Call 8―俺とは合うのか?
千佳と30歳の結婚の約束をしたときは、俺はそんなに恋活にも婚活にも乗り気じゃなかった。
何せその話が上がったとき、俺と千佳は24歳だった。あと6年もあれば恋人なんていつでも出来るだろうと、全く焦ってもいなかった。
今だってまだ26歳。気にする必要はあるが、本当なら焦るほどでもない。
しかし状況が変わったんだ。
今のままでは俺は千佳にのめり込んでいく。
何としてでも食い止めたかった。
そして俺の中で起こっている千佳への気持ちが一時の迷いであると、確かめたかった。
俺は本格的に恋活・婚活に乗り出した。
俺に気がありそうな女を食事に誘ったりして。
顔が好みの女と手を繋いでキスをして。
名前しか知らない女を抱いたりして――。
気の合う相手といるときは楽しかったし、普通にその子に好感を持てた。
千佳のことなんかすぐにどうでもよく思えたし、頭から消えていることも普通にあった。
要するにそれは、俺が千佳に惚れているのかも知れないなどというのが、俺の気の迷いだったと言うことだ。
そう思うと気兼ねなく目の前の子に集中できて、その子と付き合うかどうかじっくり悩んでいられた。
しかしその幻想は、千佳の電話によってあっさり破られた。
千佳から電話が来るだけで、俺は簡単に舞い上がる。
だがその直後に彼氏の自慢話をされて、適当に相づちを打つだけで何も言えず、ただ苛立ちばかりが募って、自分の気持ちを何度も自覚させられる。
彼氏との差を思い知らされる。
こんな気持ちに振り回されたくないのに――。
俺はますます他の女に逃げた。
しかし、千佳から電話が来た直後はあいつのことばかり考えさせられて、最悪だった。
千佳の唇はどんな味がするのだろうか。
もう彼氏とは寝たのだろうか。
俺の見たことのない裸を、惜しみなく彼氏の前でさらけ出しているのだろうか。
目の前でよがっている女のように、彼氏に抱かれて俺の知らない顔を浮かべているのだろうか。
彼氏とは身体の相性が合うのだろうか。
俺とは合うのだろうか。
そんなことばかりが頭をよぎる。
正直抱いている女の顔すらきちんと認識していない状態で、クソ最低だった。
そんな悪循環に嵌っていったせいか、いつの間にかプライベートは荒れていって、そして仕事でミスを犯してしまった。




