予兆
「ん、ここは何処だ?」
目が覚めた時、そこは自分の部屋ではなく真っ暗な空間であった。見渡す限り光も、建物も何も無いただ、闇がひたすら支配する空間であった。
「どうなってんだ、夢でもみてるのだろうか?」
訳の分からないまま、翔はひたすら歩いた。歩く度に翔の足音がこだまして周りに響き渡る。
どれくらい歩いたのであろうか。20分、いや、30分位だろう。すると、何やらか、地面に巨大な絵や、文字が描かれた空間に辿り着いた。翔は自分の足元に目をやった。
「自殺?家を購入?訳わからねぇ!!!」
心の中で翔はそう叫ばずにはいられなかった。
しかし、そのような文章が描かれた地面が翔の視界一体に広がっている。その光景はまさに異様な空間そのものであった。翔はしばらくその光景を見てあっけにとられていた。
すると、「ぎゃああああ!!!!!」と、暗闇を引き裂く様な強烈な声が響き渡った。
「な、なんだ!!」
余りの迫力と突然の事に、翔はすっかり怖じけづいてしまった。
「びっくりしたなぁ」
翔の背中に嫌な汗が流れた。
けれども、先程の声がまるで嘘だったかの様に、再び元の静寂さを取り戻した。
すると・・・
ペタッペタッっと何かが近づいてくる。
「足音?」
だけれど、何処から近いてくるのかがわからない。しかしその音は確実に大きくなってくる。それが更に翔の恐怖感をより一層増幅させた。
「助けてくれ・・・」
翔の背後で男の声が聞こえた。
全身から血の気が引いていくとは正に、この事を言うのだろう。言い様のない恐怖感が翔の体中を駆け巡った。思いっきり唾を飲み込み意を決して、驚いて後ろを振り返ると、そこには血まみれの男が立っていた。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
翔は思わず叫んだ。その時、男の腕が翔の足を掴んだ。
その瞬間翔は気を失ってしまった。
気が付くと翔の視界は天井を映していた。「なんだやっぱり夢か」
そう思った瞬間翔は緊張の糸が一気にほどけた。しかし、翔のベッドは汗だくになっていた。
「気持ち悪い夢だなぁ」
動揺を隠せないまま、翔は横たわる目覚まし時計を確認する。
「もうこんな時間かぁ~」
翔は重い腰をあげ、学校へ行く準備をした。先程の夢のせいなのか、いつもより体がダルイ。制服に着替え、カバンを持ち、家の玄関をくぐり抜けると、外は翔が見た夢の世界とは対照的に、快晴な空であった。
遠くからは蝉の鳴き声が微かに聞こえる。その声を聞いてると、翔は少し気持ちが落ち着いた。
「翔~、おはよ~」
「おう、おはよう!!」
学校の校門に着くとそこには、いつも翔が登校するのを待っててくれる彼女である香織の姿がそこにはあった。
香織とは、付き合ってもうすぐ3年になる。
けれど、いくつになっても色褪せない彼女の笑顔を見れたお陰なのか、今朝の夢の事も忘れられそうな気がしていた。
彼女と別れ、自分の教室の中に入るとそこにはやはり、いつも通りの光景がそこにはあった。その光景を見て、何故か嬉しくなった。
「翔~ちょっと聞いてくれよ~勇司がさ~」
と、後ろから話しかけてきたのは、友達の信吾である。
「悪い悪い、冗談だからさぁ~」
と、人に茶々を入れるのが得意である勇司も、これまた翔の友達の一人である。
この二人とは中学時代からの友達である。
昼飯を食べる時も、教室を移動する時も、今考えてみれば主にこの二人が横にいたような気がした。
けれど、決して翔も「友達が少ない」と言う訳ではなかった。どちらかと言うと多い方であった。だけれど、この二人が一番落ち着いた。それは、他の二人も薄々は感じていてくれていたのだろう。
学校が終わったらよく三人で近くの河川敷に行って、夕日を見ながらに将来の事を話しあったりもしていた。
「おい翔、何ボーっとしてるんだよ(笑)」
と、勇司の一言で翔は我にかえった。
「な、何でもない」
と、翔は必死に二枚目を取り繕った。
「らしくねぇな(笑)ほら、最初の授業始まっちまうぞ!!」
「お、おう」
「よ~し、教室まで競争だな」
と、勇司が声をあげた。
「え、マジで!!!」
すかさず翔が反応する。
「よ~し、望むところだ」
すばしっこい信吾が真っ先にスタートを切った。
「ビリな奴が昼飯奢りで(笑)」
勇司が走り際にニヤけながら言った。
「はぁ、二人とも卑怯だろ~」
翔も慌てて走り出す。
そう、これがこの三人の日常なのである。
あの日が来るまでは・・・




