三つのセカイが交差する時
「……ツチヤぁぁぁ! 貴様、何をしやがった!!」
病院から会社へ強制送還されたツチヤ(49)を待っていたのは、血管を浮かび上がらせて狂叫する宮川だった。
オフィスのモニターには、ツチヤが全社送信した「ヒトミ=宮川」のチャットログと、病院との不正癒着の証拠が映し出されている。
「お前……! 自分が何したか分かってんのか!? 損害賠償で一生這い上がれなくしてやる! 死ね! 今すぐここで死ね!!」
宮川がツチヤの胸ぐらを掴み、デスクに叩きつける。五十肩に激痛が走り、ツチヤの意識が飛びそうになる。
だが、ツチヤは笑っていた。純米大吟醸の酔いと、すべてを吐き出した解放感が、彼を無敵にしていた。
「……死ぬのは、お前だ……宮川。……ヒトミのガワを被って、俺に『癒やしてあげる』なんて……吐き気がするよ……」
「うるせえ! 養分のくせに生意気なんだよ!」
宮川が拳を振り上げた、その時。
「やめてください!!」
鋭い声が響き、宮川の腕が掴まれた。
サキちゃんだった。彼女はいつもの物静かなマドンナではない。震える肩を怒りで抑え、宮川を真っ向から睨みつけていた。
「宮川さん、もう終わりです。部長も人事も、あのログを確認しました。……ツチヤさんをこれ以上傷つけるなら、私が警察を呼びます」
「サキ……っ、お前、派遣の肩を持つのか!?」
「私は、正しい方の肩を持ちます」
宮川は毒づきながら手を放し、警備員に連行されるようにしてフロアから消えていった。
静まり返ったオフィス。
ツチヤは床に座り込み、否定の涙を流し続けた。
「……すいません、サキさん。……俺、めちゃくちゃだ。……勇者なんて、嘘っぱちだ……」
「ツチヤさん」
サキちゃんが、ツチヤの前に膝をつく。そして、ふわりとツチヤを抱きしめた。
夢の中の聖女のような、無機質な温もりではない。
湿布の匂いと、涙の熱さと、生きている人間の鼓動が伝わってくる。
「……めちゃくちゃでも、いいですよ。……あんな酷いメッセージ送ってきたり、お酒臭かったり……本当に最低なおじさんですけど。でも、あんな風に戦うツチヤさんは……少しだけ、騎士様みたいでしたよ」
その瞬間、ツチヤのスマホが震えた。
炎上するゲーム画面。そこには、騒動を知ったジュジュからの、これまでとは違うメッセージが届いていた。
『しゃけ様……。ごめん。私、本当はただの金に困った看護師。……でも、しゃけ様と一緒に戦った時間は、嘘じゃなかった。……さよなら』
ツチヤは、スマホを静かに置いた。
夢の終わり。
ゲームの終わり。
そして、地獄だった現実の終わり。
窓の外には、夜明けの光が差し込み始めていた。




