母親殺し
俺が母さんを手に掛けたのは、単純な理由からだった。
いつも口やかましくおこるという、みんなから見れば単純な理由だが、俺にとってはとても重要なことだった。
ご飯を食べろとか、もう寝なさいとかだったらまだ我慢できた。
だけど、勉強をしろとか、もっとまじめにしなさいというのには、我慢が出来なかった。
殺した夜、父親が出張で家におらず、姉はすでに独り立ちをしていた。
こんな絶好な日はない。
すでに用意をしていた包丁を慎重に取りだし、ためらいなく母さんの枕もとへ立つ。
息をしているのかという確認をすることなく、頸動脈を狙い、一気に振り落とした。
首を切ってからは、体を寝巻の上から何度も何度も突き刺す。
刺すたびに、血が飛び散っていくが、そんなことはどうでもよかった。
殺すという快感が、俺の頭の中でアドレナリンに変換され、徐々に興奮し始めた。
何十回を刺し、ようやく俺は止めた。
肩で息をしているが、目の前に転がっている肉片を何の感情もこもらずに見下していた。
…いや、それは正確ではない。
喜ばしい、輝かしいといった、善の感情で見ていた。
俺は、一人を殺したのではない、一つを壊したのだと、何度も何度も唱えていた。
朝日があがるころ、俺は電話をかけるために、その場から立ち去った。
手もぬぐわずに受話器を取り、包丁はすぐそばにあった机の上にそのままの形で置いた。
5分もしないうちに、サイレンの音が意識の外から聞こえてきた。
俺は、彼らを迎えるために、玄関へ向かった。