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聖女の檻と、お節介な看護師

サキちゃんのマンション。


そこは、ツチヤのボロアパートとは比較にならないほど清潔で、静かで、そして――逃げ場のない「檻」だった。


「ツチヤさん、お粥ですよ。ふふ、五十肩に効く漢方も混ぜておきましたから」


サキちゃんが、慈しむような笑みでスプーンを口元に運んでくる。


ツチヤのスマホは既に解約され、外出はサキちゃんが同伴する時のみ。


「外の世界は怖い人ばかり。私が守ってあげます」


その言葉は甘いが、背後には絶対的な支配が渦巻いている。ツチヤは、彼女の愛の重さに、精神がゆっくりと溶かされていくのを感じていた。


だが、その完璧な「管理」に亀裂を入れる訪問者が現れた。


ピンポーン、ピンポーン!


しつこいほどのチャイムの音。サキちゃんが不機嫌そうにドアを開けると、そこには白衣を羽織ったままの**ジュジュ(樹々)**が立っていた。


「……何の用ですか? ツチヤさんは今、療養中なんです」


「療養中? 嘘おっしゃい。あんた、ツチヤさんを私物化して病ませてるだけでしょ。看護師の目を見くびらないで」


ジュジュはサキちゃんの制止をすり抜け、ベッドで衰弱しかけているツチヤのもとへ駆け寄った。


「ツチヤさん! ……あんた、またこんなに痩せて……」


「……ジュジュ、……さん……」


ツチヤが、助けを求めるように彼女の服の袖を掴む。


ジュジュは本来、欲深で、オフ会でツチヤの正体を知った時は愛情を裏返して攻撃したような女だ。しかし、目の前で「本当に壊れそうな人」を見てしまうと、彼女の中の**「頼まれたら断れない」**という看護師の本能が、損得勘定を無視して暴走し始める。


「……あーもう! 私、あんたのこと大嫌いなはずなのに! ……こんな顔で縋られたら、放っておけるわけないじゃない!」


ジュジュはツチヤをサキちゃんから引き剥がすように抱きしめた。


「サキさん、あんたのやり方は『看護』じゃない、ただの『飼育』よ。……この人はね、私みたいなちょっとガサツで、でもちゃんと叱ってくれる人がいないとダメなの!」


「……返してください、ジュジュさん。……彼は、私の闇を受け入れてくれた唯一の騎士なんです」


サキちゃんの瞳からハイライトが消え、包丁の代わりに重い灰皿を握りしめる。

一方のジュジュも、聴診器をムチのように構え、ツチヤを背中に隠した。


「ツチヤさん、大丈夫。……私、お節介なの。あんたが『助けて』って顔してる限り、地獄の底まで付き合ってあげるわよ!」


「……ああ、……しっちゃか、……めっちゃか、……だけど……。……二人に、腕を引っ張られるのは……悪くない……」


ツチヤ(49)の意識は、サキちゃんの「暗黒の抱擁」と、ジュジュの「献身的なお節介」の間で激しく揺れ動く。


さらに、扉の陰からは「ツチヤぁ……俺も混ぜろよぉ……」という宮川の不気味な声が近づいていた。

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