表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛妻日記  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第2話 新婚夫婦の朝と、父の知られざる弱さ

【令和2年】


翌朝。

信介は古いノートを胸に抱えたまま、リビングのソファで目を覚ました。

電気は点けっぱなし、毛布は美緒がそっとかけてくれたものだ。


「信介、起きた?」


キッチンから美緒の声がする。

振り返れば、彼女がコーヒーを二つ用意していた。


「昨日、ずっと読んでたでしょ。無理しないでって言ったのに」


「ごめん。でも……なんか、止まらなくて」


信介はカップを受け取り、ふぅ、と息をつく。

美緒は隣に腰を下ろし、少しの間、信介の横顔を静かに見ていた。


「ねぇ信介。

昨日の日記……あれ、全部読みたい? それともゆっくりにする?」


「全部読みたい。

……父さんのこと、ちゃんと知りたいんだ。

俺、まだ父さんのこと、全然わかってなかったんだと思うから」


美緒は軽く微笑む。


「じゃあ、今日も一緒に読もっか」


信介は頷き、2冊目のノートを手に取った。


ページを開くと、昭和50年の文字がふわりと現れる。



【昭和50年・回想】


『新婚生活、2ヶ月目。

美咲が作る朝ごはんを食べる時間が、僕の一日の幸福の源だ。』


その文字に合わせるように、情景が浮かぶ。


朝日が差し込む狭い台所。

美咲が味噌汁の味を確かめながら、


「京ちゃん、今日のはちょっと薄いかも……」


京介は湯気の向こうで微笑み、


「美咲が作ったなら、それだけでうまいよ」


「またそういうこと言う〜!」


そう言うと、美咲は照れたように近付いて、京介の肩を軽く小突いた。

京介は、そんな仕草を“世界の宝物”のように感じていた。


ノートの続きには、こう記されている。


『美咲は小さなことで心配する。

でも僕から見れば、彼女は毎日、完璧だ。

……実は僕の方がよっぽど不器用で、美咲に助けられてばかりだ。

そのことはまだ、彼女には言えない。』



【令和2年】


「……京介さんって、すごく正直な人なんだね」


美緒がそっとつぶやく。

信介はノートを閉じ、テーブルに置いた。


「正直というか……不器用だよね、父さん。

俺が知ってる父さんと同じだ」


「でも、信介の前では見せなかった気持ち、いっぱい書いてる」


その言葉に、信介は胸の奥が少しチクリとした。


「……俺、父さんのことを“強い人”だと思ってたんだ。

なんでも一人でできて、淡々としてて。

でも……こんなふうに弱いところ、あったんだな」


美緒は信介の手に自分の手を重ねる。


「弱いところを誰かに見せられるのって、強さでもあると思うよ。

美咲さんの前では、京介さんは素直になれたんだね」


「……そうかも」


信介はゆっくり頷く。

知らなかった父の姿。

知らなかった母への想い。

ページをめくるたび、それらが息を吹き返していく。


「続き、読んでみようか?」


美緒の声はいつもより優しい。

信介は静かに頷いた。


そして、ノートの次のページを開いた瞬間──

そこには父が決して語らなかった、“ある夜の記録”が綴られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ