エリートの侵入と、歪んだ再会
サキちゃんのマンション。そこは、ツチヤを外界から遮断する「愛の檻」だった。
サキちゃんがツチヤに粥を食べさせ、ジュジュがそれを「不健康よ!」と引き剥がそうと争っている。
廊下では宮川がドア越しに「ツチヤぁ、開けろよぉ……」と嗚咽を漏らしている。
その混沌とした密室に、場違いなほど冷静な電子音が響いた。
『スマートロック、解除。ゲストキーを照会しました』
「……え?」サキちゃんが目を見開く。彼女が設定したはずのセキュリティが、内側から無効化されたのだ。
無音で開いたドアの先に立っていたのは、高級なスーツを纏い、最新のタブレットを片手にした男――**海蔵**だった。
「セキュリティが甘いですね、サキさん。……僕のハッキングスキルを舐めてもらっては困る」
「……海蔵……? お前、なんでここを……」
ベッドの上で震えるツチヤは、その顔に覚えがあった。かつて自分の下で働いていた、生意気なほど優秀な元部下だ。
「お久しぶりです、ツチヤさん。……いえ、今は『しゃけ』と呼ぶべきですか」
海蔵の視線は、ツチヤではなく、その隣でツチヤの腕を掴んでいるジュジュに向けられた。
「……ジュジュさん。そんな、過去の遺物のような男を介抱するのはやめてください。あなたの献身は、もっと『価値のある人間』に注がれるべきだ」
「海蔵君……!? あんた、なんで私の後をつけてきたのよ!」
ジュジュが声を荒らげる。海蔵はジュジュに一方的な想いを寄せており、彼女がゲーム内で「しゃけ」という男に心酔していることを突き止め、執拗に執着していたのだ。
「海蔵。お前、仕事はどうしたんだ。今は外資のリードエンジニアなんだろ……?」
ツチヤの問いに、海蔵は冷徹な笑みを浮かべた。
「仕事? 終わらせましたよ。……それより、僕を差し置いてジュジュさんの心を奪ったのが、かつて僕が『無能』と見捨てたあなただったとは……。この屈辱、分かりますか?」
海蔵はサキちゃんを無視し、ツチヤの目の前にタブレットを突きつけた。
「ツチヤさん。あなたがサキさんに監禁され、会社を辞め、無職になったことは把握しています。……だから、僕があなたに『居場所』を用意してあげました」
「……居場所?」
「僕が新しく買い取った開発チームの、テスター(デバッガー)として雇ってあげます。……ただし、ジュジュさんの目の前で、あなたが如何に無能であるかを毎日証明してもらう。……それが、僕の恋敵に対する復讐です」
「……ちょっと待ちなさいよ。ツチヤさんは私のものだって言ってるでしょ!」
サキちゃんが割って入るが、海蔵は動じない。
「サキさん。あなたのマンションの管理組合、僕の関連会社が買収しました。……ツチヤさんを渡さないなら、今すぐここを強制退去させますが?」
「……っ……!」
独占欲の塊であるサキちゃんに対し、海蔵は「資本力と技術力」という別の暴力で対抗してきた。
「……あ、あの……。みんな、落ち着いて……」
ツチヤの細い声は届かない。
【独占欲】サキちゃん
【お節介】ジュジュ
【執着】宮川(廊下で震えている)
【復讐】海蔵
ツチヤを巡る四方向の歪んだ愛と憎しみが、サキちゃんのマンションという「密室」で完全に衝突した。




