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君が僕を殺す理由  作者: 郁島 瑞貴
君が僕を殺す理由
1/4

前編 はじめまして、僕は

今回は全三部を予定しています。

つたない文章ではありますが、よろしくお願いします。


残酷描写はほとんどない、はずです。

例え、それが許されないことだったのだとしても。



***


それは熱い口づけだった。

随分と長い間、そうしていた気がする。

ふと、彼女は僕から離れ、くしゃっと笑い、何か……鋭利な何かを取り出し、そして、それを僕に――――……



「うわあああああいたっ‼」

思わす頭を押さえる。

まだ頭がぐわんぐわんと、衝撃によるショックから直りきっていなかったが、ひとまず僕は今の状況を整理しようとした。

まず、この場所。

ここはいつもの自室にある自分のベッドの上。

ふかふかの布団と先程頭をぶつけた白い天井が、それを物語っていた。

そして僕は時乃渡ときのわたる。極々普通の高校二年生。彼女持ち。

それなりに真面目に学校に通い、それなりの容姿を持っている……と思っている。

友人関係もそれなり、成績もそれなりで、本当に平凡な高校生……だろう。

ここまで確認し、自分は正常だ、大丈夫だと言い聞かせると、ふぅと溜息が漏れた。

それにしても。

「夢…………か」

なにかとても悲しい、だけど大切な。そんな夢を見ていたような気がする。

さっきのショックもあってか、もう何も思い出せないのだけれども。


ドタバタと大きな足音が鳴り響く。

「ワタル、朝っぱらからうるさいわよ!」

僕が頭をぶつけた時の音より遥かにうるさい声を出して部屋の扉を開け放ったのは、母だった。

「まったく。朝ごはん出来てるからさっさと着替えて……って、何あんた泣いてるの?」

言われて頬を触れると、確かにそこには涙のような液体の感触があった。

そんなに痛かったの?という母の言葉に、そうかもしれないと笑って答えると、母は、気をつけなさいよね、と言い残して戻っていった。

母に言われた通り、本当に痛くて出ただけの涙のような気もしてきたので、僕はそのことをそれ以上は考えず、いつものように支度をして学校へと向かうために家を出た。


学校までのいつもの道を、いつものように歩く。

それは本当にいつも通りの僕で、日常で。

今日も空が青いなあ、なんて空を見上げていたら、眩しくてくしゃみが出て。

そんな、今日も昨日と変わらないいつもだったから。

次の瞬間、いつも通りじゃない、あまりにイレギュラーなそれに遭遇するなんて思ってもいなかったんだ。



あまりの出来事に、僕は口をパクパクさせていた。

「あはは、餌を欲しがる魚みたいだ」

そう、そんな感じ。

じゃなくて。

「貴方、今……!?」

思わず「ママあれなにー」な感じにその人を指差してしまう。

周りに「しっ、見ちゃいけません」とか言ってくれる人はいない。

そんな感じで混乱している僕を余所に

「ああ、僕は君に用があって来たんだよね。ちょっとこっち来て」

と、僕の腕を掴み、走り出した。

そして、ぼそりと、だけど確実に僕に届く大きさの声で、彼は言った。

「君、殺されるよ」

それは、ただ事実を淡々と告げるかのように。

「え、あ、ちょ!?」

僕の混乱、最高潮。

殺される?僕が?誰に?いや、それよりも彼はいったい何者なのか。

そんな疑問が沸々と湧き上がる中、

「説明はあと。とにかく、今は走って!」

彼は戸惑う僕に振り返ることもせず、ただ前に向かって走っていた。

その様子からも相当に焦っていることはわかったので、とりあえずその人についていくことにした。

どうしてか、彼が悪い人には思えなかったのだ。

生まれて初めて、学校を自分からサボろうと決めた瞬間だった。

ちなみに、彼は何もない空間から、猫型ロボットの道具よろしく、突然僕の目の前に現れたのだが。


ふと、彼が立ち止まり、その背にぶつかる形で僕も立ち止まった。

「どうかしたんですか?」

「いや、この辺でいいかなーと思って」

何が、と言う前に彼が口を開く。

「逃げ場所。とりあえず君にも色々説明しないと。混乱してるでしょ?」

それはごもっともである。

落ち着いたというのならば、今すぐにでも説明してほしいぐらいだ。

「だから、今説明するってば。とりあえず……そこの喫茶店にでも入ろうか?」

そう言って、彼は近くの喫茶店へと僕を連れて入っていった。

そして僕たちが辿り着いたここは、彼の言う「逃げ場所」には到底思えない、街中であった。


「で、どうして僕をここに連れてきたんですか」

案内された席に座り、彼がコーヒー、僕がアイスティーを頼んで、店員が去ってからすぐ、僕は質問に移った。

「うーんと、まあ色々気になってるとは思うんだけど、少しまとめて話をさせてはくれないかな」

苦笑い、といった表情を浮かべ、彼が言う。

その表情を見たとき、僕は無意識のうちにテーブルから身を乗り出して彼の話を聞こうとしていることに気づき、慌てて席に戻った。

そのまま目を合わせないよう下を向いていると、彼が小さく笑う声が聞こえた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。時間は……まだ、あるはずだから」

彼は腕時計を見て、苦しそうに笑う。

そこから僕は何も読み取ることができなかったのだけれども、彼はそれを隠すように元の表情に戻ってしまったのでしょうがないと思いたい。

さて、と彼が続けた。

「ええと、今から僕が話すことは君にとって嘘みたいな、信じられないものかもしれないけれど、僕は信じてもらいたい。それは分かってほしいんだ。」

何を分かれというのか。

僕はまだ、彼の何をも知らないというのに。

「だから、僕はまず君に僕の正体を教えなくてはいけない。何も知らない人の話を、いきなり信じろなんていう方が無茶な話だからね」

どうやら自覚していたらしい。

店員が来たことで一旦話が途切れた。

注文したコーヒーとアイスティー、それから伝票を置いてお決まりの台詞で立ち去る店員を見送ると、彼は話を再開した。

「なんとなく、君なら気づいているような気がするんだけどなあ。僕の正体、気付いてない?」

彼は運ばれてきたコーヒーに五つ程角砂糖を入れ、ぐるぐるとかき混ぜながらそんなことを言った。

僕とよく似たことをする人だな、などと思いつつ、アイスティーに惜しみなくシロップを入れ、首を横に振った。

彼の正体だなんて、分かるはずがない。

分かることは、何もない場所から現れることができた人だということだけ。

「そうか、君は割と鈍いわけだね。それとも“常識人”なのかな?」

常識なんて今頼りにしてちゃいけないと思うんだけどなあ、と彼はコーヒーの入ったカップを口元に持って行った。

そんな彼に少しむっとしていると、彼は宥めるかのように話を始めた。

「じゃあ、まず結論だけ言えばいいのかな?君はそういう人だからね」

確かに、僕は過程よりも結論を急ぐ方ではある。でもどうしてそんなことが分かったのだろう。

驚く僕に彼はニヤリとすると、言った。

「今の君の疑問を払拭できる回答を僕は持っているよ。そうだね、さっさと話した方が君にも僕にもいいね。じゃあ、まずは挨拶から始めよう」

まさか、と僕が唾を飲み込むのと、彼が息を吸うのとが同じ時を流れた。

「はじめまして、僕は君です」

どうぞよろしく、と彼は微笑んだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想、評価など頂けると泣いて喜びます。

出題編は次回で終了予定ですので、お付き合いいただければ幸いです。

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