幕間 滅ぶもの 滅ぼすもの
厳かな雰囲気の神殿の前に一人の男児がたたずんでいる。
男児の名はフレデリック=ケテル=ロマリア。
ロマリア王国の第三王子である。
よりにもよって神聖帝国内の秘匿された神殿に乗り込もうとしていた。
見張りの番兵はすでに切り伏せられている。
その数おおよそ五十。
フレデリックの体から火の粉が舞い上がり始め陽炎が立ち上る。
瞬間、天に届かんばかりの火柱が上がる。
光冠である。
100万度を超える熱量は死体を瞬時に蒸発させて神殿入り口をごっそりと溶解させている。
それだけではない。
フレデリックの手にある炎の剣が膨大な熱量を発し始める。
それを無造作に横薙ぎに振るう。
生じたのは太陽風。
これにより地面はえぐれ神殿の壁や屋根は吹き飛びそして滅却されていく。
この神殿に詰めている番兵達はこの太陽風による攻撃でほとんどが死に絶えてしまった。
フレデリックが行く先々では破壊の限りが尽くされた。
何もかもが焼かれ、溶解し、蒸発し、跡形も残らない。
塵一つすら残すことは許さないと言わんばかりである。
ヒュペリオンから受け継いだ太陽神の権能が存分に発揮されているからだ。
そして大聖堂へ辿り着くとフレデリックの口が凶悪に歪み今まで以上の熱量が纏わり付き始める。
そこのは一人の美女が宙に浮いていた。
だが、顔が引きつっている。
『こ、ここを唯一神の神殿と、我が顕現の場と知っての狼藉ですか!?』
焦り、恐怖、色々な感情が交わり平静さを装えていない。
もちろん声の主はフレデリックではない。
宙に浮いている美女のものである。
フレデリックの凶悪な笑みはいつの間にかなくなり代わりに侮蔑の視線が美女を見据える。
「百も承知の上だよ」
そして再び凶悪な笑みを浮かべる。
「化け物」
化け物。
この言葉を聞いた瞬間に美女の顔が大きく歪む。
そして大聖堂にフレデリックの笑い声が響き渡る。
「くくくくく、俺の目に映っていないと思っていたのか? 右腕が三本、左腕は二本、膝が二つもある左足に膝のない右足、二つある右目に四つの左目、おぅおぅ、目玉が六つもありゃさぞかし視野も広かろう。その視野に自分の姿は映っているか? 魔力が飽和状態な為にブクブクに太ったそのみっともない腹、左右で明らかに違う大きさの乳房。そんな姿でよくも神様を自称できたもんだな?」
『だ、黙れ!』
それでもフレデリックの口は止まらない。
「だいたい、唯一神の後継に選ばれた双子の姉を嫉妬から呪い殺して姉のふりしてその後釜に座ろうというのだからスゲぇよアンタ。もっとも? 魂の霊格が足らなすぎて膨大な魔力を受け止められずに醜女呼ばわりも憚る化け物になっちまったけどな?」
『黙れ!!』
それでもフレデリックの侮蔑の笑みは消えない。
むしろより一層その色合いを強める。
「まぁ、そんななりでも唯一神の魔力を受け継いだんだから卑しい卑しい双子の妹様でも先代を呪殺出来たわけだ? その代わり神の権能を受け継ぐことは出来なかったわけだがな」
美女は憤怒の表情を浮かべフレデリックに向けて右手を掲げる。
黒い何かがフレデリックを中心に渦を巻く。
『神を愚弄した神罰を受けるがよい!!』
だが、それらは力を行使する前にフレデリックの雷霆により打ち砕かれ霧散する。
『な!?』
それだけではない。
フレデリックの体から稲光が発生して部屋を縦横無尽に稲妻が走る。
そして紅炎が大聖堂を爆砕する。
そこに現われたのは地下への入り口。
美女はすでにどこにも居ない。
フレデリックはその入り口に歩みを寄せる。
「てめぇは多くの命を弄んできたんだ。償ってもらうぞ・・・!」
地下は脇道も何もない一本道だった。
その先には部屋が一つあるだけ。
そこにはフレデリックが見た異形の化け物が居た。
化け物はありったけの念を込めた呪殺を行おうとしたが効果は現れなかった。
唯一神は事ここに至りやっと自分が殺される側だと認識した。
故に次の行動は速かった。
命乞いである。
『お、お前を教皇にしてやろう! この世で第二の存在として君臨出来るぞ! 美女も! 金も! すべて思いのままだぞ!』
フレデリックがこの言葉を聞いた瞬間表情が抜け落ちた。
完全な無表情となった。
朱鳳刀と炎の剣を構え全知全能の雷霆を全身、そして構えた武器に纏わせる。
そしてヒュペリオンから受け継いだ太陽神としての権能を発現させる。
「ほんとお前面倒くせぇよ。本気で助けてもらえると思ってるのか? 頭の中湧いてんのか?」
一歩。
「継承の修行を懸命にする姉と享楽に耽る妹とじゃ雲泥の差が生ずるよな? その差は自業自得だろ! なんで嫉妬に狂うんだよ!」
一歩。
「んで? 姉の努力を掠め取ろうとしてそんな化け物になった訳か? ざまぁねぇ!」
一歩。
「最後には先代の神罰を食らって継承の間から出ることが出来なくなったわけだ?」
一歩。
「長い時間ここで過ごしたんだろう? 苦しかったろう? 悲しかったろう? いい気味だ! あぁ! 俺は封印なんてヌルいことはしねぇよ? きっちり殺してやる。生まれ変わりも出来ねぇように魂まで粉砕してやるよ? 嬉しいだろう? ありがとうって言っていいんだぜ?」
唯一神は何もしなかったわけではない。
呪術以外の魔法も行使してみたが発動すらしない。
とうとうフレデリックは唯一神の目と鼻の先まで詰めてきた。
ドス
炎の剣を胸の奥深くまで突き刺す。
肉体を貫通して背中に剣が現れる。
ザシュ
朱鳳刀で腹部を横薙ぎにする。
腹の半ばまで切断する。
『ぐ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
二振りの刀剣からは雷と炎が解き放たれる。
それらは青白い火となって唯一神の体を包む。
終末の焔。
何もかもすべてを焼き尽くす火。
現世にあろうと幽界にあろうとすべてを燃やし尽くす。
魂すらも。
『た、助け・・・!』
「お前には生きる権利はねぇ! 滅びろ!」
フレデリックのこの言葉を契機に焔が勢いを増す。
雷霆が四方八方へ放たれる。
光冠。
紅炎。
そして輪のように太陽風も放たれる。
そこには武器を構えたフレデリックだけがいた。
何もかもがなくなった。
この日神聖帝国内に巨大なクレーターが出現した。
神殿も唯一神も塵一つ残さずに消滅したのだ。




