Call 1―30歳になっても相手がいなかったら結婚しよう
『じゃあさ大ちゃん、30歳になってもお互いに相手おらんかったら、結婚しやへん?』
それは唐突に出された知佳からの提案。
大学時代からの腐れ縁である知佳は、今は就職して地方の会社に勤めているのだが、これがまた知佳のお眼鏡にかなう男がいないらしく、時折飲んで酔っぱらうごとにこうして俺に電話を掛けてくる。
今回も「こっちじゃいい人おらんから都会の男、誰か紹介して」とかいうことをちょうど話していたところだったのだが、まさかこんな提案してくるとは思ってもみなかった。
「……何それ」
『だってうちらもう24やで、30歳まであと6年しかないやん? なのに二人ともおらへんってそれ、結構ヤバイ状況やで。やからお互いの救済措置のために』
「はぁ、救済措置。でも冷静に考えてみ? 俺らが結婚って、他の同期にしたらネタやぞ。爆笑しか生まれやんやんか」
俺と知佳は元々大学のサークルで知り合ったのだが、二人ともサークル内ではギャグ要員だったのだ。俺らが恋人になるとか夫婦になるとか、誰もが予想もしてないだろうし、そもそも俺自身も考えられない。
確かに知佳とは気軽に何でも話せるから楽だけど、知佳に対して恋愛感情があるかと聞かれれば、皆無だ。
それは知佳も同じだと思っていたのだが。
『そうや、爆笑やろ? っていうか爆笑通り越して恐怖やろ? やから6年後までに相手作っとかへんとこいつと結婚しやなあかんくなるっていう焦りをもとに、お互いに婚活に励むと言うことでどうやろ?』
最初に言っておくが、確かに俺には今恋人がいない。しかし、だからといってそれを知佳に愚痴ったりしたことは一度もない。そもそも今彼女が欲しくて欲しくてたまらない、などという気持ちすら抱いていなかったのだ。
だから知佳のこの提案はかなり一方的なものだったのだが。
俺は思わずくすりと笑ってしまった。
それは確かに知佳の言うとおりこいつと結婚するのは恐怖だなっていう気持ちと、なんだかこの“救済措置”が面白いという気持ち。
「いいよ、じゃあ俺と知佳が二人とも30になっても相手おらんかったら、結婚しよう」
こうして俺らの契約が結ばれた。
この契約通りにならないように知佳は今住んでいる地方での恋活婚活に勤しみ、俺も同様に恋人を作ろうと積極的になる――はずだったのだが。