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ジュジュの決断と、海蔵の涙

「……ツチヤさん! しっかりして!」


ルームランナーの上で白目を剥いて倒れたツチヤ(49)を、ジュジュが必死に支える。


サキちゃんが作った「愛の黒焦げ物体」を無理やり一口食べさせられた後の急激な運動。おじさんの胃腸と心肺機能は、とっくに限界を超えていた。


「海蔵君! いい加減にしなさいよ! このままじゃ本当に死んじゃうわ!」


ジュジュの怒鳴り声に、海蔵は手に持っていたマナー教本を床に落とした。その肩が、小刻みに震えている。


「……死ぬ? 死ぬのは僕の方ですよ、ジュジュさん! ……僕がどれだけ努力したか知っているでしょう! 10年前、無能なツチヤさんの下を離れてから、僕はあなたに相応しい男になるために、秒単位で自分を磨き続けてきた!」


海蔵が、ツチヤを指差して絶叫する。その瞳からは、プライドの破片のような大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「なのに……! 久しぶりに再会したあなたは、こんな……酒臭くて、借金まみれで、独占欲の塊みたいな女に監禁されているおじさんに、あんなに優しい顔をして……! 僕には一度も、そんな『頼りにしてる』みたいな目をしてくれなかったじゃないか!」


「……海蔵君……」


「僕の方が、スペックも、将来性も、愛の重さも……全部、上なのに……!!」


エリート元部下の慟哭。それは、ジュジュを愛するがゆえに、自分を追い抜き損ねた「かつての師」への、あまりにも歪んだ嫉妬だった。


「海蔵さん。見苦しいですよ」


サキちゃんが、倒れたツチヤの頭を自分の膝に乗せ(膝枕)、冷たく海蔵を見据える。


「愛にスペックなんて関係ありません。……ツチヤさんは、私がいないとゴミ箱の底で腐るしかない。その『無価値さ』こそが、私にとっての至高の価値なんです。……あなたは輝きすぎている。眩しいだけの太陽は、私(月)の隣には必要ないんです」


サキちゃんはそう言うと、懐から一通の封筒を取り出した。


「これ、海蔵さんの会社の『裏帳簿』です。……あなたがツチヤさんを監視するために使った不適切な経費、すべてここにまとめました。……今すぐ私たちを解放して、ジュジュさんへの執着を捨てるなら、これ(爆弾)はしまっておいてあげますけど?」


「……サキ、お前……いつの間に……」


「愛ですよ。愛は、どんなファイアウォールも突破するんです」


サキちゃんの「最終手段(物理的・社会的抹殺)」を前に、海蔵は膝をついた。


一方、介抱されていたツチヤは、朦朧とする意識の中でジュジュの手を握りしめていた。


「……じゅ、ジュジュ……。……ごめん、な。……俺の、……せいで……」


「……あーもう! 分かったわよ! 頼まれたら断れないって言ってるでしょ!」


ジュジュは海蔵を振り切り、そしてサキちゃんの冷たい視線を跳ね除けるように宣言した。


「海蔵君、あんたの会社は辞めさせてもらうわ! サキさん、あんたもよ! 私はこのおじさんを『普通の生活』に戻すまで、絶対に離れないから! ……あんたたち二人とも、やりすぎなのよ!!」


ジュジュの「お節介」が、ついにサキちゃんの「独占」と海蔵の「復讐」を真っ向から否定した。


しかし、その場にいた全員が忘れていた。


ダクトの中から、宮川が**「ヒトミの最終形態(自作)」**を身に纏って、手に持った日本酒を掲げていることを。


「……ツチヤぁ……。……みんながダメなら……俺と、……心中しようぜ……?」

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