と言っても特に敵意の無い罠だからな。危険察知では分かるまいよ」
そんなことが出来るのか……。
「なぜ今それを言う? その様子だと僕がすべての魔神王を倒したと知ってるんだろう? なぜ、のこのこと僕の前に出てきた」
「我が一族を滅ぼした男を見て見たくなってな。ただそれだけよ」
「では逃げるというのか? 僕がこのまま見過ごすとでも?」
男は不敵に笑って言った。
「ああ、我も魔神の血が騒いでな。こんな子供がどうやって魔神王達を倒したかも知りたくなってきたわ」
男は続ける。
「安心するがよい。グレーターデーモン達には火を付けて回れと言ったが、人間は傷付けないように言ってある」
男は手のひらから黒いハルバードを出現させると、それを僕へと向けた。
「では行くぞ」
そして男は呪文を唱え始めた。