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PHASE3:何の為に? 前編

 ぼんやりとコンビニの棚に陳列されている弁当を眺めている浩介の姿があった。近くにコンビニがあって本当に良かったと浩介は思う。もしそうでなければ食べ物を求めて近所の家に侵入を計っていたかもしれない。

 まだ、朝陽もろくに昇っていないような時間。正確には朝の五時半に浩介はコンビニで弁当を眺めていた。といっても、朝早いため弁当らしい弁当はほぼ無い。仕方が無いのでサンドイッチとコーヒーをそれぞれ三人分買ってコンビニを後にする。

 ビニール袋を自転車のかごに入れ、サドルにまたがりペダルを漕ぎ出す。春先で桜の季節とはいえ、朝の風は肌寒かった。

 家に帰るとまず、リビングで待っていた詩音と花菜に朝食を渡し、浩介は凄まじい惨状になっているキッチンへと向かった。

 ガスコンロはあちこち焦げていて、フライパンも同様に焦げている。一体、何をどうすればこんな風になるのかを浩介は教えてほしいくらいだった。

 やはり一刻も早く、新しい家を用意してもらうべきだと浩介は本気で考える。二日目の朝からこんな調子では一週間ほどで恐らく死んでしまうだろう。

「さぁて、今日はこの後どうしようか?」

 朝食を食べ終わった花菜がさも当然のように言い放つ。予めいっておくが今日は休日ではない。平日だ。その事を分かっている浩介は取り合いもしない。

「別にどうもしない。これから学校だ。ほら早く準備しろ」

「真面目少年だなぁ。普通はこれから学校サボって遊びに行こうぜい! とか言わないかなぁ?」

「何を基準にすればそれが普通になるのかは知らないが、今日は学校だ」

 リビングを出て行こうとする浩介の背中に花菜の「ケチ。ドケチ。まじめんぼ」と言う呟きが突き刺さってくる。更に花菜は詩音に抱きつきながら、浩介を指差す。

「実はねぇ、浩介君ったら昨日の晩に私を無理矢理押し・・・」

「んなことするかぁ!! 何を吹き込もうとしてるんだよ!? 何を!?」

 全く、昨日は学校に行く事が嬉しいとか夢みたいとか言っていたくせになんで今日になっていきなり不良少年少女よろしく学校サボるとか言い出すんだか、浩介は半ば呆れかけていたがビデオデッキに半分ほど刺さっているビデオを目撃する。

 どうやらレンタルビデオのようだが、あんなものを借りた覚えは無かった。大体題名からして「逃げる学生サボり逃走劇」って意味が分からなかった。恐らくは花菜にあの研究所の誰かが持たせたものだろう。

 なるほど、あれの影響を受けいかに学校をサボることの素晴らしさを学んだわけか。

 花菜はうるさかったが、浩介はほとんど無視して学校に向かう。詩音と花菜は浩介の後ろを歩いていて二人で何かを話していたが浩介にはほとんど聞こえなかった。

 浩介と花菜が教室に入り、クラスメイトが声を掛けてくる。だが、花菜の後ろにいる詩音の姿を見たとたんに声のトーンが低くなり、黙ってしまう。他のクラスメイトも話すのをやめ、教室に重たい空気が流れ始める。

 教室の雰囲気に浩介はふと花菜はこうなることを分かっていたのではないかと思い始める。だからこそ今日はサボるとか言い出したのかもしれない。確かに昨日あれだけの発言をしてしまえば、誰でも奇異の目で見るだろう。だが、だからといっていつまでも逃げるわけには行かない。これからこの学校に通い続けるのだから。

「ほらほらぁ! どうしたのみんなぁ? 朝からくっらいな〜。あ、今日ね詩音が皆に言いたいことあるんだって」

 クラスメイトの視線が一斉に詩音に集まり、その中には森長と一徳も含まれている。花菜に背中を押されながら詩音が前に出て行く。そして、

「あの・・・・ごめんなさい」

 謝った。クラスメイト。特に女子が意外そうに「えっ?」とだけ声を上げる。

「ん〜、詩音もねぇ〜、昨日の事は本心じゃなかったんだよぉ。ただ、長いこと外国にいたからどうしていいのか分からなかったんだよねぇ?」

 ゆっくりと頷く。詩音が素直に謝った事もあるが、花菜の説明と人柄がクラスメイト達を納得させた。

 あぁ、そう言う事だったのか。確かにそうかもなと誰かが小声で言った。先程まで張り詰めていた重たい空気は何処かへと吹き飛び、教室にはいつも通りの空気が流れ始める。

 これが、花菜の描いていたシナリオ通りなのかもしれないと浩介はただそう思った。

 学校の授業が終わり、家へと帰ると意外な人間が訪問してきた。

 研究所直属の特殊部隊隊長のカイト・ヘルズニルク。カイトは訪問してきてリビングの椅子に座ると詩音に視線を向け、席を外してほしいと言ってきた。何故ここにいるのかの理由を問うつもりはないらしい。

 花菜が詩音を連れて二階へと昇っていくと、唐突にカイトが切り出す。

「君はあの機体をどうやって起動させたんだ?」

「いきなり・・・なんですか?」

「どうやって起動させたと聞いているんだ」

 質問の意味がさっぱり理解できなかった。どうやらあのFT”デサピア”の起動の事で何か問題があるみたいだが、正直な話、あれの起動のさせ方など浩介にも分からない。あの時は機体に乗り込むと勝手に起動していったのだから。

 その事をカイトに話すと、少しの間何かを考えるような素振りを見せる。

「そうか。実はあの機体がどうしても起動出来なくてな・・・悪いが来てくれないか? あの研究所に」

「俺が行ってどうなるんです?」

「君にもう一度だけあの機体に乗ってもらう」

 断るべきだと浩介は言う。そう、断るべきだったのだ。しかし、浩介は何故か断ると言う事をせずにカイトの車に乗り込んでいた。

 窓の外の景色が市街地から森へと変わっていく。

「詩音、一人だけ置いて来て良かったのかな」

「小さい子供じゃないんだから大丈夫だよ」

 後部座席に乗っている花菜が心配そうな声を出す。その言葉には「どうして私も、行かなきゃいけないの」という響きも混じっている。

 研究所に着くとすぐに格納庫へと案内される。格納庫には浩介の父親の政人を始め、大勢の技術者達が揃っていた。

 カイトが政人に浩介の到着を告げると、技術者達が一斉に浩介を見る。これじゃさっきの詩音みたいだなと頭の片隅で思いながら、政人に言われるままに”デサピア”のコクピットに入る。ハッチが閉まるとやはり、前回と同じように勝手に起動していった。

「久しぶりですね。マスター」

「聞きたい事がある。どうしてこの機体を起動する事が出来ないんだ?」

「この機体の管理は全て、私が行っています。従ってマスター以外の人間が搭乗しても起動をさせることは出来ません。私が起動させませんから」

「どうして?」

「必要がないからです。それはそうと、前回の戦闘データの分析がありますご覧になりますか?」

 浩介は顔を顰める。あの破壊された住宅街を見るなどもう二度と御免だと思いながら、デサピアの申し出を断った。

「他には前回での起動時間の問題は既に改善されていますので・・・」

「起動時間?」

「そうです。前回は初めての起動でしたので起動時間に問題が発生し、本来よりも早く機能が停止しました。その為、敵一機を破壊する事が・・・」

「敵一機を破壊・・・? 前回の起動時間・・・? おい、前回の戦闘データってのを見せてみろ」

 スクリーンに見覚えのある光景が映し出される。地下から地上へと飛び立ち、ゾベーズを肉眼で視認したところだ。ここまでは浩介も覚えている。そして敵の攻撃を受け、気を失った。

 浩介は、気を失った後の映像を見る。機体が動き出し、敵を掴んで持ち上げ投げた。ミサイルを発射し住宅街もろとも敵を殲滅した。

 気が狂いそうになる。あの住宅街を破壊し、大勢の死傷者を出した張本人が自分だったと浩介は分かってしまった。最後の一機の頭部を掴み、持ち上げる。そして次の瞬間には零距離からのグレネードランチャーを受けたゾベーズの残骸が地面に落ちていくのを見た。

 ゾベーズの残骸が学校の校舎を破壊していく。あの学校の校舎だった。

「もう・・・止めろ。どうしてだ? 俺が、俺がやったのか?」

「いいえ。マスターの意識が無くなったのを確認し、生命を保護を優先とし私が敵を排除しました」

「お前は何なんだ? 兵器なのか? 何故兵器が自分の意志を持っている?」

「そのように造られたからです」

「誰にだ?」

「私にです」

 話にならない。機械が自分で自分自身を造った、そしてその機械は意志を持っている。これはもはや兵器や機械とは違う異質なものではないか。浩介は乗っている機体に恐怖を覚えはじめた時、施設内に振動が起きた。

 地震とは違うような、何かが。それに次いで、施設内の警報が鳴らされ、浩介はメインスクリーンに外の様子を映すように言った。

 格納庫のでは、慌しく走り回る整備員や研究者の姿があった。花菜とカイト、他のパイロットと思える人間はパイロットスーツを着る事も無く、機体へと乗り込んでいく。

 何があったか浩介は理解できた。この施設は敵襲を受けていると。恐らく敵の目的は”デサピア”だろう。どうして、こんな辺鄙な研究所の正体が漏れたのだろう。完全な軍事機密のはずだ。

「外部からの通信。遮断しますか?」

「繋げ」

「浩介、聞こえるか? 現在この施設は敵の攻撃を受けているが。だが心配するな、この施設には腕の立つ傭兵達がいる、そこら辺の国の軍隊にも負けないようなパイロット達だ。お前はそこでぼーとしていればいい。分かったな」

 浩介はゆっくりと操縦桿を握る。政人の言った言葉の意味が分からなかった訳ではない。むしろその逆である。政人がその機体を降りろとは言わなかったのは、万が一の場合の時に一番安全なのはこの機体の中だと思ったからであろう。そして、その万が一が起きるような規模なのであろう敵は。

 全ての通信周波数をオープンにし外にいる人の話し声も聞こえるようにし、浩介は目を閉じ、様々な声を聞いていた。

 戦闘の状況。戦闘をしている者達の声。誰かが救援を求めている。敵か味方かどちらかが撃墜された。一人、また一人と人が死んでいく。

「デット・バイ・インヴェーダー」でも宇宙人の攻撃で大勢の人が死んでいく中で、民間人の主人公はただ、死なないように逃げることしか出来なかった。その主人公は自分の無力さを憎み、軍へと志願し入隊しFTの操縦の訓練を受け、短期間で操縦をマスターし、同胞を殺した宇宙人を倒すために出撃する。そして最後は敵を倒すために自分も死ぬ。そんな主人公を浩介はカッコいいと思っていた。

 自分の命を落としてまで、誰かの為に戦って死ぬ。人間は大昔からそうやって敵と戦ってきた。この場合は外で戦っている傭兵達は自分の為に戦って死んでいるのだろうか。それとも仕事だから、金の為に戦って死ぬのだろうか。敵は誰の為に何の為に”デサピア”を手に入れたいのだろうか。

「これの動かし方を、戦い方を教えてくれないか?」

「了解しました」

 ”デサピア”の声にただ耳を傾ける。他のすべての音声を遮断し、ゆっくりと操縦桿を握る両手に力を入れ、”デサピア”に言われた通りに動かす。

 足のペダルを踏み込み、スラスターとブースターを起動させる。

「格納庫のハッチを開けて下さい。この機体で出ます」



 花菜は敵のゾベーズ一機を破壊した後に、レーダーで戦場の状態を把握しようとする。味方も何機か破壊されているし、敵の規模も大きい。完全に劣勢だと自覚する。

 警報が鳴り、敵が背後から接近していると教えてくる。右腰に装備されておる、剣を引き抜き振り向きざまに敵のコックピットを貫き、敵の剣をかわす。

 更に左右両方からゾベーズ二機が接近してくる。花菜は軽く舌打ちをし、両手に装備されているライフルのトリガーを引くが、弾は発射されること無く乾いた音が響いただけだった。

「弾切れか」

 両腕のライフルを敵に投げつけ、更にライフルとは少し離れた位置目掛けて剣を投げる。飛んで来たライフルを回避したゾベーズの正面には剣が飛んで行き、コックピットの突き刺さる。

 残りの一機は、左腰の剣を引き抜くとブースターを展開し、敵の攻撃を回避し正面へと到達しコックピットを貫く。

 息つくを暇も無く警報が鳴り響く。後ろを振り返るとそこには何も無い。メインスクリーンには上を指す矢印が表示されていた。

 ノーチェアスがまるで空を仰ぐように上を見ると、そこには空中で静止した一機のFTの姿があった。白一色で染色された機体は、機体構造も装備されている武器も今までに見た事が無い機体だった。技術者ではない花菜も一目見ただけで、今の技術を遥かに越えている機体だと分かる。

 ふとそこで”デサピア”の事が脳裏をよぎった。が、それも一瞬の事で、向けられた銃口をただ見つめていた。

 ライフルはない。武器は剣一本のみ。おまけに敵は空中を飛んでいる。

「ここまでか・・・」

 覚悟を決める。元々こんなものに乗っている傭兵なんて仕事をしているのだ、いつ死ぬかも分からない。だが、出来る事ならまだ生きていたかったと思う。もう少しあの子と・・・。

 正体不明機の銃から何かが発射される。それは銃弾ではなく青い光だった。その青い光は目標に着弾し爆風を起こした。ノーチェアスが激しく振動する。花菜はメインスクリーンに頭をぶつけた痛さでまだ自分が生きていると実感する。

 急いでスクリーンを見ると、目の前に黒一色で染色された機体の姿があった。

「デサピア」

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