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万里小路貞子さま

1533年(天文2年)10月 周防国 大内館 ~ 摂津国 大坂城。


綾小路 興俊 16歳


大内館に至るとお屋形さまが、


「済まなかった。済まなかった。」


と涙ながらに私を出迎えてくれました。

私もほだされて、


「只今戻りました。お屋形さま。」


と笑顔で答えたんですがそんなほっこりした空間はお屋形さまと私の間だけです。

私の家臣もお屋形さまの周囲も能面の無表情の顔です。

特に陶殿とか内藤殿とか本女中さまとか無表情超えて絶対零度?

みんなどうしたの?

怖いよ、顔が、、、

そんな気不味い雰囲気の中ですっと本女中さまが私の前に出られて跪くなり、


「綾小路さまにはご生還祝着至極にございます。この度の大内家の不始末は幾ら詫びても済まぬ事とは存じますが是が非にもご寛恕を請いたくけじめを付けさせて頂きます。」


と言うなりご自分の守り刀でスパッと、、、

止める間も無くスパッと落としちゃったんですよ。

指を。

二本も。

どこの本職さんですか?

これから本女中さまじゃなくて姉御って呼ばなきゃいけませんか?

多分、私が指を落とした事を誰かに聞き知ったんでしょうね?

すぐさまご典医を呼んで処置して頂いたけど、私が呼ぶまでみんなフリーズ状態。

唖然ってこういう時に使う言葉なのね。

姉御は男前すぎます。

典医から処置を受けている間も痛いなんて一言も漏らさず、ただ私の顔をじっと見ているのですよ。

笑顔で対応すれば無かった事に出来ないかなぁと希望していたんだけど、もうこうなったら降参するしかないじゃない。

ただ一言。


「許します。」


と言うだけで精一杯でしたよ。

綾小路家は公家です。

公家としてなら大内家より上だけど、武士としてはお屋形さまの下。

だから武士もののふの真似事をするならお屋形さまの庇護の下で。

そんな逃げ場を姉御に塞がれてしまいました。

公家も武家も関係がない。

たった一言で私はお屋形さま?いや、大内義隆殿の上に立ってしまった。

そして皆は次の言葉を待っている。


「私は大内義隆殿を許します。

陶興房!内藤興盛!」


陶殿と内藤殿が「「はっ」」と歯切れ良く答えます。


「勅は降っています。

大内義隆殿を大将とし、伯耆、備中、伊予、土佐より以西の勤皇家に命じなさい。

『我らに集って賊を悉く討て』と。

そしてこう伝えなさい。

第六天魔王波旬が命を下したと。

それで従わぬ家は放置で構いません。

お主上の宸襟を騒がす東国の賊どもを征した後に私が直々に誅滅致します。」


お二方が「ははぁ~」「畏まってございまする。」などと言っておられます。

義兄上があうあう言っておられますが、お嫁さんがあんな男ぶりが良くては私でもあうあうだよ。

もうね。

二人揃って正座させられて説教喰らった気分ですよ。

いっそ私も義兄上のようにあうあう言っていたかったんだけど、、、

許しますの一言を言わない義姉上が死んじゃうか、私と義兄上の二人とも処分されて義姉上が当主に座って朝廷も何もかも全て平らげてしまいそうだし。

もっとも怖くてあうあうも言えなかったけど。

遠くで「いくさじゃ!いくさじゃ!」と怒鳴ってる声が聞こえます。

気分的にはこれまで同様、義姉上が大将の方が良い気もするけど、それだと大内家が本当に無くなってしまうし。

義兄上頼みますよ。

ご自分の居場所はご自分でしか作れないのですから。


陶殿が私が畿内へ行くに当たって陶家の戦船を貸してくださいました。

名前は「富田弥増丸とんだいやまさまる

陶家の歴代大将船の名前だね。

大きさは千石安宅船だけど乗ってる兵士は全て陶家の郎党なんだよ。

精鋭中の精鋭。

こんなの借りたら陶殿が戦に困らないんだろうか?

まぁ~要らないなんて言えないから大人しく借りるけど、、、

そしてこの船の大船頭(艦長)は右田隆康みぎたたかやす殿。

彼は加賀の右田興就殿の弟さんです。

興就殿が加賀から戻って来られないから隆康殿は右田家の跡取り息子の筈なんだけど陶殿の私に対する入れ込みようが怖いです。

そう。

ここまでは陶殿が特別だと思い込んでいたんです。

厳島で船に乗った後、寄る湊、湊、どこに着いても軍船や精兵、兵糧に軍資金、それどころか城や領地、息子、娘、姉、弟、妹、、、そして妻から母まで皆が差し出してくる。

それも喜んででは無く怯えてです。

一体どんな噂が流れてるのか?

怖くて確認できません。

でも怖がらずキチンと理由を聞くべきでした。

備中や備前で反乱を起こした浦上氏やその他の方々の首が届けられても、まぁ~形勢が決まってしまえば潔く腹を召すのも珍しい事では無いので気にしませんでした。

でも、大坂に着いた傍から管領の細川さまや畠山さま、そして義兄の公方さまが私に人質を差し出してくるってどう云うこと?

おまけに山城と近江の国境で戦ってるはずの飯富さんが誉めてくださいと言わんばかりの満面の笑みで六角殿とか浅井殿とか朽木殿とかの首を並べ始めて首実検を始めるのはどういう事でしょう?

いったい何が?

お・き・た・の・?







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