飛翔
ゲームもとうとう終盤を迎えた。
現在所持金
翔30万・勇司20万・香織15万
「残り7マス・・・」
しかしゴールするにはピタリと7を当てなければならない。
「翔~頑張れ~」
勇司達の精一杯の声援が翔の心に染みた。
「ふぅ~」
再び翔は大きく深呼吸をした。
そして静かに矢を構えた。その姿は最初の時よりも更に大きく、堂々としていた。そしてゆっくり目を閉じた。
「今だっ」
構えている手を一瞬で離した。
ビュンという音をたて、矢は真っ直ぐに飛んだ。
バシッ
ルーレットの速度が徐々に落ちはじめる。
「何番だ・・・」
この時間は翔にとってはとても長い時間に感じた。
「はっ」
その矢は見事に7のど真ん中を撃ち抜いていた。
「や、やった」
「さすが~」
「さぁ、俺達も続こう」
勇司が笑顔で香織に呟いた。
「うん」
「よっしゃ~」
勇司もギリギリではあったが、何とかゴール出来たようだ。
「残りは香織だけか・・・」
コンッ!
香織の放った矢は鈍い音を発した。
「2か・・・」
香織は緊張した様子で歩き始めた。
果たして・・・
「強盗に合う20万失う・・・」
「に、20万だと・・・」
翔達は反射的に口ずさんだ。
「た、足りない・・・」香織はラークの方を見上げた。
「う、嘘だろ・・・」
翔は思考が停止してしまった。
「ごめんね翔、期待に答えられなくて・・」
香織は必死に笑顔を作った。
「な、何言ってんだよ・・・」
「俺達どんな辛い時も一緒に乗りきってきたじゃないか・・。お互いこれからも頑張っていこうって誓っただろ!!!」
香織の家系は特殊な事情を抱えていた。そのせいでか、香織は周りの友達と自然と距離をとっていた。家族で外出をすれば、周りの人々がこっちを見ては距離を置く。香織にはそれが辛かった。心の寂しさから非行に走った時もあった。そんな時、出会った人物が翔であった。
「お前と付き合ってからあいつは変わったよ」
そんな声が翔の耳に入り始めてきたのは、つい最近の事であった。そんな時、香織が初めて夢を持った。それが看護師であった。翔はその時、誓ったのだ。
「今までありがとう、翔のお陰で幸せな日々を過ごせたよ。私、翔に出逢えて本当に嬉しかった。」
香織は涙を流しながら笑顔で言った。PBR>
その時、ラークが口を開いた。
「お前さん達、私が最初に言ったルールを覚えているか?」
「はっ」
翔は顔を上げた。
「お前さんの仲間が残していってくれた、そのお金を使いなさい。特別だぞ。」
ラークのその顔はどこか、優しげな表情であった。
「本当に?」
香織は再びラークの方を見た。
「そこの少年は先程私に誓ってくれた。環境を取り戻すと。こんな所で挫折してもらってはこっちが困るからな。」
「ありがとう」
翔の顔にも笑顔が戻った。
「やった~、無事ゴール出来たよ」
「おめでとう」
翔は香織を抱き締めた。
「あ~あ、暑い暑い、何でこんなに暑いんだろうな?」
勇司は目のやり場に困っている様だ。
「地球の事は皆に託したぞ。良い物を見させてもらった。」
そう言うとラークは消えていった。
3月9日、その日は翔達の最後の登校日であった。
「卒業証書・・・」
校長先生が大きな声で順番に読み上げ始めた。
「中山信吾!!」
「はい!!!」
翔は信吾の遺影を持ち、ステージへ上がった。翔が証書を受け取った瞬間、体育館に大きな拍手が鳴り響いた。
「おめでとう」
翔は信吾に向かって静かに呟いた。
その日の午後、三人は信吾のお墓の前にいた。そして、翔がゆっくり話し始めた。
「お前は充分親孝行息子だよ。ほら、この色紙を見ろよ。沢山の人が自ら書いてくれたぞ。さぞかし、両親も喜んでるだろうよ」
翔の手には「教職員採用通知」の紙、勇司の手には「**福祉内定」の紙が、そして香織の手には「今年度**看護学校試験要項」の紙が。
「卒業おめでとう」
三人でそう言うと翔は信吾の証書と、色紙を静かにお墓に供えた。遺影の信吾は終始笑顔であった。




