解
太陽は巡る。
月は流れる。
それは終わりでも無ければ、始まりでも無い。
長い苦役の中のただ一瞬の目眩のようなもの。
いつか全てが閉ざされる時が来ようとも。
悲しみが解き放たれようとも。
足を止めてはならない。
目を背けた友の顔。
歪み捩れた人間模様。
二面性。四面楚歌。村八分。
十二単のつづら折り。
もう戻らない。
それも仕方ない。
先に裏切ったのは自分なのだから。
だが代償はあまりにも大きい。
仕方ない。
仕方ないんだ。
去っていった仲間達。
決して振り返らない。
思い出しも、思い出されもしない。
もはや敵。親の仇。
次に会えば傷つけ合うだけだろう。
もうここには居られない。
旅に出よう。
どうやって。
どうして。
分からなくても、足を止めるわけにはいかなかった。
木を切り縄を切り筏をつくる。
不恰好だ。
自分らしい。
乗れれば何でもいい。
海に浮かんだ。
行き先は決まっていない。
それでいい。
しかしおかしな海だ。
何かがおかしい。
海を見るのは初めてだ。
漂うのも初めてだ。
おかしなことはしょっちゅうだ。
これが奇妙な錯覚を起こさせる。
今、生きているのは現実なのか、かつて見た夢の中なのか。
全てを飲み込む青色が、感覚を滲ませるのだ。
いつの間にか筏が壊れている。
いや、最初から壊れていた。
完成などしていなかった。
いつもそうだ。
一つとして何かを作り上げられたことなど無かった。
自分自身からしてそうだ。
不完全の紛いもの。何かの間違いで動いているようなもの。
筏で海を渡ろうなどと思い上がりも甚だしかったのだ。
しかし完全なるものが一体どこにあるだろうか。
答えを探すには、喉が詰まっていた。
目覚めると砂漠に倒れていた。
答えは分からない。
ただ、楽なものだとは感じていた。
自分の旅には他人が居ない。
まともな風景すら無い。
楽なものだ。
甘えている。
縋りつけば離れていく。
離れれば見下される。
自分自身ですらも、この人間の人生には心底嫌気がさしている。
それがまた不幸の道標なのだ。
集中しろ。
目標はいつも目の前にある。
足が重い。
膝まで砂に飲み込まれている。
何となく分かりつつあった。
今、この風景が何であるかを。
直視出来なかった。
もう思い出せなかった友の顔。
口の中に砂が入り込む。
耳にも鼻にも目に脳に。
不思議なことに苦しくはなかった。
砂では無いのだから。
白い闇の中。
目が覚めた。
家の中。
何故ここにいるか、分かっていた。
口にするにはあまりにも惨めで、しかし頭の中に留めておくだけではあまりにも……耐えがたい。
いつもと同じ……ただ何かが、何かだけが確実に違う。
取るにも足らないような、しかし吐き気を催す違和感。
気づいているのか、堪えているのか、嘔吐したいが出来ないでいるのか。
何も言わずに。
窓の外に波の音が聞こえる。
何故だか静寂と闘争をより際立たせてくれる。
対比だ。
何も無しには何も語ることは出来ない。
自分の人生には何も無い。
だから何も出来ない。
この部屋には目覚まし時計が無い。
だからいつまでも悪夢から覚めない。
一階に降りた。
朝食を摂る。
いつもと変わらないもの。いつもと変わらない出来。いつもより増す嫌悪感。
過ぎゆくものはみな美しい。
だからこそ怠惰に日常に怒りが止まらない。
心に牙が生える。
胸を突き破り、今こそ憤怒の化身たらんと血に染まる顎門を剥き出しにした。
これが本当の始まりなのか。
アパートの鍵をガチャガチャして外に飛び出した。
これが本当にしたかったことなのか。
手当たり次第に破壊の限りを尽くす。
何も無い。
何も無いものは破壊出来ない。
かつて裏切った友に復讐する。
もうどこにも居ない。
最初から友など居なかった。
分かっていた。
全て分かっていた。
あるのはただ家ばかりだ。
やることも無いので戻った。
滴る血がくだらない足跡だ。
いつもの部屋、いつもの違和感、いつものいつものいつもいつもいつも……分かっている。
これが人生だ。これが現実だ。これが自分自身の、これが、こ、こっ、こここっこ……。
目覚めたと思っていた。
全て嘘だった。
終わりを感じていた。
夜が明けようとしていた。
全て嘘だった。
嘘ですら無い。
眠りたくなくても、目を瞑る。
本当の終わりが来るまで。
眠るふりをする。
何もかも消えてしまうまで。
早く、ただそれだけを願っている。




