塀
わがままか。
それはわがままだ。
わがままになりたいと望んでは。
結局は、自分の意思では無いのだから。
胸に突き立てられた、ナイフ。
抜くことも叶わない。
深く沈んでいく。
心臓の奥深くに仕舞われた。
もう二度と取り出せない。
鍵は金庫の中みたいだ。
金庫は盗まれた。
だから僕は追いかけた。
追いかけた……。
でも追いつけなかった。
翌日、金庫はゴミ捨て場に置いてあった。
中身はそのままだった。
なんて事はない、中にもゴミしか入っていなかったのだ。
こんなものを抱えて何年もよく生きてきたな。
盗まれて良かった。
でも鍵が無かった。
また違う誰かが持って行ったのかも知れない。
好きにすればいいが。
彼は呪いの言葉を吐いただろう。
盗まれた上に、何故そんなことまでされなきゃあいけないんだ?
いつも傷つけられる。
確かに、こないだ、倒れている人を見かけても助けなかった。
僕も傷つけた。
あの人を救わなかった。
皆だっていた。
何故僕だけ責めるんだ。
だから嫌だったんだ。
死んでいれば良かったのに!
あの時!!
誰も助けてくれなかったのに……!
足が震えている。
寒い。
血が凍るほどの寒さ。
冷たい人間。
機械より人形より愚かで馬鹿でどうしようもない。
何が出来るのか、何がしたいのか。
それだけを与えられたもののなんと幸せなことか。
考えれば更に震えが止まらなくなる。
冷たいのは、冷たいのは……。
少なくとも何も着ていないせいでもあった。
警察が飛んでくる。
翼を広げて飛んでくる。
警察もまた何も着ていなかった。
何故震えないでいられるのか?
手錠足錠首錠。
目錠鼻錠耳錠口錠。
いつもと変わりはしない。
連行されることだけが嫌だった。
知らない景色。
その苦痛だけは誰よりよく知っているつもり、そういう風な顔をする。
当然誰も気付かない。
誰も見ていないから。
誰も居ない劇場。
一人踊らされている。
逆立ちで。
頭が床に擦り付けられる。
血が滴る。
誰も見ていない。
糸は切れている。
逆立ちのまま踊る。
まばらな拍手が送られる。
感覚が無い。
いつの間にか体がバラバラだからだ。
大歓声。
ピアニストが応えた。
確かに彼は素晴らしい演奏だった。
誰も踊りなど観ていなかった。
体を繋ぎ合わせ、一人で帰る。
うまく歩けない。
指が無いからだ。
細かい部品は拾えなかった。
這って進む。
景色が変わる。
星が綺麗だ。
知らなかった。
下ばかり向いていたから。
こうなって初めて知った世界。
願いをかけようか。
どうかこのままであって欲しいと。
星が落ちてきた。
流星が胸を貫く。
星が落ちてきた。
頭を削り取る。
地面にめり込んだ星は、ルビーの輝きだった。
誰かが拾って行った。
家までもう少し……。
あと、少し……。
あと……。
体が動かない。
体なんて無いのに。
でも、もう限界だ。
悔いはない。
ただ悔しいだけだ。
もっと。
掴めたはずだった。
それが出来なかった。
家が遠ざかっていく。
どうしても自分が許せない。
ただ一つの願いさえも叶えられないのか。
その時、何か光が見えた。
空の奥。
耳で見、口で聞いた。
頭が遠くに転がっていくのを指で嗅ぎとる。
光が、感覚を潰す。
伏せていなければ危なかった。
星が……星が百、千……。
なんて恐ろしい輝きなんだ。
願いを叶えようというのか。
やめてくれ……。
やめて……。
や……。
やめてくれえええええ!!!!!
体が浮き上がる。
天地が逆さになる。
星が輝いているのでは無い。
あれは、観客達の目だったのだ。
ずっと見ていたのだ。
今こそ終幕を見届けようと目を輝かせたのだ。
願いを叶えるのをやめろーーーーーーーっ!!!!!!
ギュイーーーーーーーン
引っ張られるように吹き飛んでいく。
明らかに重力の法則から外れ……て……。
ドンッ
気が付けば心臓が屋根に突き刺さっていた。
動けない。
鍵が……。
引っかかって、い。
家のドアの、鍵、だったのか……。
それさえも分からずに……今まで………………
い、ま、ま、
ザーーーーーーー
ジャーーーンジャカジャーーーーーン
ドロロロロロロ
パァーパパパパーーーーファファファファーーーーーン
ピューピュー
ジーーーーーー
ジャンジャン
ウィーーーーーーー
カタカタカタカタ
ガタッ
ガタッガタッガタガタガタ
ガヤガヤ
ワイワイ
ギィー
バタン




