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PHASE6:使い魔

 浩介達がアホな特攻を敢行してから少しの時が過ぎた。季節も春から梅雨へと移りそして、夏ももうすぐ始まろうとしていた。

 期末テストも終わり、学校の生徒達はあと夏休みまでどれくらいの日数があると数えている。浩介もまた夏休みを心待ちにしている一高校生の一人である。もっとも去年までの夏休みとは違い、遊びの予定が何一つ事前に入れられない現状でもあるが。

 休み時間の度に一徳や森長に一夏の淡い経験をしに行こうぜと誘われるのを断り続けている。二人はしつこくその理由を問い質してくるが、まさか本当の理由を言うわけにはいかないので適当にあしらっていると後ろの方の席で携帯電話の着信音が聞こえてくる。

 春先から数回の席替えで、浩介は窓側の後ろから三番目の席に、その隣に花菜、前に一徳。後ろは詩音の席になってる。だが、詩音の携帯が鳴る訳ない。そもそも、詩音は携帯を持っていないと浩介は思う。だからいつも詩音の席に集まる誰かだろう。

 その予想は大きく裏切られ鳴り続ける携帯を片手に詩音が教室から出て行く。浩介が意外そうに詩音が出て行った教室のドアを眺めていると、自分の携帯も鳴りだした。その後に花菜の携帯。

 そして極めつけは第三次敵襲警報が木霊した。

 花菜は教員用の駐車場に止めてあった車を拝借して、市街地を爆走する。他の車両の姿は認められず。地域住民は指定のシェルターへと避難しているのだろう。がらがらの市街地を爆走する車の上を輸送機が通り過ぎていく。

 花菜はアクセルを踏み込む右足に一層力を込め、浩介は一層大きな悲鳴を上げ続けた。海の近くの広場に輸送機が降り立つ。それに続いて車が一台ものすごい勢いで輸送機の元へと突っ込んできて、手前で止まる。中からは花菜と死にそうな顔をした浩介が出てきた。

 周りにはかなりの数の輸送機やミサイルポット、アメリカ製の自走砲。そしてFTまで待機している。まるでこれから戦争でも始まるのかと浩介は息を呑む。

 花菜と浩介はカイトから今回の緊急作戦の概要を伝えられた。

「今から三時間ほど前、日本の領海内で海上日本軍第十二艦隊が何者かと交戦し壊滅した」

「艦隊が!? 信じられない」

「戦争が始まるんですか?」

「いや、何処の国も軍隊を出動させていない。これは偵察衛星などで証明もされている」

 まさか、あの時のあの白い機体ではないか。いかにあの機体が現代の技術水準を上回った高性能機といったところで一機で艦隊を潰せるのだろうか。花菜にはあの時以来何処の国の戦場にも姿を現していない白い機体の事が気になっていた。

「そして、艦隊が壊滅した所はここ。つまりこの浜辺から一直線と言うことだ」

「でも、敵も一直線にここを目指すなんて、そんな安直な考えでいいの?」

「既に太平洋側の海に通じる全ての場所に戦力を配置している」

「敵の正体についてはいまだに何も掴めていないんですか?」

 この質問にカイトは返答に困る。

「いや・・・艦隊の司令官が最後に残した言葉があるそうだ」

『敵は艦隊でもFTでもない。気をつけろ、奴らは・・・・』そこで通信が途切れている。つまり撃破されたということか。

 それにしても、司令官の言い残した言葉はより一層疑問を深めるものだった。敵は艦隊でもFTでもない。そして”奴ら”と呼んだことからやはり敵は複数いる。

 現時点の情報はこれぐらいしかない。ブリーフィングが終わり、花菜はパイロットスーツを着る為に輸送機の中に、浩介は制服のまま機体に乗り込む。

 今までに訓練の時も機体に乗るからにはパイロットスーツくらい着ろと言われていたが、浩介はいつも制服で乗り込んでいる。自分は軍人でも傭兵でもない。ましてや人殺しでも。

 そう思いたいからパイロットスーツを着る事が出来ないでいた。

「おい、機体で待機してからもう一時間になるぜ。もう他のとこに来てんじゃないか?」

「いや、まだ何処からも連絡が入っていない。持ち場を離れるなよ」

「じゃあ、もうどっか別の所に行ったか」

 ジャックの言う事ももっともだった。艦隊が壊滅した位置と日本本土の距離は決してそう遠くない。来ようと思えば既に到達しているはずだ。それなのにまだ何処にも来ていないとなると。

 ”デサピア”のセンサーに何かが反応した。

「海中に熱源を探知。来ます」 

「各機へ。どうやら敵が来るようです」

 全員が海に注目する。確かに海が何かで波を立てられていた。そしてその正体を初めて全員が視認する。

「あれは・・・まさか」

「嘘だろ? こんな」

「でかい。なんなんだよこいつ」

「タコ一匹に艦隊が全滅したと言うのか」

 海からの侵略者。それは常軌を遥かに逸した大きさのタコであった。その大きさはFTよりも巨大で起き上がると東京タワーにも匹敵しそうに思える。

「バンデット1より各機へ。敵が姿を現した。日本の陸軍の前で醜態は晒すなよ」

「逆に足を引っ張れないか心配だがな」

「バンデット2了解しました」

 あんな巨大なものが陸に上がったとなると大惨事は免れない。絶対に波打ち際で仕留めるしかない。短期決戦が予想され、陸軍のミサイルポットと自走砲の援護の元FTが浜辺で射撃を行う。

 ノーチェアスにもライフルの他にロケットランチャーとグレネード、ガトリング砲の予備装備が各機の周辺の輸送車に積まれていて、出し惜しみ無く使っていく。

 それでも、巨大生物であるタコは一向に進路を変えようとしない。弾は直撃しているはずなのだが、やはりあれくらい大きなものになると生命力も半端ではないらしい。防衛線は後退を余儀なくさせられ敵が浜辺に上陸する。浜辺に上げられるとその大きさを改めて認識する事が出来る。

 浜辺に上がったのを好機と見た陸軍のFT”零式れいしき”が剣を片手に真正面から頭を狙おうとすると、タコが何かを吐いた。

 それは零式の装甲に付着し、みるみる内に溶かしてしまう。身動きが出来なくなった零式はタコの足でばらばらに砕かれる。

「あのタコ、墨の代わりに硫酸を吐くようね」

「あ──!! んなのタコでも何でもねぇだろうが。あれじゃまるで生体兵器だ」

「待て、硫酸ではFTの装甲を溶かすことは出来ん。あのタコの吐いているものはマグマに似たようなものかもしれんぞ」

 既に人知を超えている。そんなタコがこの地球上に存在したとは誰も予知できたものはいないであろう。その脅威が今目の前にいるのだ。勝者は規格外生物か人類の化学の結晶か。

 陸に上がった事で攻撃の全てが直撃する。にも関わらずタコは倒れない。ミサイルやグレネードがいくら当たろうともいまだに倒れない。その生命力には舌を巻くしかない。

 唯一幸いなのはタコの動きは鈍く、接近さえしなければ被害はないと言うことだ。だが、いつまでもそう楽観視して入られない。この浜辺にいる内に仕留めなければ街が壊滅してしまう。

「俺が零距離から攻撃を行います。その援護を!」

「おい、待て!!」

 カイトの静止を聞かず、浩介の乗るデサピアは浜辺に降りタコに向かって一直線にブースターを展開させ接近する。

「援護は任せろ!」

「足を狙え!」

「バンデット1から各機へデサピアを援護しろ。なるべく敵の足を狙うんだ」

 ジャックノーチェアスとマカフィーノーチェアスが右、カイトと花菜のノーチェアスが左の足に照準を合わせ攻撃する。

 日本陸軍もそれぞれ足に攻撃を集中させ、味方の援護を受けてデサピアがタコの墨もとい酸を回避して懐へともぐりこみ、一斉に全武装を解放し零距離射撃を試みる。

 凄まじい爆音が起こりそれに次いで爆風が巻き上がる。タコの巨体は零距離からの攻撃で飛ばされ海の中へと落下する。

 爆風が収まり、デサピアが悠然と浜辺に立っている光景を見て、ジャックとマカフィーは歓喜の声を上げる。花菜とカイトもほっと安心し、陸軍の兵士も歓喜する。周囲に勝利の喜びが広まろうとした時デサピアが背を向けた海から巨大なタコが出現し、迎撃しようとしたデサピアの機体に足で絡みつく。上空に装備していたレーザーライフルが飛ばされる。

『敵は艦隊でもFTでもない。気をつけろ、奴らは・・・・』

「奴らは一匹だけではない! 十二艦隊の司令官はそう言いたかったのか!」

「ちっ! デサピアが邪魔で攻撃が出来ん」

「くそっ!! どうすればいいんだよ!?」

「見殺しなんて・・・出来ない!!」

 花菜の乗るノーチェアスが浜辺へと下り、剣を構える。ジャックが何かを叫ぶ。ジャックだけではない。カイトもマカフィーも何かを叫んでいるが花菜には聞こえない。そして前へと一歩を踏み出そうとしたとき。

「来るな!」

 浩介の声が聞こえた。

「来るな。この機体の装甲なら貫かれはしない。だから大丈夫だすぐに脱出する」

 とは言ってみたものの、はっきり言ってかなりまずい状況だった。レーザーライフルは飛ばされ、背中のグレネードはがっちりと固定されていてスライドできないしミサイルポットのハッチも開かない。

「敵巨大生物によって現在機体の全火器が使用出来ません」

 デサピア自体もこう言っているし、浩介は何処か諦めにも似たため息を吐く。操縦桿を引いても腕一本動かない。完全に力で負けている。

「出力に難があります。改善の余地あり」

「あのなぁ、この場を無事にどう切り抜けるか少しは考えてくれよ。お前は意志を持っているんだろ?」

「考えるのは搭乗者である浩介です」

 本当に人間みたいに意志を持っている奴だと思える。デサピアが浩介の事をマスターではなく、浩介と呼ぶようになったのは浩介自身がそう言ったからだ。デサピアは言った事を忠実に守る。それは機体のバランスに関してもそうだ。

「左腕のブレードで足を切るのはどうだ」

「シュミレーター開始。結果は脱出できる可能性はフィフティ・フィフティです」

「試す価値ありか」

 よしっと気合一発さぁやるぞと思った時に、メインスクリーンに警告が表示される。レーダーにも反応し警報もうるさい。浩介はスクリーンの矢印によって機体を上を向かせ確認すると、そこには青い空があり白い雲があった。その中の小さい白い雲は少しずつ大きくなってき、それは雲ではないものを形成していく。 

 それは一機のFTの姿。遥か上空から白い翼を持ち降下してくるその姿はまるで天使のようだった。

 白いFTはレーザーライフルの照準を足にピンポイントで合わせ、デサピアを拘束する足を貫く。デサピアの拘束が緩くなると同時に地上に着地しデサピアを蹴り飛ばし間合いを取らせ、両腰に差していた刀のような形状をした武器を引き抜くと、敵を切り刻む。

「援護してやる」

 以前とは違いまるで機械を通したかのような声質だった。

「お前はあの時の。一体何が目的だ?」

「援護してやると言ったんだ。それにお前たちに無駄口を叩いている暇があるのか?」

 反論する暇も無く浜辺には多くのタコが侵入してくる。どうやら今までのは先遣隊で本隊が到着したようだ。

「我々は援護を感謝する。だが・・・」

「我々陸軍としても援護を感謝する。存分に戦ってくれ」

「言われるまでもない」

「その機体は?」

「ふん。どさくさに紛れて情報でも聞き出そうと言うのか? まぁいいだろう名くらいは教えてやる。”アガシオン”だ」

 アガシオンは左腕にデサピアのレーザーライフルを持っており、それを地面に放り投げる。拾ってはやった後は自分で拾え。とでも言いたげだ。アガシオンの介入によって陸軍はその性能を初めて見せつけられる。自分達の攻撃が通用しなかった巨大生物を一撃で倒していく火力。戦場を自由自在に駆ける機動力。そして搭乗者の熟練した技術。どれをとっても敵としてあったのならこれほどの脅威はない。

 陸軍と傭兵部隊がタコ一匹に手こずっているのに比べ、アガシオンはタコを次々と殺していく。信じられない高性能の機体を前にしているが、自分たちがそれに匹敵するほどの機体を既に持っているのには気づいていない。デサピアもアガシオンと同じ性能があるはずなのだ。だが、両機の圧倒的な違いは搭乗者の力量の差である。

「この前より悪くないな。なら行くぞ」

 全てのタコを排除し終えたアガシオンが選択した行動はデサピアに攻撃を仕掛けることだった。アガシオンの刀による攻撃を剣で受け止め弾き返し、ライフルを発射する。

「あなたの目的は一体何なんですか!?」

「私に見せてみろ本物の”フロンティア”の力を」

「バンデット1より各機へ、デサピアを援護しろ!」

 デサピアの援護に入ったノーチェアスと零式は一瞬の内に行動不能に陥る。アガシオンはあえて止めを刺さずにデサピアと一騎打ちをするための準備をした。

「くそっ!」

「その程度か?」

 全ての攻撃が回避され逆にアガシオンの攻撃は全てデサピアに直撃する。圧倒的な力量の差の中で浩介は初めて戦場で死ぬかもしれないと思った。今までも死ぬかもしれないとは思っていた。だが、それはあくまでもかもしれないで、本当に死ぬなんてことはあるはずがないと思っていたのかもしれない。

「機体損傷度が増大しています。システム停止。システムをDESPAIRで再起動します」

「待て、何だそれは?」

 デサピアの瞳の色が青へと変わる。その変化に気づかないアガシオンはコクピットを貫こうと突きを繰り出す。

 アガシオンの刀を左腕で掴んだデサピアがその刀を握り潰す。後退するアガシオンに全ての武装を解放するデサピア。その射撃は先程よりも遥かに正確になっている。回避することで精一杯のアガシオンが回避できない攻撃を翼で庇い、翼を広げた時には目の前にはデサピアがいなかった。

 警報が鳴り響き、右に旋回するとデサピアとブレードの光が見えた。回避しようとしたが左腕を切り落とされたアガシオンは間合いをかなり空ける。

「やはり、本物か」

 アガシオンは背を向け、戦場から急速に離脱する。デサピアは追おうとはせずにただその姿を眺めているだけだった。

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