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君が僕を殺す理由  作者: 郁島 瑞貴
君が僕を殺す理由
2/4

後編 ごめんね、

全てを許すことは、悪い事なのでしょうか。



***


ニコリと微笑む彼を呆然と眺めつつ、僕は混乱する脳内を整理する。

僕は君だ、と彼は言った。

僕は君、つまり彼は僕。僕は僕だから彼は彼で、僕は彼で彼は僕なのである。

要するに、

「貴方が僕と同じだと、そういうことですか?」

目の前でさらに角砂糖を加えようとしている彼に僕は問う。

「そうだよ。それ以外に今の僕の言葉の解釈ができるの?」

未だ混乱している僕に、彼はのんびりと答えた。僕の目を見ずにコーヒーをかき混ぜながら話をしているあたり、彼にとってはどうでもいいことなのだろうか。

「今の僕には出来ませんけど、でもそれってどういう……」

「そのままの意味だよ。君は時乃渡、僕も時乃渡。ただ、それだけだ」

ふぅ、と溜息を吐くと、彼はコーヒーの入ったカップを口元へと持っていった。

だけど、それだけじゃ今の僕には理解出来っこなかった。

混乱する頭で必死に考えていると、彼はカップに残されていたコーヒーをあおり、小さく音を立ててテーブルに置いた。

「少し詳しく話をする必要があるみたいだね」

とある街角の小さな喫茶で、まさかこんな話が繰り広げられるとは、この時僕は思っていなかった。


「簡単に説明しよう。僕は君で、君は僕だ」

「それはさっき聞きました」

彼は軽く、あ、そう、と言った。

「んじゃ次。僕と君とは違うようでとてもよく似ている。少なくとも、同じ名前を共有していることは確かだ」

僕は時乃渡。目の前にいる彼も時乃渡。

確かに、言われてみると彼は僕によく似ている気がする。

だけれども、先に一緒に走ってみてわかったのだが、体格が違うのだ。

彼は僕に比べ一回りか二回りほど大きく、体つきもよくなっていた。

簡単に言えば僕よりも彼の方が大人びているのである。

「ああ、それは当たり。君はまだ高校生だろう?多分、高校二年生。僕は年齢的には高校を卒業して二年目にあたるからね。君より大人びていて当然だろう?」

さらりと言う彼に少し苛立ちを覚える。

でも、どうしてそうなってしまっているのか。

仮に彼が僕の未来像だったとして、どうして今ここに未来の自分が現れるなんていう不思議現象が起きているのだろう。

「それは、僕の意思だね。君に会いたい、そう思ったら君の目の前に現れることができたんだ。こっちでも街並みは変わっていないようだし、安心したよ」

随分と不思議なことを言うなと思った。

未来の住人のはずの彼が「変わっていない」などと言うのだ。

ここは今の僕の、彼にとって過去の世界のはずである。

彼はどうしてこの街並みを知らなかったようなことを言うのだろう。

「それは僕がこの世界と全く同じ世界の住人ではないから、かな」

彼は窓の外を、何か懐かしいものでも見るかのように眺めていた。

この世界と全く同じ世界の住人ではない、それはつまり同じ世界線上にはいないということなのだろうか。

なんだか、ものすごくSFな話になってきた気がする。

思わず僕は首を傾げてしまったが、彼は、現実なんだけどね、と軽く笑った。


「それで、結局何が目的なんです?」

未来の、平行世界からやってきた、今目の前にいる「僕」。

それが実在するものだというのは、まあいい。とりあえず信じてみることにしよう。

だけれど、じゃあ彼は何が目的でそんな大変そうな移動をしてまで僕の目の前に現れたのだろう。それには必ず理由があるはずだ、現に彼が僕をここに連れてきているということが物語っている。

「話が早くて助かるよ。僕はね、君を助けに来たんだ。つまりは、僕を助けにね」

やけに真剣な表情で、彼は言った。嘘はついていないらしい。

だけど、僕を助けに来た?僕は別に今困ってなど――と思いかけて、彼が一番はじめに言っていたことを思い出す。

「僕が……殺されるから?」

殺されるなんて、物騒なこと言いたくなかった。それに係っている対象は自分自身だ。

だけど、僕は未だここだけは信じ切れていなかった。

だって今も普通に生きている僕が、まだ人生の四分の一も生きていないような僕が、大したこともしてないし大したものも持っていない、この僕が殺されるだなんてそんな突拍子もないこと、信じられるはずがない。

だから、冗談だと言ってほしかった。信じられるはずがないのに、どうしてか嫌な予感がしてならなかった僕は、それを聞いて安心したかった。

突然学校をサボらされてまでここに連れてこられて、殺されるだなんて、あんまりじゃないか。

だけど、彼は僕の希望なんて聞いてくれやしない。

「そう。君が彼女に殺されるからだよ」

ほんの少しだけ顔をのぞかせていた不安と恐怖という闇が、一気に僕の心を満たしていった。

殺される。

その言葉に、改めて恐怖を覚える。

殺される。殺される。誰が?僕が。誰に?彼女に。

……彼女?

そこではじめて、彼の言う言葉に新たな登場人物を見つけた。

「彼女って、誰なんですか」

僕が殺される相手、どうやら彼はその正体を知っているようだから。

だけどどうしてか、これにも僕は心当たりがあった。

僕の彼女、瀬乃黒絵。

別に彼女はいわゆるヤンデレだとかそういった傾向は見られない、ごくごく普通の、だけど容姿、性格、何をとっても世界で一番可愛くて、とてもいい子だ。少なくとも僕にはそう思える。だって僕の自慢の彼女なのだから。

そんな彼女が人殺しをしている姿なんて想像できないのに、どうしてか予感がした。本当、僕はどうかしていると思う。あんなにも優しい彼女を疑うだなんて。

「黒絵じゃ、ないですよね……?」

僕の予感が、どうか外れてくれますように。そんな祈りを込めながら、僕は震える声でそう尋ねる。

だけど、僕の祈りなんてものは届いてくれやしなかった。

「そうだね。瀬乃黒絵、まさしく彼女がそうだ」

目の前が真っ暗になりそうになった。僕が殺される。誰に?彼女――黒絵に。

信じられるはずがないのに、どうしてか納得してしまう、妙な感覚。そう言われるのだとわかっていたかのような。

「それにしても、君の彼女も黒絵なんだね?」

落ち込む僕に反し、嬉しそうに微笑む彼。

君も、ってことは、

「貴方の彼女も?」

それを聞いて、彼は尚更嬉しそうに頬を紅潮させた。

「ああ。それにしても、君の彼女も黒絵でよかったよ。でないと今のこの状況が成り立たないというのもあるのだけれども、君が黒絵と出会っていて本当によかった。瀬乃黒絵、彼女は最高にいい女だと思わないか?少なくとも、僕にとっては自慢の彼女なんだけれど」

興奮して話す彼に、僕は好感をもった。

そして改めて、彼は本当に「僕」なのだと思った。

彼女、黒絵の良さをわかるヤツに悪いヤツはいない。


――彼女は、少しだけ変わった子だった。

普通にしていれば至って普通のいい子なのだが、時たま不思議なことを言うのだ。そう、まるで未来を見通しているかのように。

彼女のそれは、あまりに当たりすぎた未来予想、まさしく未来予知だった。

はじめは彼女の人当たりの良さから、みんな彼女を良く思っていたものだ。友達だって、たくさんいたはずなのだ。

それなのに徐々に彼女の異様さが浮き彫りになるにつれて、一人、また一人と彼女から離れていったのだ。そうして彼女はいつしか孤立するようになった。

この頃の僕はまだ彼女に接してはおらず、“未来を見通せる力”を持った異端の少女がいるということだけ、風の噂で聞く程度だった。僕は、そんな力があるのだとすればそれはとても素敵なものだと思ったし、それが理由で疎まれるというのはおかしいものだと思っていた。

だから、図書委員で同じ役回りになったのがきっかけで仲良くなり付き合うことになった彼女が「未来予想」を口にした時は驚いたものだった。まさか彼女が噂の人だなんて、思いもしなかったのだから。

それからの彼女は「未来予想」を僕にしか言わなくなったらしい。というのも、周りに言える人が僕しかいなくなったからかもしれないが、彼女は他の人に言う余裕がなくなったからだと言っていた。余裕も何も彼女は今まで通りのようにしか見えなかったから、僕には彼女がどうしてそんなことを言うのかはわからなかったが、それでも僕を見てくれているのだというのは嬉しかった。

そんなことがあったのが僕らの中学時代。高校は同じところに進学し、それから勿論今もなお彼氏彼女という関係は続いている。

高校では中学以前の彼女のことを知っている人が僕しかいなかったせいか、彼女の周りにはあっという間に人が集まっていた。やはり彼女の人の好さは、人を惹きつけるようだった。まあそれもあって複数人に告白されたらしいが、彼女はきっぱりと僕一筋であると伝え断ってきたらしい。なんというか、もう大好きである。


そんな感じで、やっぱり彼女が僕を殺すだなんて考えられない話なのだが、これは一体どこから来る予感なのだろうか。彼の言葉でその予感が確信に変わっても、まだ信じたくない自分がいるような、よくわからないもの。

そもそも、なぜ彼女が僕を殺すのだというのだろう。なんとか納得のいく答えがほしいものだった。

「だけど、今は……ごめん、とにかく時間がないんだ。君と黒絵について語り合う余裕がない程度にはね」

腕時計を見つつ、彼は言う。さっきは、時間はまだあると言っていたのに、と考えると、どうやら僕の交渉にどうにも時間がかかりすぎてしまったようだ。その言葉には焦りが見られた。真剣そうな瞳と今にも身を乗り出しそうなその勢いからして、本当に時間がないのだろう。

それにしても、未来に起こりうるであろう可能性から守ろうとして言動をとるだなんて、彼女そっくりじゃないか。

なんだかそれは、随分と滑稽な話に思えた。彼女に似た「僕」が、彼女から僕を守る、だなんて。

きっとここは笑うべき場面ではないのだろうけど、思わずくすりと笑ってしまう。以前、彼女が「未来予想」で僕を助けてくれた時に、ありがとうと言ったら、「別に、このぐらい、当然」と照れくさそうにしていた彼女を思い出したからかもしれない。

彼は少し戸惑っていたが、僕は構わず彼に改めて向かう。

「それじゃあ、貴方を信じさせてもらいます。僕を助けてください」

それは正式な依頼だった。僕の覚悟が決まった瞬間、とも言えるだろう。彼女を見てきたからこそ、信じたくなったことだ。

彼はにこりと微笑むと、それじゃあここから出ようか、と言った。

ちょっとした逃避行の始まりだった。


喫茶店を出て真っ先に向かったのは、近くにあった公園だった。

僕らが今いるのはその公園にある公衆便所の前である。茂みの合間から車の行き交いが激しい通りと、その向こう側の閑散とした住宅街が見えた。

彼はその方向を見やるようにしていた。その表情には、何とも表現のしがたい苦悩と後悔のようなものが刻まれていて、僕は少しだけ驚く。一体未来で彼に何があったのか。それは僕の知る由ではないが、もし僕が助かることでその彼の表情が少しでも緩むのであれば、それはいいことだなと思った。まだ助かるも何もないような状況だけれど。

「ごめんね。それじゃあ、今から言う僕の言葉を聞いて」

彼は申し訳なさそうな顔をして僕の方に振り替えると、話を再開した。


彼が言うには、今から彼女はここへやってくるだろうということ。そして、僕は彼女に会わずにどうにかして切り抜けなければならないのだということ。

それならどうしてさっきの喫茶店を抜け出してここに来てしまったのかという話なのだが、どうやら彼女は僕がどこにいても追ってこられるらしく、それなら逃げる空間の確保をした方がいいとのことだった。ちなみに、街まで出てきたのは交通の便からだという。その乗り物にまで彼女が追いついてしまっては終わりだが、うまく撒いてから逃げる手段として使う分にはいいだろう、とのことだった。

つまり、どうやら僕はもう家には帰れないらしい。なるほど、どうしたものか。

その辺りは彼がサポートしてくれるようだが、まずは現状をなんとかして打破しなくては次のステップになど移れないようだ。まず、彼女をうまいこと撒く。これが今の僕のやるべきこと。それ以外は考えるな、とのお達しだった。

そして今、彼はここにはいない。

「タイムパラドックスって知ってる?僕がいるとね、それが起こっちゃうらしいんだ。まあそもそも、僕が君に会えていることもコレの一因となりうるわけなんだけど……まあいいや、僕は君に伝えることができたから。これ以上はこの世界の存亡にすら関わってきてしまうからね。僕は去るよ」

そう言って、彼はこの場を去ったのだ。

タイムパラドックス、時間の逆説。タイムトラベルした過去で現代、すなわち相対的未来に存在する事象を改変した場合、その事象における過去と現代の存在や状況、因果関係の不一致という逆説が生じるというもの。有名な例として親殺しのパラドックスと呼ばれるものがある。これは、未来から来た自分が過去にいる親を殺すなどして、「自分が生まれる」という未来をなくした場合に引き起こされ、そもそも自分が存在している時点でそんなことはできないので……など、わかりやすいタイムパラドックスの例である。

そして、それはまさしく彼が僕に会って起こそうとしていたことなのではないかと思うのだが、彼が言う「タイムパラドックス」は彼が彼女に会うことで引き起こされてしまうものなのかもしれない。そう考えると、彼がこのタイミングで去ったのも納得がいく。

さて、それじゃあ僕は何をしよう。などと考えて、公園をぶらつく。

彼は逃げる空間を用意してくれた。まあどこにいても彼女は僕を追ってくるというのだから、後は彼女がここに来るのを待つしかない。

だけど、よくよく考えてみれば、彼女がここに来ること自体がおかしいのだ。

彼女は至って真面目だ。授業をサボることなどなかなか考えられない。

いや、さすがに「親の死」だとか、そういったことになるとサボるサボらないではなく駆けつけざるをえないのだろうが、今の僕は完全にサボリ魔、そして普通に考えれば彼女は真面目な生徒なのである。まさかこんな街中にこんな真昼間、わざわざ学校を抜け出してまで彼女が来るはずない。そもそもどうして彼女は僕がいる場所がわかるのだと……

そう思いかけた時だった。

「あ、渡!……はぁっ、こんなところに、いたんだ……っ。もう……探したんだからね?」

息を切らす音と、いつもの明るい彼女の声が背後から聞こえた。

ドクン、と心臓が高鳴る。なぜかそれは、いたずらがバレた時の子供のような胸の高鳴り。親に見つからないようにそうっとおやつを盗み食いしていたのがバレたあの時みたいな、それだった。

だけど僕は、声のする方を振り向いてしまう。

「くろ、え…………」

喉が渇く。水、水を飲まなきゃ。でないと声が出なくて、彼女に怪しまれてしまう。

反して手に握る汗は止まることを知らなかった。額からも汗が伝う。頭上からさんさんと照りつける日差しは、弱まる兆しもなく。

僕はきっと今、ぎこちない笑顔で彼女に向かっているのだろう。なにせ「僕が殺される相手」として彼に教えられた人物なのだ。いつも通り笑えるはずがない。

彼女は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔になって言った。

「でもよかった、渡がここに居て。私、渡がどこか遠くに行っちゃうような、そんな気がして……怖かったんだよ?」

ぎゅっと、手を握られる。ああ、その手は今手汗でぐっしょりなのに、そんなことしたら君の手までベタベタになってしまう。僕としては彼女に手を握られて嬉しいんだけど……って、そうじゃなくて。

「お願い、もう私から……離れていかないでよ」

ふと彼女が手を緩めると、そのまま寄りかかってくるようにして、僕を抱きしめた。

逃げなきゃいけない、だなんて思考は即座に吹っ飛んでいた。彼女は僕を迎えに来てくれた。こんなに優しい彼女が僕を殺すだなんて、そんなのはじめから間違っていたんだ。僕は何かしらの意識障害を起こしてここにいた。彼?そんなの僕の幻想だ。未来から来ただなんて、そんな妄想。そっちは黒絵が担当だろう、なんて。

さあ、帰ろう。僕は彼女と一緒に居られる、それはとても幸せなことじゃないか。

「ごめんね。大丈夫、もう離」

刹那、腹部に走る熱いそれ。

俯き、表情のわからない彼女が、見えない何かを勢いよく僕のそこから引き抜いた。

彼女を抱き返そうと伸ばした手が空を切る。

空腹感じゃないけれど、なんだかお腹のあたりにぽっかりと穴が開いてしまったような、そんな気分。

情けない、声とも言えない息が漏れる。

一歩下がる彼女と、彼女を見ようとしながら傾いていく僕の身体。

地面との距離がだいぶ近くなったところでようやく見えた彼女の顔は、今にも泣きだしそうなこらえ顔。

「ごめんね、」

彼女の口がそう動いた気がした。

ああ、うん。そうだね。それは受け取っておこうかな。だってこれ、結構痛いし。

だけど、僕は彼女にそんな顔をしたままでいてほしくなかったから。

どうして、とは言えなかった。言う必要もなかった。

だって、僕はこの時、全てを理解していたのだから。

なんというか、自然にわかってしまった。

夢のことも思い出した。つまりはそういうことだったんだって。

君が僕を殺す理由も、僕が君に殺されなくちゃいけない理由も。

まだ、なんとなくだけど。かえったらゆっくりと整理でもしようかな。

そしてまた、君に愛してるを言おう。うん、きっと、それがいい。

例え彼女が罪の意識に囚われ続け、世間が彼女を責め立てようとも、僕だけは、彼女の全てを許そう。誰ならぬ僕自身が、その全てを。

それじゃあ、またね。……ああ、これだけは伝えておかないと。

「ありがとう。――殺されるのが、君でよかった」

僕の意識は、そこで途切れた。



*



「うわあああああいたっ‼」

思わす頭を押さえる。

まだ頭がぐわんぐわんと、衝撃によるショックから直りきっていなかったが、ひとまず僕は今の状況を整理しようとした。

ここはいつもの自室にある自分のベッドの上。

ふかふかの布団と先程頭をぶつけた白い天井が、それを物語っていた。

僕の名前は、時乃渡。極々普通の高校二年生。彼女持ち。

自分は正常だ、大丈夫だと言い聞かせると、ふぅと溜息が漏れた。

それにしても。

「夢…………か」

なにかとても悲しい、だけど大切な。そんな夢を見ていたような気がする。

さっきのショックもあってか、もう何も思い出せないのだけれども。

「何も、思い出せない……?」

それは、夢だから当然なのかもしれない。だけど少しだけ頭の片隅に揺らめく見慣れない映像に戸惑いを覚える。

何もじゃ、ない。

胸のどこかにある予感めいたもの。今までの経験になかったような、不思議な「記憶」。

……きっと、これは夢の中の何かだ。僕が実際に経験したものではない。きっと、そうなんだ。

だって、あんなことって。

首を何度も横に振り、両頬を平手でパンと叩き、僕は大丈夫と言い聞かせ、いつも通りの支度を始める。


そうして僕は、今日も生きていく。




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

次回作は解決編となります。

更新までもうしばらく時間を頂くこととなりますが、よろしければお付き合いください。

評価、感想など貰えると嬉しいです。

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