最高に縁起のいい名前をつけたのに…… ~愚かな息子を嘆く父たち~
王宮の会議室は重苦しい空気に包まれていた。
王を含めても、僅か3名しか出席者のいない寂しい場で、タンメイ王国のヤルキナシ王は溜息をついた。
「なぜわしのムスコはあんなことを……」
愚かだと判っていたとはいえ、人間を辞めさせられるほどのことになるとは……。
二日前。
ムノー学園の卒業パーティで、王太子である第一王子アホーは、サンダーツ侯爵令嬢タクラミーに婚約破棄を宣言したのだ。
そして、男爵令嬢ホシガリーを新たな婚約者にしようとした。
結果は悲惨だった。
きっちり反論され、婚約破棄の根拠は全て論破され。
王太子アホーが計算もできない阿呆であり。
男爵令嬢ホシガリーにあっさりと篭絡されて性病までうつされていたことがさらされてしまった。
当然、王太子アホー有責で婚約は破棄。
タンメイ王家は、サンダーツ侯爵家とタクラミー嬢に巨額の賠償を払うはめになった。
全額払えばタンメイ王家は破産する。
アホーの身柄と引き換えに、賠償減額に応じるしかなかった。
アホーは王族の籍から外されたのち、賠償の補填として奴隷に登録され、侯爵家に引き渡されてのち、断種され喉を潰され、侯爵家の庭で犬として飼われている。
そして新王太子は、サンダーツ侯爵家の要求に従って、まだ5歳でしかない第四王子カイライになった。
タンメイ王家の権威は完全に失墜し、もはや王宮に出仕して来る貴族はいない。貴族たち争って、サンダーツ侯爵家にご機嫌伺いをしている。
すでにホシガリーは斬首されている。
最後の言葉は『王様の奥さんになってゼイタクしたかっただけなの!』
全ての決着はついており会議などしても遅いが。
これは会議に名を借りた、3人の父の愚痴大会だった。
愚痴でもこぼさねばやってらんねー、である。
近衛隊長タネナシーがぽつりと、
「陛下……わたしも息子の育て方を間違ったようです……」
彼の息子で、アホーの側近であったノーキンも、当然、連座して、もはや将来はない。
王国一の美女とうたわれたマタユルーとのあいだの一粒種。
自分とどこも似ていない粗暴で莫迦で救いようもない息子ではあったが、だからこそ愛しかった。
宰相オヤバカンも、ぐっと涙をこらえて、
「だが、タネナシーよ。お前の息子はまだいい。平兵士なら、功績によっては立身する機会もあるだろう。だが、私の息子は……息子は!」
彼の息子コザカシもまた、アホーの側近で、当然連座。
しかも、侯爵令嬢を陥れるための偽の証拠をでっちあげ、偽の証人まで用意していたので、罪は重い。
領地の隅で暮らさせることすらできず、断種の上、奴隷として売り飛ばされてしまった。
小さい頃から利発で期待の後継ぎだったが……単に小賢しかっただけとは。
「「「はぁぁ……」」」
3人の父は、同時にため息をついた。
期せずして彼らは、息子が生まれた日のことを思い出していた。
この子のためなら、なんでもしてやろうと思い定め。
その幸せを願って、最高に縁起のいい名前をつけたとことを……。
※ ※ ※
かつてこの世界が滅びに瀕した時、勇者が召喚された。
勇者は元の世界に戻りたい一心で世界を助けた。
相思相愛だと判ったばかりの恋人と再会するために。
彼は世界の仕組みを独力で解析し、魔王が出現する根本から断ち切った。
だが、元の世界に帰れないと知った時、彼はこの世界を恨み、笑顔と共に呪いを残したのだ。
『元の世界には、素晴らしく縁起のいい名前がいくつかありました。それをお教えしましょう』と。
人々は、世界を救ってくれた勇者を崇拝していたので、それを信じた。
彼らは、日本語が判らなかった。
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