表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
71/73

71 潜入

 

 捕縛が失敗して気分が悪いドンは、手にした書類を元に戻すと、上着を着て執務室の外に出た。


 ドンの執務室は正面建物の2階にあり、そこから1階に降りて裏手の扉を開けると、その先には水路がある細長い建物があった。



 そして向かった先は、ほぼ工事が完了した水路だった。


 水路の終点には水路よりも幅が広い空間があり、その中央に鉄製の格子で取り囲んだ檻が置かれていた。


 この檻の中に捕らえたマーメイド族を入れて生餌として使うのだ。


 檻のある空間と水路には閘門があり完全に水を遮断する事が出来た。


 そこから海まで水路が続き、海との接続点に2つ目の閘門があった。


 マーメイド族は海中では音波で会話するので、生餌を檻に入れて水路を水で満たせば、必ず仲間に助けを求めるはずだ。


 そうすればマーメイド族は仲間を助ける為、海から水路に殺到してくるだろう。


 そこで2つの閘門を閉め水路の水を抜いてしまえば、連中は身動きが出来なくなる。


 あとは、処分するだけの簡単な作業だ。


 ドンが罠造りの作業を眺めていると、突然作業員が騒ぎ出した。


「うわっ、岩すべりがでたぞぉ」


 岩すべりとは、海岸の岩を体にくっつけて擬態する甲殻類の魔物で、見た目がごつごつした岩なので油断してその上に足を乗せるとくっつけた岩が外れて転び、腰や足を怪我するのだ。


 そして怪我をして動けなくなった作業員に襲い掛かると言う、非情に面倒くさい魔物だった。


 お陰で作業員が何人も使い物にならなくなり、作業工期が狂わされていた。


 作業員が手に持った工具で岩すべりと戦っている現場に急行したドンは、手に持った剣で魔物を叩き切った。


 その見事な剣裁きに作業員から拍手が起こると、剣を収めたドンが直ぐに作業を再開するように促した。


 そして再び作業が始まると、その姿に大いに満足したドンは踵を返して自分の執務室に戻って行った。


 +++++


 シリルが展開した携帯型ドライウォールの中にカーリーと一緒に入ると、港湾都市ロエルの都市型ドライウォールから出てノームの中に入って行った。


「俺は海岸から海に落ちないように注意するから、アリソンとカーリーは周囲の魔魚を警戒してくれ」

「「分かったわ」」


 確かに携帯型ドライウォールで有効範囲内は視界が確保されているが、範囲外の部分はノームの濃い靄で隠されているので、不注意で足を踏み外して海に落ちたら大変な事になるだろう。


 まあ、逆に言えば、潜入の困難さから敵の警戒も薄いのも確かなのだ。


 私は自分の役割に注力するため、危険感知を発動して近づいてくる魔魚の警戒を始めた。


 隊列は、携帯型ドライウォールを展開しているシリルが先頭でカーリーが続き、私が最後を歩いていた。


 危険感知で警戒していると、その中で1つの赤い輝点がこちらに気付いたらしくまっすぐ向かってきたので、私は杖を向けると神力弾を放った。


 神力弾は赤い輝点とぶつかり消滅した。


 消滅するまでの間、私は後ろ向きに歩いていたので立ち止まったカーリーの背中にぶつかると、はずみで弾き飛ばされた。


 携帯型ドライウォールの外に出そうだった所をなんとか立ち止まろうとしたが、突き出した足元に地面が無かった。


「きゃっ」


 海岸線で足を踏み外した私が悲鳴を上げると、その声を聞いたカーリーが何とか私の手を掴んでくれた。


「引き上げられないわ。シリルも手伝って」


 ちょっと、その言い方だと私が案に重いといっているように聞こえるわよ。


 そう心の中で文句を言っていると、シリルの手が伸びてきて私を引き上げてくれた。


「ありがとう」

「気にするな」


 シリルがそう言ったが、直ぐにカーリーが文句を言った。


「ちょっと、元々はシリルが突然立ち止まったのが原因でしょう。なんですか、その偉そうな態度は?」


 カーリーが文句を言うと、シリルにちょっと困った顔をしながら、片手を前に突き出した。


「壁があって前に進めないのだから、仕方が無いだろう」


 シリルの手の先には確かに壁のような物があった。


「どうやら未完成となっていた部分が完成したようだ。これでは前に進めない。どうする?」


 どうするって言われても、前に進まなければならないのよ。


「シリル、ドライウォールの有効範囲を広げて壁の上を見せて」


 私が頼むと、シリルは携帯型ドライウォールの範囲を広げて壁の上まで見せてくれた。


 その壁は下の方は綺麗に造られていたが、上の方は急いだのか、それもといい加減な仕事をしたのか、所々穴があったり、壁の中から木材が突き出していた。


「これなら登れそうじゃない?」


 シリルは自分の手よりも上にある足場になりそうな窪みを見て目を見開いた。


「まさか、肩車をさせる気か? だが、アリソンは登れたとしても俺達は無理そうだぞ」


 まあ、神獣様達に手伝ってもらうのならそれでもいいんだけど、この先に居るのはカラスだから神獣様に頼るより、この2人に頼った方がよさそうよね。


「大丈夫だと思いますよ」

「だが、あの連中の言葉を信じてここは未完成だと思って、ロープの用意をしていなかったんだ。1人じゃ無理だろう?」

「まあ、見ててください」


 私はゴーグルをつけて神眼を開くと、グロウ様に貸してもらったツタを取り出した。


 ツタに延びろと命じると、壁にそって上方向に延びて行き突き出した木材に絡みついた。


「これなら皆で登れるでしょう?」

「ああ、そうだな」

「へえ、アリソンちゃんは、便利な物をもっているのね」


 そして私がそのツタを握ると後ろから「待て」と声がかかった。


 振り向くとシリルがグロウ様のツタを掴んでいた。


「強度を確かめる必要もあるし、上に敵兵があるかもしれないだろう。俺が先に行く」


 この先には海しかないし普通に考えたら侵入者が来るなんて誰も思っていないだろうし、私の危険感知に何も反応していないから敵兵は居ないはずだけど、まあ、あの木材の強度は分からないから、一番重そうなシリルが登ってくれるのなら安心よね。


 私はツタから手を放して、その場から離れた。


「ねえ、ここはまだノームの中だからドライウォールの有効範囲は広げておいてね」

「ああ、大丈夫だ」


 そして一歩一歩ツタの強度を確かめながら、足場を確かめて行くシリルをカーリーと一緒に見上げていた。


「ちょっとぶっきらぼうなところはありますが、あれで結構優しいのですよ」


 まあ、カーリーはシリルの仲間なのだから、信頼しているようね。


 私達が下からシリルが登って行く姿を見守っていると、やがて登り切ったのか姿が消えて、しばらく経つと再び顔が現れた。


「よし、登ってきていいぞ」


 するとカーリーが私の背中を押して先に行くように促してきた。


 私はツタを両手で握ると、両足を壁に掛けて登って行った。


 ここは神域ではないが、神眼を開いている影響が少しはあるのか、簡単に登って行く事が出来た。


 壁を登りきるとシリルが手を伸ばして私を引っ張り上げてくれた。


「ありがとう」

「どうしたしまして」


 私が上った壁の上はまだロエルの都市を覆うドライウォールの有効範囲外なので何も見えなかった。


 カラス達はこんなところまで壁を作るなんて、どれだけマーメイド族を絶滅させたいのだろうか。


 最後のカーリーが上ったところで、カラスの拠点に向けて少し進んでロエルのドライウォールの有効範囲に入ると、水路に面した海側には1つめの閘門があり、閘門が閉じているので海水が水路に入っていなかった。


 その空の水路からはまっすぐカラスの拠点に向けて水路が続き、建物の前に2つ目の閘門と見張り櫓が見えた。


 その見張り櫓には明かりが灯され、時折指向性のある強い光線が不審者の侵入を警戒するように動いていた。


「此処に居ると見つかるな。直ぐに降りよう」


 シリルの提案に頷くと、直ぐに壁の内側に向けて降りて行った。


 そこはごつごつとした岩場で、注意していないと足を滑らせそうだった。


「足元には注意してね」

「確かにそうだな」


 私が注意するとシリルとカーリーが頷いた。


 そして先頭を歩くシリルが、ごつごつした岩に足を乗せた途端、滑って転んだ。


「うわっ」


 腰を打ったシリルをカーリーが助け起こそうとすると、シリルが転んだ岩が突然襲ってきた。


「な、なんだ、これ」

「きゃっ」


 突然の事でシリルもカーリーも対応できなかったところを、私が何とか神力弾を撃って動く岩を粉砕した。


 だが、静寂な暗闇に突然音がしたことで、櫓の上で光が瞬いていた。


 拙いわね。見つかったかもしれないわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ