強制共同生活(シェアハウス・オブ・デス)
海蔵によるマンション買収という暴挙から、わずか数時間後。
ツチヤ(49)が連行されたのは、都心の一等地に建つ、オフィスと住居が一体となった超高級メゾンの一室だった。
「ツチヤさん、ここが今日からあなたの新しい『職場』であり、『家』です」
海蔵はタブレットを操作し、室内の照明をコントロールしながら冷酷に告げる。
「僕の監視下で、あなたは24時間デバッグ作業に従事してもらう。……もちろん、ジュジュさんへの無様な姿を見せてもらうために、彼女には専属の健康管理担当として同居してもらう契約を結びました」
「……ちょっと! 私、頼まれたら断れないって言ったけど、住み込みなんて聞いてないわよ!」
ジュジュが抗議するが、海蔵は動じない。
「ジュジュさん、あなたの勤める病院の理事長は、僕の大学の先輩です。……あなたが断れば、病院の経営に支障が出るかもしれませんよ?」
「……っ、卑怯な男ね……!」
ジュジュは毒づきながらも、ツチヤが不安そうに震えているのを見て、
「……あーもう! 分かったわよ、私がいないとこのおじさん、ストレスで心不全起こしそうだし!」
と、結局お節介を焼く道を選んでしまった。
しかし、この場にいるのは二人だけではなかった。
「……海蔵さん。勝手に話を進めないでください。私のツチヤさんを連れ去るなら、私も当然、ここに残ります」
サキちゃんが、どこから取り出したのか、既に自分の荷物(と、ツチヤの予備の着替え)を詰め込んだスーツケースを手に立っていた。
「サキさん、あなたは部外者だ」
「いいえ。私はツチヤさんの『生活管理アドバイザー』として、既に従業員登録を済ませました。……あなたの会社の経理システム、少しだけ『お手伝い』して、私のポジションを作っておきましたから」
サキちゃんの瞳の奥が、どろりと濁っている。海蔵のハッキングに対抗し、彼女もまた執念で実務に食い込んできたのだ。
「……おい……。俺の、俺の意見は……」
ツチヤが弱々しく挙手するが、全員に無視される。
そこへ、換気ダクトからガサゴソと不気味な音が響き、通気口の網が外れた。
「……ツチヤぁ……。俺も……来たぞ……。俺を……一人にするなよ……」
「宮川さん!? なんでダクトから出てくるんですか!」
煤まみれの宮川が、執念だけでこの高級メゾンに侵入してきた。もはや上司としての威厳はゼロだが、ツチヤ(ヒトミへの貢ぎ物)への執着だけは誰よりも深い。
こうして、超高級メゾンを舞台にした、地獄の共同生活が始まった。
海蔵: 権力と金でツチヤを屈服させ、ジュジュに見せつけたい。
サキちゃん: 24時間ツチヤを監視し、自分の愛だけで染め上げたい。
ジュジュ: 海蔵の横暴からツチヤを守りつつ、つい世話を焼いてしまう。
宮川: 隙あらばツチヤに媚び、かつての「ヒトミとの時間」を取り戻したい。
「……あ、あの。……俺、どこの部屋で寝ればいいのかな……?」
ツチヤがおずおずと尋ねると、四人の視線が同時に彼を射抜いた。
「「「「私の(俺の)隣に決まっているでしょう(だろ)!!」」」」
ツチヤは悟った。勇者の城は、魔王城よりも遥かに恐ろしい場所だったのだと。




