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Call 4―結婚するなら身体の相性は大事でしょ

 その後も知佳は酔っぱらって俺に電話を掛けてくる。



 その先輩と上手くいきそうだとか、やっぱり彼女持ち相手は厳しいとか、そんな内容の話がメインになった。電話がかかってくるたび、俺はちゃんと相談に乗ってやって、どうしたらいいああしたらいいとアドバイスする。

 正直な話、俺にこんな電話かけてくる暇あるなら、その先輩との時間を大切にしろよと言いたいところなのだが、案外奥手な知佳はなかなか積極的に行動に移せずにいた。





 それから更に半年が過ぎた。

 今夜も知佳から電話がかかってきた。


『大ちゃん、こっちの生活寂しいからたまには遊びに来てやー』

「はぁ? 例の先輩はどうなったんや」

『どうもなにも、彼女が別れる気ないらしくて望み薄そうやぁ』


 どこからかけてるのか知らないが、その場で知佳が項垂れるのが受話器から伝わってきた。確かに、彼女持ちの男を略奪っていうのは、円満に進むことじゃないし、揉めることも多いだろう。少なくとも、奥手な知佳には厳しいはずだ。


『大ちゃんこっち寂しいわぁ、ほんま遊びに来てよ』

「そうは言われてもなぁ……」


 と、そこで俺は先日コンサートライブのチケットが当たったことを思い出した。ちょうどペアチケットになっていて、誰を誘うか迷っていたのだが、このアーティストは確か知佳も好きだったはずだ。知佳を誘うのがちょうどいいだろう。

 そう思って俺はそれを提案してみる。


『コンサートライブ? え、行きたい!』

「ほんま? じゃあ行こや。来月やから」

『うん、行く! あ、でも待って大ちゃん。あたし泊まるとこないわ』


 言われて確かにと思う。

 知佳の同級生はみんな地方へ就職して行って、こっちにいる知り合いと言えば数人だけだ。そのうち無遠慮に付き合えるのは俺くらいだろう。


 俺はあんまり考えずに答えた。


「そんならうちに泊まってったらええやん」

『え! それ、ええの?』

「何で?」

『いや、大ちゃんちに泊まるってなったらそういう展開になるんかなって思って』


 知佳の発言に俺の思考が停止する。


「アホか! 何でお前とそういう展開にならなあかんねん」

『えーだって仮にも6年……いや、もう5年後? に、もしかすると結婚しちゃう関係なわけやん、あたしら。でも5年後に結婚するとして、その時になってお互い無理でしたーなんてなるのイヤやん』

「はぁ、お前は何を言いたいねん」


 知佳の言いたいことにあまり良い予感がしないのだが、俺はとりあえず聞き返すことにした。

 そして、俺の予想をはるかに上回る回答が返ってきた。


『え、だって結婚するにしてもエッチの相性って大事やん』


 だから結婚を決める前にきちんとそれだけ確認しておきたい、だと。

 俺はこいつが本当にいかれたのかと思った。


『結構これ、大事やで? それで離婚する夫婦も多いんやし、子供作るんやったらそういうのない方がええやん』

「いや、分からんでもないけどお前……」


 仮にも好きなヤツがいるっていうのに、どうしてそういうことを考えているのか、俺はまったく理解が出来ない。俺は呆れ果ててしまった。


「別に、知佳とそんなことするために泊まるかどうか聞いたわけちゃうんやけど」

『うーん、そうやろうけどさ』

「それに冷静に考えてみ? 俺が知佳とヤるとか、想像しただけで爆笑しそうや。勃つもんも萎えるわ。萎えまくりや」

『うわっ言われてみればそうやな。なんか急に気持ち悪ーなってきたわ! ええわええわ! 別に大ちゃんとそんなんせんでええわ! 想像したら吐きそうになってきたわ!』

「お前な……」


 一気にトーンダウンしてうげうげと受話器の向こう側で言う知佳に、俺の中でもやもやが広がる。確かに知佳を抱くのは萎えると言い出したのは俺の方だが、そもそも5年後の結婚の話もエッチの相性の話も、知佳から一方的にしてきた話だ。そのくせ吐きそうだと言いやがる。


 沸々と苛立ちが募るのが、自分でも分かった。


「じゃあそのライブも別のヤツ誘うわ」

『え! 何で?』

「だって気持ち悪いヤツと一緒におったってしゃーないやろ?」

『ちゃうって、それは言葉のあやというか――』


 そこまで言いかけて、知佳がふぅと息を吐くのが聞こえてきた。


『うそうそ。こんな酔っぱらいに構ってくれる大ちゃん、好きやよ』

「はいはい。俺も俺も」

『うわーすごいあしらいようや』


 それから二、三話して電話を切った。

 知佳は相変わらず終始へらへらした様子で、いつもの調子で「眠いわ」と言って切っていった。そんなのんきな様子にも、なんだか今は苛立ちが募る一方だった。


 本当に一方的で身勝手なヤツ。

 言いたい放題しやがって。

 そもそも知佳の発言にこんな苛立つ自分にも腹が立ってくる。


 まるでこれでは、俺が知佳を意識しているようではないか。


 そう考えて、自分の気持ちに更に苛立ちが増した。

 ただでさえ知佳には狙っているヤツがいるのだ、意識するだけ無駄だ。そしてその考えすら無駄だ。

 だが、この状況はフェアではない。何せ、俺には他に狙うヤツもいないのだから。



 だから俺はこのとき決心した。

 彼女を作ろう。

 例え彼女が出来なくても、次電話がかかってきたらどう言うかを。

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