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しっちゃかめっちゃかな愛の終着駅

「……ロックダウン? 何を考えてるの、海蔵君!」


ジュジュの叫びが、無機質なアラート音にかき消される。海蔵がタブレットを叩き壊すと同時に、メゾンの全出口は厚い防火扉で閉鎖された。


「……ジュジュさんに選ばれないなら、僕の積み上げた地位も、このビルも、全部無意味だ。……ツチヤさん、一緒に終わりましょう。あなたのデバッグ人生を、僕がここで『強制終了シャットダウン』してあげます」


海蔵の瞳にはもはや理知的な光はなく、ただ絶望だけが濁っていた。


「……ふふ、いいですね。海蔵さん、最後だけは気が合います」


サキちゃんが、倒れたツチヤを背後から抱きしめる。その手には、どこから取り出したのかライターが握られていた。


「外の世界に連れ出されて、他の誰かに見つかるくらいなら……ここで一緒に、綺麗な思い出になりましょう。……ツチヤさん、熱いのは一瞬ですよ?」


「おい! お前ら、正気に戻れよ!」


ジュジュがツチヤを奪い返そうとするが、宮川がダクトから降り立ち、ツチヤの足首を掴んで離さない。


「ツチヤぁ……逃げるなよ……。ヒトミと一緒に、お星様になろうぜぇ……」


「……いい加減に、しろよ……」


その時、ずっと床に伏せていたツチヤが、低く、重い声を出した。


彼は五十肩の激痛に耐え、震える腕でサキちゃんの腕を振り払い、海蔵の襟元を掴んで引き寄せた。


「海蔵……。お前、優秀なくせに……バカか。……ジュジュはな、お前のスペックなんて見てねえんだよ。……お節介を焼かせてくれない完璧な男に、誰が惚れるかよ!」


「……っ、何だと……?」


「サキちゃんもだ! ……俺はゴミじゃねえ。……俺は、俺が飲みたい酒を、俺の金で飲みたいだけの……しがないおっさんなんだよ! ……お前らの理想の『飼い犬』には、なってやらねえ!」


ツチヤは懐から、あの日本酒の小瓶を取り出した。

彼はそれを一気に飲み干すと、海蔵が破壊したタブレットの端子を、手近な通信用LANポートに無理やり突き刺した。


「……何をする気だ、ツチヤさん! システムは僕がロックしたんだぞ!」


「……バカ言うな。……お前に教えたはずだ。……『コードは嘘をつかない』。……でもな、『バグだけが、システムを壊せる』んだよ!!」


ツチヤは49年のエンジニア人生で培った「最速のタイピング」で、制御システムに過負荷オーバーロードをかけるスクリプトをその場で書き上げた。


それは、かつて自分が現実逃避に使っていたゲームの「チートコマンド」を応用した、物理的な破壊命令だった。


ドォォォォォン!!


爆発的なシステムダウンと共に、防火扉のロックが火花を散らして弾け飛んだ。


「……ジュジュ! ……みんなを連れて、逃げろ!!」


「ツチヤさん!? あんたはどうするのよ!」


「俺は……このしっちゃかめっちゃかな『過去』に、ケリをつけてから行く!」


ツチヤは、炎の上がり始めた部屋の中で、茫然自失の海蔵と、泣き崩れるサキ、そして怯える宮川を次々と外へと押し出した。


一ヶ月後。


ツチヤは、以前よりもさらにボロいアパートのベランダで、安いカップ酒を煽っていた。


メゾンの騒動は「システムトラブルによる事故」として処理された。海蔵は地位を失ったが、ジュジュが「頼まれたら断れない」と言って、彼の再起(とお節介なリハビリ)を支えているらしい。


サキちゃんは、会社を辞めてツチヤを追っているという噂だが、今のところは静かだ。時々、ポストに「今日の献立」というメモが入っているのを除けば。


「……あーあ。結局、また一人か」


ツチヤが苦笑いした、その時。


「……一人で飲んでるなんて、相変わらず寂しいおじさんですね」


階段を上る音と共に、サキちゃん、ジュジュ、そして何故か海蔵に肩を貸された宮川が、山のような酒とつまみを抱えて現れた。


「「「「お邪魔します!!」」」」


「……ちょっと待て! ここは俺の、唯一の安息の地だぞ!」


「何言ってるんですか、ツチヤさん。私たちの『攻略対象』は、あなたなんですから」


サキちゃんが、黒い微笑みを浮かべて鍵(合鍵)を回す。


ツチヤの日常は、これからも変わらない。


夢と現実と、歪んだ愛と憎しみが混ざり合い、いつまでも「しっちゃかめっちゃか」なまま続いていく。


「……ああ、もう。……乾杯だ、バカ野郎ども!!」


おじさんの叫び声が、夜の街に溶けていった。

次回で最終話となります

読んでくださった方に感謝を致します

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