勇者矯正プログラム(ブートキャンプ・オブ・エリート)
翌朝。
一睡もできず目の下にクマを作ったツチヤ(49)を待っていたのは、海蔵の冷徹な宣告だった。
「ツチヤさん。今日から業務時間外は、僕が作成した『勇者矯正プログラム』をこなしてもらいます」
海蔵が指を鳴らすと、リビングに高級なトレーニングマシンと、山のようなマナー教本が運び込まれた。
「ジュジュさんは、強くて優秀な男が好きなはずだ。今のあなたのような、五十肩で猫背のドブネズミが隣にいるのは、彼女への冒涜です。……さあ、まずは時速12キロで30分。その後、フランス料理のフルコースの作法を完璧に暗記してください」
「え、ええ……。海蔵、俺もう体がボロボロなんだよ……」
「甘えないでください。僕がジュジュさんに相応しい男になれなかった代わりに、あなたが『僕の基準』まで這い上がるんです。……これは、僕からの復讐であり、ギフトですよ」
海蔵の狙いは、ツチヤを自分好みの「完璧な駒」に作り替えることで、間接的にジュジュを支配することだった。
「ちょっと、海蔵君! 無茶させないでよ、このおじさんの心拍数見てなさいよ!」
ジュジュが血圧計を手に割って入る。
「……でも、まあ……。ツチヤさんがもう少しシュッとしたら、それはそれで……いいかも……」
頼まれたら断れない、そして「育てる」ことに喜びを感じてしまう看護師の本能が、ジュジュを迷わせる。
だが、この状況を最も許さない女が一人。
「……海蔵さん。いい加減にしてください」
サキちゃんが、キッチンから**「真っ黒に焦げた何か」**を皿に乗せて現れた。その瞳には、今までにない暗い炎が宿っている。
「私のツチヤさんを、あなたの『型』にはめないで。……彼が猫背なのは、私に甘えるための角度。彼が情けないのは、私がいなきゃ生きていけない証拠。……余計な筋肉も、余計な教養も、彼には必要ありません」
サキちゃんはツチヤの口元に、その黒い物体を突きつけた。
「ツチヤさん、これを食べて。……これを食べれば、お腹を壊して運動なんてできなくなります。そうすれば、ずっとベッドで私と一緒にいられますよ……?」
「サキさん!? それ、物理的に毒じゃないですか!」
「愛ですよ、海蔵さん。……あなたの教育なんて、私の献身で全て台無しにしてあげます」
海蔵の「エリート教育」vsサキちゃんの「廃人化計画」。
二人の間で板挟みになったツチヤの横を、ダクトから顔を出した宮川が通り過ぎる。
「……ツチヤぁ……。俺が代わりに……プロテイン(プロテインバーの残骸)……食べてやろうか……?」
「「「「お前は引っ込んでろ!!」」」」
四人の怒号が飛び交う中、ツチヤはルームランナーの上でガクガクと膝を震わせた。
現実という名の魔王城は、昨日の夜よりも確実に「しっちゃかめっちゃか」の度合いを増していた。




