もしもマザー・テレサが保険外交員だったら辛いSS
偉人も賢人も誰も彼もが変人奇人。
そんな彼ら彼女らが、歴史に名前を残せたのは緩めの世界線だったから
現代に居たらきっとただの変人扱い
今の時代に合わないのは当たり前・・・・
だったら?私だって未来の偉人になれるかも?
もしも、マザーテレサが保険の外交員だったら…
朝から夜まで、電話は鳴りっぱなし。「はい、◯◯生命のマザーです。大丈夫ですよ、今すぐ伺いますからね」病院でも、自宅でも、夜中でも。どんな場所にも駆けつける。営業カバンには契約書より多くのハンカチとお菓子。説明の途中で泣き出す顧客を抱きしめ、「大丈夫、あなたは愛されています」と囁く。
契約? ……まあ、その場では進まない。でも「また来てね」と次のアポイントだけは確実に取れる。保険のプランを売っているのか、安心感を売っているのか、誰も分からない。
事務所に戻ると。上司:「契約件数は?」マザー:「今日はたくさんの人を抱きしめました」上司:「……数字は?」マザー:「数字は愛を測れるでしょうか?」沈黙。会議室の空気が重い。
後輩が「もう辞めたい」と漏らす。マザーはただ黙って抱きしめる。涙が止まる。仕事は止まらない。
契約件数は平均以下。しかし、顧客からの「ありがとう」の数は社内トップ。口コミで「説明は分からないけど、とにかく癒やされる外交員」と評判が広がる。
同行営業編
新人:「本日はこちらのプランをご提案させていただきます!」(必死にパンフレットを広げ、説明を始める新人)
横に座るマザーはにこやかに頷くだけ。顧客が「実は最近…」と家計の悩みを話し出すと、新人はメモを取りつつ次のプランに繋げようとする。
その瞬間、マザーが静かに立ち上がる。新人:「えっ、先生?今ちょうどクロージングに…」マザーは言葉を遮り、顧客を抱きしめた。
顧客、涙。新人、狼狽。新人:「えっと…では続いてこちらの医療特約の…」顧客の夫が様子を見に来る。マザー、夫も抱きしめる。
夫、なぜか落ち着く。奥さん(顧客)、笑顔。新人、困惑MAX。
帰り道。顧客:「今日はありがとう。また来てね」手土産に野菜を渡される。新人:「あの…契約は…?」マザー:「契約より大事なものをいただきました」新人:「……トマトですか?」
契約は次回アポイントに持ち越し。
会社内の風景編
朝のオフィス。常に笑顔のマザー。
トイレに行ったきり帰ってこない同僚。「おーい!アポの時間だぞ!」と上司が怒鳴る。その横で、笑顔のマザー。
各自アポ準備を始める。だが帰ってこない人を探す上司。「誰か見てないか!?」マザー、静かに立ち上がり、笑顔のまま歩き出す。
なぜか突然、ビニール傘を配り始めるマザー。「雨の日でも大丈夫ですよ」社員一同:「……今日は晴れてますけど?」
会議室。上司:「マザー!君の成績だってよくないんだ!」マザー、笑顔。その時、スマホが鳴る。
「はい、マザーです。……ええ、ええ、そうですね。ええ、分かります」顧客の終わらない人生相談。上司、天を仰いで諦める。
マザーは電話しながら隣の同僚を抱きしめる。そして一言。「大丈夫、世界は平和です」
表彰式編
年に一度の大イベント、会社の表彰式。順当に呼ばれていく、○▲営業所のかんだたさん。◆●営業所のえまにえるさん。
成績上位者が次々に壇上へ。営業成績0のマザーは、当然、呼ばれるはずがない。……はずだった。
「特別表彰を行います!」「顧客からの“ありがとう”の声が最も多かった方に贈ります」顧客感謝件数:ダントツ1位。呼ばれたのは、まさかの――マザーテレサ。
壇上に上がるマザー。拍手喝采。誰も一度もプランニングしている姿を見たことがないのに。いつも電話対応。いつも笑顔。そして、顧客から「来てくれないと泣く」というクレームが殺到する外交員。
渡されたのは、笑顔が花言葉の花束。「顧客特別賞、そして……抱擁部門MVP!」
マザーは笑顔のまま、司会者を抱きしめた。会場、総立ち。
売上ゼロ。でも「顧客を泣かせてはいけない」という理由で、社内で最も辞めさせられない人材に。
こうして、保険の未来は「説明」から「抱擁」へシフトしていくのだった。
もう、サスマザ。抱擁が保険を変える時代が、目の前だ。
マザーテレサって誰?
マザーテレサ(1910–1997)は、インドのコルカタ(旧カルカッタ)で貧しい人や病気の人を助ける活動を続けたカトリック修道女です。「神の愛をもっとも貧しい人に伝える」ことを使命とし、無償の奉仕と慈愛の象徴として世界的に知られています。1979年にはノーベル平和賞を受賞しました。