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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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74 墓前に供えるもの

 

 声がした方に視線を移すとそこには黒鎧の男が立っていた。


「くくく、やはり、火矢を放ってきた連中は囮だったか。お前達の魂胆は分かっているんだ。上手く潜り込んだようだが、私の目はごまかされんぞ」


 男はそう言うと更に一歩、地下牢に入って来た。


「お前達にその生餌を持って行かれると、せっかく苦労して作り上げた作戦が実行できなくなってとても困るんだ」

「ちっ、めんどくさい奴が現れたな」


 カラスの出現に最初に反応したのはシリルだった。


「私はアマハヴァーラ教強制懲罰部隊モステラ派遣隊の隊長ドン・ブラウドフットだ。作戦の邪魔をする愚か者は我が剣の錆にしてくれるわ」


 ドンと名乗った男はそう言うと、腰に差していた剣を引き抜いた。


「ほう、面白い。俺はシリル・アルドリットだ。カラスの親玉を仕留める名誉に預かるとはなんという誉れよ」

「ぐぬぬ、貴様、言わしておけば、もはや言葉は不要だ」


 そう言うとドンはシリルに切りかかって行った。


 私はシリルが時間を稼いでいる間に何とかカンカさんを救出しようとするのだが、その相手が非協力的なので、一人ではどうにも出来なかった。


「カンカさん、お願い私の話を聞いて」

「嫌よ、なんで私がニンゲンの話なんか聞かなければいけないのよ」

「このままだと、貴女達の一族が絶滅してしまうわよ」

「は? 今度は私を脅すつもり? ふざけないで」


 拙いわね。何を言っても否定されてしまうわ。


 そこにカーリーがやって来た。


「ねえ、こんな時に言い争いをしている時間は無いわよ」


 そんな事は分かっているが、相手が何を言っても聞いてくれないのだから、どうしようも無いでしょう。


「分かっているけど、何を言っても耳を傾けてくれないのよ」

「仕方が無いわね。私が眠らせるわ」


 カーリーのその言葉を聞いたカンカさんは私達を睨んできた。


「ふざけないで。絶対に貴女達の言いなりになんかならないわ」


 ここまで嫌われてしまうと、もう聖なる島に関する情報を手に入れる事は無理な気がしてきた。


「ぐあっ」


 そんなときシリルの悲鳴が聞こえると、ドンと名乗った男に力負けしていた。


「大変、助けなきゃ」


 それを見たカーリーがシリルに加勢するため離れて行った。


 私は何とかカンカさんに翻意してもらおうと説得を試みていると、男の声が聞こえてきた。


「この私に魔法は通用せんぞ」


 その声に私がそちらを見ると、ちょうどカーリーが放った火炎魔法が男の黒鎧に命中したところだったが、男が言うように全く効果が無いように見えた。


「ふははは、無駄だ。この黒鎧は魔法攻撃を無効化するんだ」


 そう言うと男がまるで自慢するように自分の黒鎧を手でどんと叩いていた。


 カーリーは諦めずに今度は水魔法を使ったが、これもまた男が着る黒鎧が無力化していた。


「何度やっても無駄だ」


 男が傲慢にそう言うと、カーリーは攻撃魔法を止めて見張り櫓でも使った眠らせる魔法を使ったようだ。


 だが、それもあの黒鎧に無効化されていた。


「いい加減理解したらどうだ? お前なんか私の敵ではない」

「さあ、それはどうかしら」


 するとカーリーは自分に魔法を掛け素早い動きで男に接近すると、そのまま露出している顔面部分を殴った。


「ぐぉ」


 男が後ずさりすると、少し真面目な顔に代わり剣を一閃した。


 それを何とか避けると、剣の間合いから後退していた。


「ふん、身体強化まで使えるのか。それなら私の剣技を見せてやろう」


 そして男が一気にカーリーとの距離を縮めると、手に持った剣を一閃した。


「きゃっ」


 血液がこちらまで飛んでくると、切られたカーリーはその場で倒れて動かなくなった。


「ちょっと、2人とも大丈夫?」


 あの男は接近戦にかなり自信を持っていて、それに伴う技量もあるようだ。


「残るは小娘1人か。仲間の心配より自分の心配をしたらどうだ? ん、お前、そんなところで全身泥だらけで何がしたいんだ?」

「暑かったから体を冷やしたのよ」

「ふん、愚かな小娘だ。まあよい、痛い目に遭いたくなかったら大人しく降伏するのだな」


 私はシリルを見たが、動く気配は無かった。


「さあ、どうする? 私は小娘をいたぶる趣味は無いが、必要とあればなんでもする男だぞ」


 そう言った男の目を見れば、それが本気なのは十分に伝わって来た。


「降伏はしないわ」

「ほう、私に敵うと本気で思っているのか?」

「やってみなければ分からないわね」

「ふははは、そうだ。いい事を教えてやろう。私を騙して逃げようとしているのだろうが、お前達がやって来た水路には既に部下を配置してあるから、この私から万が一にも逃げられたとしても水路で矢の雨を浴びるだろう」


 それはあまりうれしくない情報ね。


 カンカさんを連れ出すには、どうしても海側に逃げなければならないのよ。


 だが、今はここを切り抜ける事に全力を尽くしましょう。


 私が男に杖を向けると、男は笑い出した。


「ぶははは、お前は先ほどの攻撃を見ていなかったのか? それとも見たものが理解できないのか? 私には魔法は効かないのだよ」


 私は杖の先から神力弾を撃ち出した。


 目に見えない神力弾はそのまま男の黒鎧に命中すると、男は突然体が持ち上がり後ろの壁に激突した。


「うがっ、一体なにが? 娘、一体何をした?」

「教えるつもりは無いわ」


 そしてじっと睨み合っていると、男の顔が急に驚愕に変った。


「まさか、私の事をカラスと呼び、おかしな魔法を使う。そうか、分かったぞ。お前、リドルの生き残りだな」


 私が何も言わずに睨むと、男の口角が上がった。


「ふはは、なんたる僥倖、こんなところで討ち漏らした生き残りに出会うなんて。ここでお前を仕留めれば大神官様へ素晴らしい報告が出来るぞ。礼を言おう、小娘。14年前には私を出世の道に上がらせ、そして今度はその地位を盤石なものにしてくれるのだからな」

「14年前?」

「なんだ、知らないのか? お前達の里を焼いた時、私はもっとも多くの異端者を血祭に上げてやったのだ。その時の功績で私は今の地位まで昇進したんだぞ」

「つまり、私の同胞達を最も多く殺したという事ね」

「ああ、異端者など、害虫と同じだからな。そうそう、リドルの里を焼いた時、母親が泣きながら子供の命乞いをしたときは面白かったな。子供だけ助けてやろうと言った時の母親の希望に満ちた顔が、首を撥ねてやった後の絶望と怒りに変わったのを今でも忘れられん。その後、母親も子供の元に送ってやったのだから、私はとても慈悲深いだろう」


 里を焼かれた時私は赤ちゃんだったので親類縁者の記憶は無いが、目の前の男は私の親類縁者になったかもしれない人達を殺して、それをまるで虫けらを潰した程度にしか思っていないクズ中のクズだった。


 そんな奴なら私も同じことをしても、きっとなんとも思わないだろう。


「そう、それを聞いて安心したわ」

「ほう、お前は自殺願望でもあるのか?」

「いいえ、皆の墓前にお前の首を供えられることをね」

「ふん、強がりなど無意味だ。所詮、小娘では私に敵うはずがないのだからな。さて、そろそろおしゃべりも飽きたな。逆にその首、私の出世のために使ってやろう」


 そう言うと男は黒鎧に何かを取り付けた。


「これが分かるか。リドルの連中はおかしな魔法を使うからな。これはその対策だ」


 私が再び放った神力弾が男の黒鎧に命中すると今度はその威力が減衰したようで、壁まで弾き飛ばす事はなかった。


「ふははは、どうだ、見たか。まさか、これをまた使う事になるとは思わなかったが、万が一に備えて持ってきて良かったぞ」


 それが本当かどうか確かめるため、再び神力弾を放ってみた。


 だが、黒鎧に命中するとやはり減衰したように、威力が落ちていた。


「何度やっても無駄だ。さて、何時までも遊んではいられないか。そろそろその首ちょん切ってやろう」


 男は兜の顔の部分を守る吹返を閉じると、剣をこちらに向けて一気に接近してきた。


「これで最後だぁぁぁ」


 そう言って剣先をこちらに突き出してきた。


 私はその顔の部分に神力弾の狙いをつけて連続して攻撃したが、男の勢いは衰えず、その剣先が私に迫って来た。


「もらったぁ」


 男の口から勝利の雄たけびが聞こえてきた。


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