72 見張り櫓
その夜、フォンシェは昼間の失態の罰として、見張り櫓での監視任務を命ぜられていた。
櫓に明かりはあるものの空や海は真っ暗で、拠点の建物は唯一本館の一部に明かりがある程度だった。
そしてロエルの町の方向に視線を移すと、そこには僅かに光が見えていて、背徳な夜を楽しむ一部の市民が酒場に集まっているのだろうと想像できた。
全く、信心深いアマハヴァーラ教の信者であれば、夜中に大騒ぎをするような馬鹿な真似はせず、明日の労働に供えて心身を休めるだろう。
神の教えに背く行動を平気で行う連中は、神の怒りを買って国が亡ぶ方向に進んでいるのが分からないのだろうかと憐れんだ。
そんな時、海の方向から声が聞こえたような気がした。
暗視で声がした方を見たが何も見えなかったので、同じく監視任務についていた者に声をかけた。
「おい、今何か聞こえなかったか?」
「え、いや、その」
一緒にいた見張り員は注意力が散漫だったようで、聞こえていなかったようだ。
だが、フォンシェは自分の耳を信じていたので、直ぐに櫓に設置されている指向性の光を投射するマジック・アイテムを海側に向けるように命じた。
この指向性の光線は、直接照射した場所を昼間のように照らし出す事が出来るし、暗視魔法では見えない隠ぺい魔法で隠れている物まで浮かび上がらせてくれる優れものなのだ。
指向性の光を投射すると、黒い海に波に当たった光が見えた。
「もっと手前を照射するんだ」
フォンシェの命令に照光器の光が海岸部分を照らし出すと、侵入者を見つけ出すため周囲の捜索を始めた。
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私が他にも魔物が潜んでいないかと危険感知を発動すると、ポツリポツリと赤い反応があった。
「すまない」
岩に擬態した魔物を倒した後でシリルが小声で謝ってきた。
「他にも居るようです。岩に近づかないように移動しましょう」
「ああ、分かった」
そして移動しようとしたとき、見張り櫓から強烈な光線が海に向けて照射された。
「やばい、見つかるぞ」
私達は傍で見つけた窪みに向けて駆けこんだ。
私達がその窪みの中に飛び込むと、その上を光線が動いて行った。
櫓から照射される光の範囲はそれほど広くはないものの、その捜索範囲がでたらめで予測が付きにくいため、その場に釘付けにされていた。
「くそっ、これだと身動きが取れないぞ」
それは分かっているけど、捕らえられているマーメイド族の所まで辿り着かないと、いけないのよ。
なんとか隙を見て接近したいのだが、見張り櫓から乱雑に照射される光から逃れる方法が見つからなかった。
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ロエルの町では、オラシオ達がアリソン達潜入班を助ける為の行動を開始しようとしていた。
右手に持った矢の先に付けた油にカラスの拠点から見えない位置に設置したかがり火の火を移すと、左手に持った弓につがえてカラスの拠点に向けて大きく弧を描くように放った。
オラシオ達が放った矢は手前の建物を越えてカラスの拠点に向かって放物線を描きながら落下していった。
それを少し離れた場所で身を隠しながら着弾観測をしていた仲間から、手信号で合図があった。
「手前に落ちたぞ、次はもう少し飛ばしてくれ」
「「おう」」
そして二の矢、三の矢が次々と放っていくと、観測係から命中の合図が送られてきた。
「よし、命中したぞ。連中が慌ててこちらに向かって来るまで、今の調子でどんどん撃っていくぞ」
「「「おう」」」
オラシオは連中の拠点が燃え上がるのを期待して、次の斉射を促していった。
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「フォンシェ殿、本館が」
見張りの緊急を告げるその声に振り返ると、本館に向けて炎の雨が落下してくるところだった。
そのうちに1つが本館にあたると、ぱあっと周りに炎が広がっていた。
「あれは火矢か。我々を攻撃するとは、いい度胸じゃないか。直ぐに警報を鳴らせ」
「はい」
拠点内に敵襲を表す警報が鳴り響くと、フォンシェは攻撃地点を特定するため火矢がやってくる方向を探し始めた。
それはロエルの町に建物の影から現れるので、おおよその地点は把握できるが、攻撃者の姿は見えないので、火矢の数でしか敵の数が分からなかった。
ちっ、面倒だな。
その地点に攻撃を仕掛けて相手の数が上回っていたなんて事は避けたかった。
「俺達も援護に向かうぞ」
「え、海岸の監視はよろしいので?」
「照光器の光でこれだけ照らしても見つからないのなら、ただの勘違いだろう。最低限の監視だけしておけばいい」
「はい、分かりました」
フォンシェは2つの櫓に居た兵士を連れて、火矢が放たれたと想定される場所に向けて急行した。
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けたたましい警報音にベッドから飛び起きたドンは、直ぐに廊下に立っている当番兵に怒鳴った。
「何事か?」
「館が火矢で攻撃されています」
それを聞いて何時もの連中にしては過激な反応だなと思った。
「俺は1階の作戦室に行く、報告は絶やさず、敵の動きを逐一報告させるのだ」
「はっ、各所に伝令を出して徹底させます」
当番兵が出て行くと、ドンは夜中にたたき起こされた事に不満を言いながら強制懲罰部隊の制服に着替えていった。
階段を降り1階の作戦室に入ると、部屋に待機していた当番兵が暖かいお茶を渡してきた。
ドンはお茶を飲んで眠気を飛ばすと、テーブル上に広げられた拠点の平面図を見つめた。
平面図の本館には敵の攻撃を示す赤い火のマークと、ロエルの市街地に敵を示す弓のマークが付けられていた。
その中で、海側の第2閘門あたりに不明を示す「?」マークが付けられてあった。
「おい、この第2閘門のマークは何だ?」
「はっ、見張り櫓のフォンシェ様から何か聞こえたという事で、照光器で調べていると報告がありました」
ドンはじっと平面図の「?」を睨んでいた。
「それで、何か発見はあったのか?」
「いえ、今の所は何も」
ドンはじっとそのマークをじっと見つめていた。
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それは突然起こった。
それまで見張り櫓からでたらめに照射されていた光が突然消えたのだ。
「どうやらギルマスが紹介してくれたあの連中が動き出したようだな」
「ええ、あの人達が、反対側で牽制してくれているようですね」
私はそれまでしつこく探していたのに急に止めた事が疑問だったが、何時までもここで停滞する訳にもいかないので、ここは同意しておくことにした。
そして暗闇の中を海側の閘門から陸側の閘門に向けて駆けて行くと、再び見張り櫓からあの光が照射された。
やっぱり罠だったかと隠れる場所を探していると、照射されているのは海側の閘門付近で、こちらでは無かった。
「くそっ、罠だったか。だが、見当違いな場所を探しているな。急いで進むぞ」
シリルはそう言ってさらに速度を上げたが、そのかけて行く先には危険感知に赤い輝点があった。
「待って、この先にはさっきの魔物がいるわ」
「くそっ」
シリルはそう毒づくと方向を変えたが、明後日の方向を探していた見張り櫓からの光が今度はこちらに向かってきたのだ。
拙い。私は周りを見回して身を隠せる場所を探したが、運が悪いのか良さそうな場所は何処にもなかった。
必死に走る私達に背後から迫る光はもうすぐそこまで迫っていた。
仕方がない、ここは敵に潜入がバレるとしても、私があの光に向けて神力弾を撃ち込んで潰すしかないわね。
私が見張り櫓の光源に向けて神力弾を放とうとすると、突然、見張り櫓からの光が消えた。
「えっ、何が?」
「だとしても、これは運が味方しているのだろう。急げ」
全力疾走していた私達は、見張り櫓から攻撃されることもなく、その下まで辿り着いていた。
「上からの攻撃に気を付けろ」
シリルの小声の注意に身を固めたが、見張りがいる筈の櫓の上からは声も無く、矢も魔法も飛んでこなかった。
「はぁ、はぁ、大丈夫、みたいね」
私が息を整えながらそう言うと、カーリーが頷いた。
「ええ、無人のようだわ。それに隣の櫓も動く気配は1つしかないわね」
しつこいほどこちらを探していたはずなのに、どうしてこんなに手薄なのかと不思議に思っていると、この先にあるカラスの建物に赤い光が落下していった。
「どうやらあの連中が牽制してくれているようだ。カーリー、櫓の見張りを眠らせてくれないか」
「う~ん、なんとかやってみるわ」
カーリーはちょっと考えていたが、やがて、隣の櫓に近づいて行った。




