5・蹂躙
兵助は気が進まないまま茅場に居た。
喜三郎が積み上げた茅の陰から現れた。
「兵助よ!怖けずに良く来た!さて勝負じゃ!」
「嫌です!伝承者は喜三郎殿として下さい。私はそれで良しです」
「・・・何?お前何を言っている?」
「だから、伝承者は喜三郎殿で!私はそっちの流派を辞め北辰一刀流になりましたので!」
「それは関係無い!」
「もう決めましたから!じゃあ破門って事で!」
「おい待て!じゃあどうなっても良いんだな!」
「どうぞご勝手に!」
兵助は喜三郎に背を向けると走って帰って行った。
******
千葉道場の定吉先生の部屋に居る。
昨晩の顛末を報告した。
重太郎さんと龍さんも居る。
「不味いな」定吉先生が口を開く。
重太郎さんも龍さんも苦い顔をしている。
「何がでしょう?」
「兵助が全面的に降伏したという事だろ?」
「いえ、関わらないと言う事です」
「兵助の考えは甘い、甘過ぎる」
「・・・はぁ」
「分からんようじゃな」
「父上!」
ガッ!
突然、さな子さんが入って来た。
「さな子何じゃ騒々しい!」
「さな子控えよ!」
「何事ぜよ?何かあったがか?」
さな子のただ事では無い顔を見て、龍さんがたずねる。
「煮売りやの親父と息子の弥彦が斬られました。あと団子屋の親父と大越屋の主人と・・・お松さんも」
「!?、なに!」
「で、無事なのか?様子は?」
「みんな一刀でやられています。お松さんは手首と足首を斬られ犯されて・・・何とか生きてますけど、もう無理かと・・・」
「・・・俺のせいだ」
兵助の顔は真っ青になった。
定吉先生が口を開く。
「兵助よ、厳しい事を言うが、これは全て戦わなかったお前が招いたのだ。貴様の周りが蹂躙される事に対し良しとしたのだ。戦わないと言う事はこう言う事だ。相手の要求を全て無条件に受け入れる事になるのじゃ」
普段は優しい重太郎さんと龍さんの2人も、厳しい顔で頷いている。
*****
お松は夕刻に死んだ。
兵助は自分の考えの甘さに怒っている。
藩邸の兵助の部屋に文が投げ込まれた。
“今晩待つ”と書かれている。
兵助はその手紙を竈門に入れ燃やした。
たらいに水を入れると水を吸わせた砥石を乗せ、やや鈍角に小刃を付けるように刀を研ぎ始めた。
(・・・屠ってやる)
硬く結んだ口端から血が流れた。




