魔神迷宮37
カレンは焦っていた。
後続が次々と参戦してくれるのはありがたいのだけど、さすがに二百体のグレーターデーモンは多すぎる。
頼りのミオは、グレーターデーモン五体相手に善戦してるが、さすがに他まで手を回す余裕はなさそうだ。
むしろ、その状態からグレーターデーモンを時間が掛かりながらも倒していっているのは、さすがとしか言いようがない。
しかし一体倒すともう一体がすぐに穴を塞ぐように参戦して、常に五体を相手取っている。
逆に助けを求められてもおかしくない状況だ。
盾になってくれているドラゴン達も全身から血を流していて、倒れてしまうのも時間の問題だろう。
後続の皆もこちらに近づくことが出来ず、円陣を組んで戦っている。
ドラゴン達が壁にいない分、後続の皆の方が危ない。
さっきから何人も吹き飛ばされているのを見ている。
見るからに劣勢だが、オルターがボスを倒して参戦するぐらいしか打開策が見つからない。
しかしもう魔法使いたちも魔力がつきかけている。
もうオルターがボスを倒しても間に合うかどうか。
カレンが物思いに耽った一瞬の間に、ドラゴンの脇を抜けてきたグレーターデーモンがハルバードを振りかぶった。
カレンは硬直した。
もう避けられない。あれが振り下ろされたら私は死ぬ!
姫様ごめんなさい……。
思わず目を閉じた。
目を閉じたその瞬間になぜか森の匂いがした気がした。
しかしいくら待ってもその瞬間はやってこなかった。
カレンはおそるおそる目を開ける。
そこには剣をグレーターデーモンの首の後ろに深く突き刺したエルフがいた。
思わず声が出た。
「ティーリン!」
ティーリンはにっこりと笑うと、緑の闘気を身に纏いながら、グレーターデーモンの頭上を飛び回り、次々と首の後ろに剣を刺しグレーターデーモンを屠っていく。
と、レッドドラゴンを相手にしていたグレーターデーモン達が帯のような炎に巻かれ、燃え上がっていく!
エターナルフレアだ!
しかも同時に十本以上の炎の帯がグレーターデーモンを燃やしている!
マナだ!
こんな常識外れのエターナルフレアを唱えるなんてオルターのほかにはマナしかいない!
そして静かな歌声が、聞こえてきた。
この歌声は……アンリ!?
歌と共に光の波動が周りに広がっていく。
すると傷ついた者達が回復し、死んだ者たちすらも生き返って起き上がっていく。
さらにグレーターデーモン達が苦しみだした。
人間を回復させる呪文は逆にデーモン達には苦痛になるらしい。
そして光の弾丸が一直線に魔神王の方へと走り抜けていく。
途中に居たグレーターデーモン達を吹き飛ばしながら。
勇者アンフィだ!
カレン達はさっきまでの沈んだ心とは打って変わって、自分の気持ちが高揚していくのを感じていた。
勇者とその弟。
この二人に勝てない相手なんて想像もつかない。
だって二人は邪神ですら倒してしまっているのだから。