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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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73 地下牢

 

 オラシオの合図の元、もう何度目か数えるのもめんどくさくなった斉射が行われると、矢を放った仲間達がニヤリと笑みを浮かべていた。


 どうやら手ごたえがあったと思っているのだろう。


 やがて着弾観測をしていた仲間が大きくやったぜといったポーズをとっていた。


 すると、それまで真っ暗で輪郭も分からなかった正面の建物がぼんやり見えるようになっていた。


 そろそろ連中の忍耐も切れる頃かと思っていると、案の定、着弾観測をしていた仲間が大きく腕を振り始めた。


 その合図は前から決めていた、敵が出てきたというサインだった。


「おい、連中が出て来るぞ。撤収の準備を急げ」

「「「おう」」」


 仲間は矢を矢筒に戻し弓を肩に担ぐと、かがり火に水をぶっかけた。


 俺達の次の任務は拠点から出てきたカラス共を出来るだけ長い時間、拠点から遠ざけておくことだった。


「良し、撤収だ」

「「「おう」」」


 オラシオが命じる中、元漁師たちは暗い路地裏に消えて行った。


 +++++


 拠点を出たフォンシェは怒りに震えていた。


 我々の拠点を燃やそうとする愚か者共には、アマハヴァーラ教がいかに素晴らしいかをその小さな脳みそと体にこれでもかというほど思い知らせてやる必要があるのだ。


 そして機嫌が悪い指令の怒りが自分の上に落ちないように、その欲求のはけ口を用意してやらねばならないのだ。


 フォンシェは火矢を放った地点に目星をつけていたので、全力で走っていた。


「いいか、お前達、指令は夜中にたたき起こされて絶対に機嫌が悪くなっている筈だ。不機嫌な指令にどやされたくなかったら、指令の睡眠を妨害した不届者どもを全員捕らえて指令の前に並べてやるのだ」

「「「はいっ」」」


 拠点を出て目星をつけていた建物の反対側に回り込むと、そこは真っ暗な場所だった。


 暗視魔法で見えるその場所には、火が消えたかがり火台と傍に水桶があるだけだった。


 くそっ、逃げ足の速い奴らだな。


 フォンシェは地面に両手を突くと、地面に残された足跡から何処に向かったのか調べる事にした。


「よし、連中が向かった先が分かったぞ。着いて来い」

「「「はい」」」


 フォンシェはあたりを付けた路地裏に向けて走り出した。


 +++++


 見張り櫓に1人残された男は、真っ暗な闇をぼんやり眺めながら「はぁ」とため息をついた。


 今夜の見張りに指令の副官であるフォンシェ様が指揮を執っていた時は皆自分の仕事ぶりをアピールするように張り切っていたが、今は本館を襲撃した連中を捕らえるため出て行ってしまったのだ。


 連れて行かれた連中は、手柄を立てられるチャンスを掴んだと喜々として喜んでいたが、1人残された俺はそのチャンスすら得られなかった。


 フォンシェ様からは拠点内を照らして敵を探り出せと言われていたが、それはどう見てもやってます感を出しておけという事だと理解していた。


 なので、やる気をなくした俺は周囲の警戒も適当にやっていた。


 やがてフォンシェ様達の成果なのか、本館を襲う火矢による攻撃が止んでいた。


 今頃、仲間達は捕らえた犯人を捕まえて意気揚々と戻って来て、指令からよくやったと声を掛けられることだろう。


 俺を除いて。


 出世の機会を失った男が再び「はぁ」とため息をつくと、急に睡魔に襲われてきた。


 あれ、先ほど飲んだ酒がもうまわってきたのか?


 男は目を擦ってなんとか意識を保とうとしたが、限界だった。


 そのまま櫓の柱に背中を預けると、そのまま意識を失っていった。


 +++++


 私とシリルが見張り櫓の下でじっと息を殺していると、カーリーが戻って来た。


 その顔をみれば隣の櫓を無力化したのは明白だった。


「見張りを眠らせて来たわ。急いで進みましょう」

「ご苦労、それじゃ急ぐか」


 シリルに促されて私も頷くと、マーメイド族が捕らえられている建物に向けて走り出した。


 見張り櫓と2つ目の閘門を過ぎるとそこは空間が広くなった水路の終点があり、その中央に檻があったが、中は無人だった。


 マーメイド族はその奥にある建物の中のはずなので、そのまま通過していった。


 そして建物の前で一旦身を隠して危険感知を発動すると、建物の中からは反応がいくつか現れた。


 その中で1つだけ弱弱しい反応があったので、それが囚われたマーメイド族だと当たりを付けた。


「見つけたわ。だけど、敵の反応もいくつかあるわね」

「見つからずに辿り着けそうか?」


 シリルのその問いに、敵の反応を頭の中で見取り図に重ね合わせてみた。


「1つは駄目ね。多分牢番だと思う」

「ああ、牢番程度なら俺が何とかしよう。よし、行くぞ」


 そして私がナビ役となって、カラス共と鉢合わせしないように、タイミングを計りながら進んで行った。


「その階段を降りたら地下牢よ」


 私の声にシリルが反応すると、腰に下げた剣を引き抜いた。


「先に牢番を無力化する」


 そして先にシリルが階段を降りて行くと、その先で男のくぐもった声が一瞬聞こえてきた。


「どうやら済んだようね」


 カーリーがそう言うと、私を促して階段を降りて行った。


 私もカーリーの後を追って階段を降りて行くと、なんだかじめじめとした空気が漂ってきた。


 地下にある牢屋の前まで来ると、牢の中を1つずつ確かめて問わられている筈のマーメイド族を探していった。


 最後の牢を覗くと、そこは地面が泥水になっていた。


 え、居ない?


 だが、その泥水をもう一度よく見ると、一部で盛り上がっているように見えた。


 やがてそれはだんだん人の形に見えてきた。


「ねえ、貴女、カンカさん?」


 横たわったそれに声をかけてみたが、全く動かなかった。


 格子越しに見ているだけでは生死が分からないので、中に入る事にした。


「シリル、牢の鍵を探して」


 牢番が持っている筈の鍵を探すようにシリルに言うと、シリルは直ぐに動かなくなった牢番の体を探り始めた。


「あったぞ」

「それならこの牢の扉を開けてもらえる」

「ああ、分かった」


 シリルは鍵束からいくつかの鍵を試して、ようやく鉄格子の扉を開ける事に成功した。


 急いで入った牢の中で、泥の中に横たわっているのが上半身が人で下半身が魚なのを確かめてから、その頭部を抱え上げた。


「ねえ、しっかりして。貴女カンカさんよね。ここから逃がしてあげるわ」


 だが、マーメイドはぐったりしたまま意識がなかった。


 どうしよう、マーメイド族に治癒魔法が効くかどうか分からないわ。


 すると後ろからカーリーが声をかけてきた。


「水不足ね。多分」


 カーリーは魔法で水を出した水をそのままマーメイドの顔面にぶちまけた。


 その水は膝枕をしていたので私もしっかり被ったが、この際それは後回しだ。


 水を浴びたマーメイドがどうなったか見てみると、頭部から泥が洗い流された事で真っ黒だった顔が白くなり、髪の毛も鮮やかな青色に変っていた。


 そして瞼が僅かに動いたので、生きている事も確認できた。


 そこで体を揺すってみると、重たかった瞼がようやく開いてきた。


「ねえ、分かる? 貴女、カンカさんよね?」


 私が声をかけていると、ぼんやりしていた瞳にようやく光が灯ったようだ。


「に、にんげん、汚らわしい、私を放しなさい」

「え、ちょ、ちょっと、待って」


 カンカは私から逃れようと両手を突き出してきたので、たまらずその手を掴んだ。


「嫌よ、ニンゲンなんて信じられないわ」


 これは拙い、何とか落ち着かせないと。


「ちょっと待って、私は商業ギルドマスターのアロンドラ・ベルティさんから頼まれて、貴女を助けに来たのよ」

「だからって何、あの女だってニンゲン、私を裏切ったわ。そして貴女だってそうよ」


 元気になったのはいいけど、これは手こずりそうね。


「おい、時間がないぞ。手こずるようならふんじばって引きずり出せ」


 あ、ちょっと、そんな事を言ったら、余計拗れるでしょう。


 そしてカンカの顔を見たら、もう親の仇を見つけたような顔になっていた。


「いい加減、放してよ」


 そしてめちゃくちゃに両手を振り回すので、その腕が当たって私は突き飛ばされ泥の地面に転ばされたので、私も泥だらけになった。


 全く、手に負えないわ。


「だから言っただろう。そいつが暴れないようにふんじばってしまえって」


 ちょ、だから、拗れるからそんな事を言わないでよ。


「カンカさん落ち着いて、話し合いましょう」

「嫌よ、近寄らないで」


 こんな場所で何時までも押し問答しているのは拙い。


 ならいっその事、シリルの言うとおりふんじばって連れて行くしか。


「カンカさん、とりあえずここから出ましょう」


 私がそう言うと、全く予想外の声が応じてきた。


「それは困るな」


 声がした方を見ると、そこにはあの黒い鎧を着た男が立っていた。


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