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エピローグ:嵐のあとの、甘い毒と薬

「……あーあ。結局こうなるのね」


宮川と海蔵が、ツチヤが無理やり飲ませた安酒で早々に潰れ、床でいびきをかき始めた頃。


狭いベランダには、ツチヤとジュジュ、そしてサキちゃんの三人だけが残された。

夜風が、少しだけ熱を帯びた三人の頬を撫でる。


「ツチヤさん。さっきの『俺は俺の金で酒を飲む』って言葉……ちょっとだけ、かっこよかったですよ」


ジュジュが、少し顔を赤らめてツチヤの隣に腰を下ろした。彼女は「もう、これ飲んだら寝なさいよ」と言いながら、自分の水筒から温かいハーブティーをツチヤのコップに注ぐ。


「……でもね、私。あんたがどんなに立派になっても、結局こうやってダメなところで放っておけなくなるんだと思うわ。……責任、取ってよね。……私の人生、あんたの世話で埋まっちゃいそうなんだから」


ジュジュはそう呟くと、ツチヤの肩にそっと頭を預けた。お節介な看護師としてではなく、一人の女性として、その頼りない温度を独占するように。


「……ジュジュさん、抜け駆けは禁止ですよ」


反対側から、サキちゃんがツチヤの腕を静かに、しかし強く抱き寄せた。


彼女の瞳からは、先ほどまでの刺すような狂気が消え、代わりに蕩けるような甘い残火が宿っている。


「ツチヤさん。私をあの炎の中から助け出した時……私のこと、一度だけ『サキ』って呼びましたよね? ……あれ、録音しておきたかったです」


サキちゃんは、ツチヤの耳元で熱い吐息を漏らしながら、指先で彼の胸元をなぞった。


「私、あなたがボロボロになればなるほど愛おしいですけど……でも、あなたが誰かのために必死になる姿も、嫌いじゃないんです。……今夜は、最後まで逃がしませんからね。あなたのその鼓動が、誰のものか……体中に刻み込んであげます」


サキちゃんの唇が、ツチヤの頬をかすめる。


「……お、おい。二人とも、近すぎるって……」


ツチヤは顔を真っ赤にしながら、左右から伝わる柔らかい体温と、甘い花の香りに身を固くした。


一人は、彼を現実へ繋ぎ止める「献身という名の鎖」。


一人は、彼を永遠に閉じ込める「独占という名の檻」。


「……いいじゃない。今夜くらい、私たちに攻略されなさいよ。……ね、勇者様?」


「……はい。ツチヤさんのHPを、私の愛だけで満たしてあげますから」


月明かりの下、ツチヤ(49)は深いため息を吐いた。

これからも現実はしっちゃかめっちゃかで、胃の痛い日々は続くだろう。


それでも、左右から注がれる本気の熱情は、どんな高級な日本酒よりも深く、おじさんの心を酔わせてしまうのだった。


「……もう、どうにでもなれ……」


ツチヤは降参するように目を閉じ、夜の静寂の中に溶けていった。

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