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Explorer Baby  作者: maria
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三章

 私は、受験勉強を通じて、社会のことが少しずつわかるようになってきた。私が病院のなかで種々の欲望を肥大化させている時も、その前も、その後も、社会は忙しなく回り続けていたのだ。私はそれらを頭にぱんぱんに詰め込みながら、精いっぱい賢しげな顔をして、幾つかの大学の受験に応じた。

 大勢の同世代のなかにいると、私はほんとうに健康な人間になったのだと改めて実感されて、「ねえ、私のこと、どう見える?」と聞いて回りたくなった。きっと誰も病院で生まれ育ち、学校に行っていないなんて答えないはずだ。それに何せ同世代のなかに投じられる経験なんて今まで一度も無かったので、同年代の受験生たちの青白い顔も愛おしく、いちいち肩でもたたいて励ましてやりたくなるのだ。特に素晴らしかったのが、学部が数多あり倍率のある、とにかく大勢の受験生が集う大学の受験だった。人ごみのなかで私は「さあ、がんばりましょうね。」と誰それ構わず微笑みたくなるのだった。お蔭で楽しく最後の教科まで受けることができた。その前日と、さらにその前々日に行った大学はあまり受験生が多くなかったので、窓の外から鳴き続けるカラスの言語活動の解読を試みるはめになったり、また、机上に「I LOVE TSUYOSHI」と書かれていたので、誰がどのような契機でこの文言を刻んだのか想像を逞しくするはめになったりしたものだった。

 その結果、五つの大学から不合格の手紙を、同じく五つの大学から合格の手紙をもらうこととなった。私はどうしたものかとママに尋ねた。ママはマジシャンのような手つきで、一つの大学の合格通知をひらりと取り上げ、「これよ。」と言った。それは市内にある、一番家から近い大学だった。しかも、見渡す限りいちばん受験生の数が多く、そのお陰で力溢れ、合格になったのであろう大学だった。「ここなら一人暮らしはいらないし、まりあちゃんでも十分に通えるわ。それに、何とかっていう有名なバンドもこの大学の出身だって言うわ。」バッハかパガニーニぐらいしか聴かないママは、私が興味を持てるであろう最大の知識を誇らしげに語った。でもそう言われれば、そこしかないような気もした。「わかったわ、私はT大学の学生になる。」と宣言し、そして、私は念願の大学生となった。

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