パート2:愛と呪詛の再起動(リブート) 好きの反対は「死ね」だった
「……ツチヤ、てめえ……。何、新しい人生歩もうとしてんだよ。死ね、死ね、死ね……。俺を置いて消えるなんて、絶対に許さねえ……」
再就職が決まったばかりのツチヤ(49)の前に現れたのは、会社を解雇され、髪を振り乱した宮川だった。
「み、宮川さん……。もう俺たちは他人だ。それに、あんたの不正は自業自得だろ」
「うるせえ! 不正なんてどうでもいいんだよ! ……ヒトミとしてお前と会話してた時だけが、俺の唯一の救いだったんだ。お前の悩みを聞いて、お前に『癒やしてあげる』って言ってる時……俺は……!」
宮川が顔を真っ赤にして叫ぶ。その瞳には、憎しみとは違う、湿り気を帯びた「情念」が宿っていた。
「お前が俺の部下で、俺に怯えて、俺だけを見てる……。あの時間が、どれだけ……! ツチヤ……俺はお前が好きだったんだよ!」
「……は、はいぃ!?」
ツチヤは人生で一番大きな声を上げた。
宮川=ヒトミ=同性愛。そして、その愛の形は「ツチヤを徹底的に攻撃して支配する」という最悪に歪んだものだったのだ。
「……ちょっと、待ってください。ツチヤさんは、誰にも渡しませんよ?」
そこに現れたのは、サキちゃんだ。彼女はツチヤの腕をギュッと掴み、宮川を冷たく見据える。
「サキさん、君は会社に残るべきだ。こんな無職のおっさんに関わるな!」
「無職だろうが何だろうが関係ありません。私は……ツチヤさんの、あの泥臭い強さに恋をしたんです。宮川さん、あなたの入り込む隙間なんてありません」
サキちゃんからの突然の告白に、ツチヤの心臓はオーバーヒート寸前だ。
だが、地獄の鐘は二度鳴る。
「……ちょっとぉ、二人とも。盛り上がってるところ悪いんだけど」
背後から、見覚えのある白衣姿の女性――**樹々(ジュジュ)**が歩み寄ってきた。
彼女はツチヤの顔をまじまじと見つめ、ため息をつく。
「正直、オフ会であんたが『ツチヤ』だって分かった時は、ショックすぎて死ぬかと思ったわよ。もっと若くてキラキラした王子様だと思ってたのに……」
「そ、そうだよな。悪かったよ」
「でも。……でもね、あんなに私に必死になってくれた男、他にいないの。あんたに八つ当たりして、困らせて、ボロボロにして……それでスッキリすると思ってたのに。……あんたがサキさんと仲良くしてるの見たら、なんだかムカついてきた」
ジュジュはツチヤのもう片方の腕を強引に抱き込んだ。
「看護師はね、一度診た患者は最後まで責任持つの。……あんたの五十肩、私が一生診てあげるわ」
「……え、あ……ええええ!?」
歪んだ愛を叫ぶ元上司(宮川)。
本気の恋をぶつける聖女。
愛情が裏返って執着に変わった看護師。
夢もゲームも終わったはずなのに。
ツチヤの「現実」は、勇者時代よりも遥かにしっちゃかめっちゃかな、第二のダンジョンへと突入してしまった。
「……あ、あの……。とりあえず、誰か一人……放してくれませんか?」
ツチヤの悲鳴は、三人の愛の火花にかき消されていった。




