第5話 なんという無茶ぶり! そして・・・。
うぅ! 胃が痛い! 侍女さんお願い胃薬をください!
ついさっきまでパパンとお話をしていました。
内容は「野盗退治に追随してこい」とのこと。
おわかりでしょうか?
五歳児に刃傷沙汰を見学してこいと言ったんですよ?
いくら戦国乱世だからといって教育上よろしくないと思うのですが?
こちとら喧嘩はしたことはあっても殺し合いなんざしたことがないチキンな日本人なのであの手この手で断ろうとしました!
が、すでに決定事項ということで各部署に通達済みとのこと。
後は準備が整い次第出立。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!
何でここまで選択の余地がないの!?
あり得ないって!!
ブラック企業も真っ青だよ!!
そしてとうとう出立の日になりました。
あのねぇ・・・、この日が来るまで毎日が本当にしんどかった・・・。
やれ装備はどうするか、誰を側近として配置するかなど「そっちで決めなよ・・・」という内容を俺が判断して決めました。
全部。
もう一度言いますよ。
ぜ・ん・ぶ。
阿呆かぁ!!
なんのための参謀達だぁ!
やれ兵糧はどうするか、本営を何処に置くかなどまで俺に聞いてくるなよ!!
鳳雛先生の知者チートがなければ頭がアボンしとるわ!!
おかげで俺の株が天井知らずで爆上げとのこと。
嬉しいやら嬉しくないやら・・・。
そして、お馬にまたがりパッカラパッカラ行軍しております。
「しかし、フレデリック様は泰然としておられますな・・・」
声をかけてくれたのはガゼルさんというベテランの騎士さん。
実戦経験も豊富で文官の仕事内容も理解している優秀な人材。
元々は長兄付きの騎士だったそうだが「諫言が鬱陶しい!」という理由で閑職に追いやられたところを俺がスカウトしました。
他にもバカ(イフェリウス)に付けられたがために日の目を見ることが出来ない有能な人材を発掘して俺の幕僚下に加えました。
本来であれば弱点となるべき部分を補佐するはずの有能な家臣が仕えるべき主が無能すぎてその才を発揮することが出来ない状態。
しかも自分に都合のいいことを言う家臣を重用するというアホぶり。
なので俺の誘いを二つ返事で受諾する家臣が続出。
もちろんパパンの許可は得ています。
バカ(イフェリウス)はせっかくの有能な人材がいなくなる事を「五月蠅い奴らがいなくなって清々する」などとアホな事を言っておりましたが・・・。
・・・お前、将来本気で王様やる気あんのか?
・・・ともかく俺が泰然としている理由は「やれるべき事はやった」ということと「優秀な家臣団を結成することが出来たからだ」ということをガゼルさんに伝えると苦々しい顔をする。
「その期待に応えねばならないのですが・・・」
まぁ、わかるよ。
他の家臣達も似たような状態だもん。
何せ今回の討伐の指揮官はイフェリウス(バカ)の息がかかった奴だもの・・・。
はてさて、どうなることやら・・・。
案の定だよ・・・。
「類は友を呼ぶ」という言葉を今この瞬間ほど理解したときはないね。
イフェリウス(バカ)の元にはバカしかいない。
本営設置に「これ以上はない」という条件の場所に予定どおりに到着したら平気でそこを通り過ぎやがった!!
「なんで!」って聞いたら「野盗どものアジトは判明しているので今日中に片をつける」とのこと。
・・・・・・・・。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!
途中途中で休憩を取ったといえども兵達は行軍しっぱなしで疲れているから休ませなきゃいけないって!
食事だって準備に時間がかかるって!
何より野盗どものアジトがそう簡単に判明しているのが怪しいって!
一回軍議を開くべきだって!
なのにこの指揮官は俺の事を鼻で笑いやがった!
本当にどうなっても知らねぇからな!!
アジトは少人数しかいませんでした。
生き残りに聞いたところ留守番をしていたのは最近になってから野盗団に入った奴らばかり。
このアジトもついこの前完成したばかり。
頭と古参の連中は「狩り」に出かけたとのこと。
これ、狩りの標的は俺たちだよなぁ・・・。
夜の炊事って大変なのです。
暗くて見えないから。
あの後、本営設置場所まで戻ってきたがもうとっぷり日が暮れている。
アホ指揮官は討伐が空振りに終わってイライラしているせいか準備に手間取っている兵士に当たり散らしている。
準備に手間取るに決まっている。
だからあれだけ言ったんだよ。
食事の準備には時間がかかるって。
こっちの忠告を無視したがためにこんな風になったんだろ。
アホ指揮官の顔がランプに照らされているせいかみるみる赤くなる。
それでも俺が食している物を見て溜飲が下がったのか薄ら笑いながら去って行く。
温かい食事を取るため炊事を担当する兵を急かしている。
ちなみに俺が食っているのは固いパンと水と干し肉。
そんなアホ指揮官の行動を視界に納めながらガゼルさんをはじめとする近習たちに振り返りながら指示を出す。
今夜中に野盗団が仕掛けてくるからさっさと食事を終わらせて交代で休みを取るぞ。
ダメだ。
どうしても眠れん。
完全武装して天幕からモゾモゾと這い出すとガゼルさんが出迎えてくれた。
ちょうどガゼルさんが見張り番とのこと。
「気が昂ぶって眠れませんか?」
この人も本当にマメだよねぇ。
俺なんかのこと気遣ってくれるんだから。
まぁ、昂ぶると言うより不安だね・・・。
そう言うとガゼルさんは不思議そうな顔をする。
何せ五十の野盗団に五百の討伐隊を出したのだから負ける要素を見つけろというのも無理もない。
でも、考えて欲しい。
彼らは俺たちに空のアジトに誘い込ませるために虚報の計略を使っている。
その為に夜まで行軍するという愚を犯してしまった。
討伐隊は最悪、夜戦という彼らの得意分野を疲労困憊の状態で受けねばならない。
そして勝利条件が俺らは討伐完遂でそれがなるのに、向こうはアジトを移して逃げ切れれば勝ちなんだから俺らと一戦やる必要性は無い。
それでも一当てして討伐隊に痛い目を見せたら今後も箔がつくってなもんだろ。
これらのことをただの野盗団が考えつくことか?
きっと隣の神聖帝国の生臭坊主どもの入れ知恵じゃね?
そう言うとガゼルさんの顔が驚きに変わる。
更に付け加えるなら野盗団の規模が本当に五十なのかということだ。
俺らを誘い出すために普段から少数で行動して大物が掛かったところで一家総出で「狩り」をする可能性も捨てきれねぇし。
等々、ガゼルさんと話しているとドサリという何かが倒れる音が微かに聞こえた。
「敵襲! 野盗どもの襲撃だ!」
他の見張りからの襲撃の警告が上がるが遅すぎる!!
見張り! 何やってたの!
火矢を放たれ天幕がどんどん焼かれていく!
気配でわかる。
すっかり囲まれている。
つまり囲めるだけの人数がいるって事だ。
何が五十の小勢だよ!
こちらと同数かそれ以上の「大野盗団」じゃないか!
そして場違いな子供は当然目立つ。
生け捕って身代金を請求するつもりなのか顔に下卑た笑みを浮かべている。
迫ってくるのは三人。
体が勝手に反応する。
ボッ!
そんな効果音が聞こえてきそうなほど空気を振るわせて槍の突きが放たれる。
先頭を走る野盗の喉笛に穂先が突き刺さり首が千切れ飛ぶ。
それを見た後続の野盗が呆気にとられて足を止める。
もちろんそんな隙を逃すわけは無く二連続で突きを放ち更に二人を仕留める。
ガゼルさんの方も襲ってきた野盗二人を大剣で切り捨てている。
お互いに頷き合い味方をまとめながら戦場に身を投げ出した。
乱戦状態のために下手な魔法が使えない。
味方を巻き込んでしまう。
荷車を横倒しにしたりして陣地を作って応戦することにした。
運が良ければここで合流できるだろう。
悪ければ野盗どもに各個撃破されて終わりだろう。
ちなみに俺の指揮下に入っている騎士や魔法使いは無事とは言えないが全員この仮設陣地に合流している。
そうしているうちに周りが静かになった。
戦いの喧噪が何処にも無い。
そこに声がかかってくる。
「残っているのはお前達だけだ。投降しろ。見たところ百人ほどしかいないようだがその数で千人の相手は無理だろ。無駄なことはやめておけ。お仲間は全員死んだぞ?」
やっぱり俺たちは踊らされていたんじゃ無いか!!
だが、この言葉で俺の中でも踏ん切りがついた。
巻き込む味方がいないなら魔法打ち放題じゃね?
俺と数人の魔法使いが頷き合う。
俺の合図とともに矢が放たれる。
「そうかい! そんなに死にたいならお望み通り殺してやるよ!」
そうして目を爛々とさせた野盗団に火球の魔法や放電の魔法などいろいろな種類の魔法が放たれる。
密集していたために放たれた数々の魔法で一瞬にして大野盗団は二百人近くを仕留めることが出来たようだ。
そこへ弓矢による攻撃を受けて更に被害が増加する。
そんな中、頭と思われる人物の声を俺の耳が拾う。
「なんとして奴らに神罰を下せ!」
裏で神聖帝国が暗躍しているんじゃ無くて神聖帝国が直接仕掛けているじゃないか!
俺が生け捕られたらどんな条件付けられて属国扱いをされるかわかったもんじゃねぇ!!
下手すりゃ見殺しにされるかもしれん!
何より俺の幕僚下に入ってくれたせっかくの家臣団をここで見殺しになど出来ん!
というわけで強力な魔法、火炎旋風を奴らのど真ん中に放ちました。
その後狂信者と化した大野盗団改め神聖帝国の侵略者達を追加で雷の嵐など強力な魔法で仕留めました。
片がついたのは明け方。
本営はボロボロ。
はっきり言って更地に近い。
結局残ったのは俺と俺の幕僚下に入っている百名足らず。
そして俺はというと盛大にリバースしております。
今更ながら手に人を殺した感触が甦ってきて気持ち悪くて仕方が無い。
胃の中の物を全部戻しても吐き気が収まらない。
胃液すらも吐き出した。
今は戦国乱世。
いつかは来ると思って覚悟は出来ていたつもりだったがまさか五歳で人殺しを体験する羽目になるとは思わなかった・・・。