この道に看板あり(熊編)
後ろにいるのはわかっている。
誰かが追ってきているという感覚はさっきからあったし、僕はそういうのに敏感だ。
別にだからどうということはないんだけれども、気になる。
僕は後ろを振り向くが、勿論誰もいない。
あるのはただただ突っ立ている電信柱と。
不自然な看板。
『道二熊アリ』
変な看板だと思って呆れながら前を向くと。
「熊?」
熊がいた。
なんら比喩はない。
熊本にいるマスコットキャラクターでもなければ、やたらと蜂蜜が好きな黄色い熊でもない。
こげ茶色の髪の毛で、熊。
街中に、熊。
「はぁ?」
熊は全速力で走ってきた。
しかも人間のように二本足で立っている。
「いや、熊なのに!」
僕はそう叫びながら今まで歩いてきた逆方向へと走る。
だって熊だし、二本足だし。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
大体こんな都会の街中に熊なんかがいるのか疑問だし、熊って二本足で歩くのかどうかも疑問だった。
こんなことになるんだったら熊部にでも入部して置けばよかったと後悔して、逃げる。
てか普通、人間と熊が二本足で勝負したら人間のほうが速いのではないだろうか。
なのに何でこんなに追い込まれているんだ。というかこの道ってこんなに続いていたっけ。もうそろそろ大通りに出てもいい気がするんだけれど。
うわぁ、熊に追いかけられてる。怖い。
思ったよりも恐怖だ。
僕は怖くなって後ろを振り向く。すると。
滅茶苦茶格好のいいフォームで走っていた。
背筋は良い感じに伸び、足を思い切り回転させ、太い両腕をしっかりと振り、目をきらりと輝かさせ、汗もしっかりかいている。
熊なのに。
ああ、こんなことになるんだったら熊部と陸上部を掛け持ちしておけばよかった。
後悔先に立たずだ。
しかし。
ここでナイスな考えが思いつく。
今日、僕のバックには生の鮭(新鮮)が入っているんだった!
僕は通学バックの中に手を突っ込み、鮭を取り出す。
素手で。生魚を。
「くらえ! そして喰らえ!」
僕はそう叫んで後方に鮭を放り投げる。
投げる!
すると、熊さんはプロ野球選手のごとく(?)鮭へダイビングし、キャッチした。
しめた!
僕は思いっきり走り逃げた。
通学バックが臭うのは気にしないで、にげた。
すると。
『此処カラ熊歩行禁止』
という看板を見つけ、大通りに出たのである。
そんなわけで、一件落着。