勇者とは
説明回です。
部屋に入ると、まばゆい光に部屋の中が照らされた。
上を見ると天井に光を放つクリスタルがあった。
とりあえずステータスプレートを見て見る。
職業:鍛冶師
うーん、アンフィのステータス見せてもらうと、ここが勇者になってるんだよね。
どういうことだろう。
姉さまが部屋に入ってきた。
「どう? 勇者になった?」
ステータスプレートをのぞき込む。
「……なってないわね。どういうことかしら」
考えてもしょうがない。わからないことはわかる人に聞こう。
「明日ちょっとウリシュナの所に行ってくるよ。ここからなら近いから」
姉さまは呆れた。
「古竜の所に行くのを、友達の家に行くみたいに簡単に言うのはきっとオルターだけでしょうね」
友達……まあ似たようなものだけどね。
部屋の中には僕の興味を引く鎧や剣が何個かあったけど、手に触れずに部屋を出た。
勇者専用の装備を手にするのは、まだ躊躇われたからだ。
***
「それはそうだろうね」
ウリシュナは紅茶を一口飲むと答えた。
僕の隣ではラフェが紅茶を飲んでいる。
今回はラフェに乗ってウリシュナに会いに来ている。
「オルター、君は勇者になったわけじゃないけど、限りなく勇者に近い存在ではあるんだ」
「どういうこと?」
「逆に聞くけど、勇者とはどんな存在だと思う?」
「ええと、光魔法を唱えられる人物?」
「そう、それだ。それが一番説明するときに楽な答えだ。しかし、本来の勇者の持っている性質と、光魔法は関係ない」
僕の頭は混乱した。光魔法は勇者とは関係ない?
「前に言ったよね。光魔法は神の使う魔法だって。実は光魔法を使える人間はわずかだが存在するんだ。君のようにコピー系の能力を持っていると手に入れることもできるしね。まあ、世界に一人いるかいないかだけどね。冒険者にでもならなければ、自分が光魔法を使えると気づかず埋もれていく場合がほとんどだけどね」
ウリシュナは身を乗り出していった。
「勇者と言う存在はね、人類の希望。闇の中に差す一条の光。どんなことがあってもあきらめない心を持ち、悪を滅する正義の存在」
ふんふん、と僕は頷く。
「世界は均衡を保とうとする。いいかい、魔王は反対の性質を持っている。正義の心が一切ないんだ。そうすると世界に正義の心が足りなくなる。その穴を埋めるために勇者が生まれる」
「……なるほど」
「君も結構な正義の心を持っているね。たぶん君の居た世界が落ち着いているからだろうね。でも君が勇者になることはない。なぜなら君はこの世界の住人ではないから。次に死んだとき、この世界に転生したら、この世界の住人として扱われるだろうけどね。まだまだ先の話だね」
そこでウリシュナは紅茶を一口飲むと、舌で唇を湿らせた。なかなか色っぽい。
「話を戻そう。勇者を判定するためには心を見ればいい。悪の心を持っていない人物。均衡を保つために生まれた存在。それが勇者だ」
「封印の扉は単に光魔法を使える人物ならだれでも勇者と認定しちゃうんだよ。あれは人間が作った物だからね」
僕は疑問に思った事を言葉にする。
「ステータスプレートは人間が作った物じゃないんですか?」
「うん、違う。あれはもともと神の物なんだよ。まったく同じ物を人間が作ってるんだ。ステータスプレートの職業の欄は、実は一個一個担当の神がその人を見て判定してるんだよ。あの仕事は大変だよ……。あれとか鑑定の中の人とか……。まだ私の今の仕事の方がましと思えるよ」
そ、そんな事情があったのか……。
「理解した?」
「はい」
「よし。続きは明日だ。まだ聞きたいことがあるだろう? お腹がすいたからごはんにしようか」
僕は頷いた。
それからウリシュナは艶っぽく言った。
「それとも、ごはんよりも私が先の方がいいかい?」