第16話 炎の蛇
レーシュ公爵領の西部は他の地方に比べて遙かに過ごしやすい。
土も乾燥はしているが水源さえ確保できれば豊かな大地として甦るだろう。
そう、確保できれば。
問題は水源たる川が干上がっていること。
その源流と思われる場所にたまに巨大な火柱が立ち上がっている。
最初は噴火かと思ったがどうやら違う。
火山性地震が全く無いのだ。
噴火による火山灰も見られない。
あれこそが超越の存在なんだろうなぁ・・・。
最初いた場所から随分と火柱に近い場所まで来ると状況が一変した。
土が無いのだ。
森林とかも無い。
あるのは岩石やら砂っぽいモノ。
これって火山砕屑物だよな?
火山活動が無いのに・・・?
一体全体ここで何が起こっているんだ!?
一度引き返して地元の人たちから詳しく話を聞く必要があるな・・・。
ガゼル、一度引き上げるぞ!
地元の人たちが言うにはあの火柱が出現したときに巨大な土の波が押し寄せてきたそうだ。
畑や家々、森林とかも埋め尽くされて多くの人が亡くなったとのこと。
土石流か?
でもそれだと火山砕屑物の存在理由にならない。
あるとすれば火砕流だが火山が存在しないのだからそれは無い。
やはりあの火柱をこの目で確かめる必要があるな・・・。
翌朝、地元の猟師に案内してもらい水源地帯を一望できる場所まで案内された。
切り立った崖、そこで火柱の正体を知った。
近習の者達からは次々と声があがる。
「なんて巨大な多数の頭を持つ蛇なんだ!」
「だが、炎に包まれた多数の頭を持つ蛇なんて聞いたことが無いぞ!?」
八つの頭に鬼灯のような赤い目。
体全体が炎に包まれているのは異世界版だからか?
日本神話にも出てくる伝説の生物。
八岐大蛇。
水害の象徴であるはずんなのに・・・。
そういえば、異説で火砕流を神格化したものとも言われてたっけ・・・。
グチャグチャ頭の中で考えていると一頭がこっちの方向の地面に向かって顎を開く。
途端にマグマらしきモノがそこから放流される。
まさか火砕流!?
火山砕屑物の正体はこれか!?
ガゼル! 猟師達を連れて避難しろ!
俺は炎蛇を討伐する!
「しかし!」
言ってる暇なんぞ無いぞ!
まもなく超高温まで熱せられた土砂の津波がここに押し寄せてくる!
俺は飛行の魔法が使えるから安心しろ!
お前達がいると安心して戦えん!
「・・・わかりました。ご武運を!」
応!
飛行の魔法を発動させて空に舞う。
不死鳥の鎧も呼応し炎の翼が顕現して飛行の補助をしてくれている。
毎度のようにチャクラを全開にして生命活動を最大限にまで活性化させて霊力、妖力、魔力を完全解放している。
朱鳳刀に雷霆の力をのせて炎蛇の一頭に叩き付けて断頭台よろしく頭を切り落とす。
!?
切り落とすと同時に瞬間再生!?
それじゃあ切り落とした頭の方は!?
切り落とした頭は火の粉となって散った!?
ヘラクレスは傷口を焼いて再生を阻み多数の頭を持つ蛇を退治したけどこいつは炎で出来ている。
傷口を焼いて再生を阻むなんて出来ない!
こりゃとんでもない苦行になりそうだな・・・。
思いつく限りの魔法を試してみたがどれも効果が無い。
たちまち再生してしまう。
最後には隕石直撃の魔法まで使ったがそれでも瞬間再生した。
仕切り直すために一旦離脱する!
・・・・・・?
簡単に離脱できた・・・。
何で追撃してこない?
体が大きすぎて移動出来ないのか?
そりゃあんなにもデカい体してりゃ移動も出来ないか・・・。
!?
炎蛇どもの大きさに対して胴体が大きすぎないか!?
胴体に何かあるんじゃないか?
霊視して・・・。
・・・・・・・・。
圧縮された高貴な気を感じるんだが、これが異常再生能力の力の源か?
そういえば胴体に向かって雷霆の力を使っていない・・・。
最大出力で胴体へ攻撃してみるか。
反応は劇的だった。
今まではどんな攻撃も堪えていなかったのに異様なほどに八つの頭が暴れ回っている。
胴体が爆砕した瞬間に龍の像が見えた。
おそらく龍の像が炎蛇の力の源だろう。
八雷神を召喚して炎蛇達を抑えさせる。
雷霆の力を胴体に向けて連発する。
爆砕による傷口はドンドン大きくなり龍の像の全体が見えるぐらいにまでなった。
それを強引に体外に引きずり出す。
大人の背丈ほどあるが身体能力が強化された今の俺ならそれも可能だ。
そして体内から力の源が奪われた炎蛇達は唐突に活動を停止し始める。
手前の炎蛇の残り火を見ていると何かを形作っている。
完全に火が消えるとそこにあったのは蛇矛。
他にも大剣、盾、弓、戦槌、大脇差しが二振り、そして長柄斧槍。
八岐大蛇も草薙の剣を残したっけ・・・。
どれもこれもが神鋼製で業物なのでありがたくいただいておく。
問題は炎蛇から引きずり出した龍の像なんだよな・・・。
さて、どうしたものかと悩んでいると龍の像が輝き始める。
とっさに距離をとろうとしたが光速移動なんか出来ない。
光の波に飲み込まれてしまった。
白一色の世界にいる。
そこには俺という存在と天空に浮かぶ巨大な龍。
否、ただの龍じゃない。
龍の中の龍、龍王という存在だろう。
敵意は感じられないがだからといって畏怖が無くなるわけではない。
この方もまた超常の存在。
『像の中に封じられ卑小な存在に飲み込まれたときは絶望したものだが・・・、よくぞ我を解き放ってくれた』
貴方は?
『我は龍皇。先の文明の生き残りなり』
この世界にも龍が存在した!?
『御主にはこの世界以外の匂いがする。先の戦いでみせた雷の僕と言いその言といい・・・』
仰るとおり俺はこの世の理の外から来ました。
この世界は封棄世界と呼ばれ唯一神の邪法による異世界からの強制召喚を封じています。
『嘘をつくな! 調和を重んじる唯一神がそのような暴挙に出るわけが無い!』
簒奪されたのです。
ただの人間に。
『!』
先代の唯一神と当代の唯一神は全くの別物。
俺は当代の唯一神を邪神と呼んでおります。
多くの命を平然と生け贄に使い呪殺を好んで使う外道です。
俺は邪神討伐を自らの使命と課しました。
『・・・小さき人よ。それは険しい道のりぞ?』
すべて承知の上です。
そうでなければ権能を授けていただいた神様と約束を違えてしまいます。
加護を授けていただいた神様の期待を裏切ってしまいます。
聖炎の竜王様の無念を晴らさねばなりません。
これ以上命を冒涜させるわけにはいきません。
幸い今回は強力な武具を八つも手に入れることが出来ました。
『我からも授けよう』
え?
『このまま何もせずに生き続けるぐらいなら御主にすべてを託そう。』
え?
『今から我が力、肉体、魂を粒子にまで砕く。それを取り込むのだ。』
しかし龍皇様!
『唯一神は先史文明以来、我と共に現存していた古き友だ。我も長く生きすぎた。新しい世代が世界を守らねばならない。小さき人よ、汝の名は?』
フレデリック=ケテル=ロマリアです。
『そうか、ロマリアの末裔か。ならば我がすべてを託すに値する』
ロマリアと何か関係があるのですか!?
『それは御主が自身で調べると良い。さあ、始めるぞ!』
龍皇様の体がドンドン光の粒子となって空中に舞う。
それらを取り込み続けると龍皇様の記憶も流れてくる。
その中に綺麗な女性の姿が浮かぶ。
この方が・・・。
『御主が言う先代の唯一神だ。心根が優しい神であった・・・』
龍皇様の記憶から先代の唯一神が知れる。
『・・・フレデリックよ。彼女のために泣いてくれるのか?』
・・・俺は今、泣いているのか?
『フレデリックよ。心優しき勇者よ。汝に幸多からん事を』




