67 ギルドマスターとの交渉
買取品の検品と代金の受け取りを待っている間、私は捕らえられているマーメイド族にどうやったら会えるか考えていた。
すると、突然ギルドの扉が「ドン」という音とともに乱暴に開けられた。
「おい、ここに我々から人型の魚を強奪しようとする不穏分子が隠れている筈だ。大人しく差し出してもらおうか」
「既に情報は得ている。隠し立てはためにならないぞ」
いきなり入って来てそうがなり立てるのは、見覚えのある黒い鎧を着た連中だった。
私は無意識のうちにシリルの影に隠れた。
シリルは私の行動を見て連中からの視線を遮るようにしてくれた。
ギルド内を見回したカラス共は、一瞬こちらに視線を向けると口角が上がったように見えた。
するとカラスがこちらに向かってきた。
まさか、私がリドル一族だとバレた?
シリルの背中で前は見えないが、カラスがこちらに近づく「コツコツ」という足音が大きくなるのが分かった。
カラスなんかに捕まって一族の里と同じように抹殺されるくらいなら、最後まで抵抗してやるわ。
私は左腕のブレスレットに手を翳し、その時を待った。
シリルの背中から緊張が伝わって来たのでその時が来たのかと思ったが、直ぐにシリルの体から緊張が消えた。
危機が去った事にほっとしたが、直ぐに状況がどうなっているのか知りたくなってそっとシリルの背中越しに前を見ると、カラスは先ほどの受付嬢の前に立っていた。
「なんだ、ギルドマスターが受付をするほど暇なのか」
え、ギルドマスターだったの?
「ふん、貴方達が大事な取引相手を拘束したから、こちらは商売があがったりなのよ」
「まさかギルドマスターが反乱分子に関わっていないだろうな?」
「そんな連中はここにはいないわ」
ギルドマスターは、カラスの圧力に一歩も引かないという意思を示しているのか両腕を腰に当てて唇と尖らせて怒っていた。
カラスとギルドマスターは暫くの間睨み合っていたようだが、先に目をそらしたのはカラスの方だった。
「ふん、俺達がモステラの環境を元に戻してやろうとしているのに、それに抵抗するとはお前らは本当に愚か者だな」
うん、モステラの環境を元に戻す?
私の疑問に答えたのはギルドマスターだった。
「モステラの環境を悪化させているのがマーメイド族だなんて、そんな戯言誰が信じるのよ」
「ふははは、それは俺達の計画が完了したら分かる事だ。いいか、俺達の邪魔をするなよ。分かったな」
そう言うとカラスは商業ギルドから出ていった。
そして緊張していた空気が緩むと、ギルドマスターも緊張を解き、驚き顔の私の方を見た。
「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はここのギルドマスターアロンドロ・ベルティよ。よろしくね」
「あ、私はアリソンと言います」
ギルドマスターはカラスが出て行った扉に視線を移した。
「貴女達、アマハヴァーラ教の連中に抵抗しようとしていたわね」
ああ、見られていたか。
でも、私達?
私はそっとシリルとカーリーを見ると、2人ともそれを肯定するように頷いた。
「ああ、1人で抵抗しようとしてたからな。助けるのは当然だろう?」
「ええ、仲間としては当然ですね」
という事は、この2人はカラスの関係者ではないという事か。
「ええ、こちらに火の粉が降りかかって来そうだったので、振り払うのは普通ですよね?」
私がそう言うと、ギルドマスターも笑みを浮かべた。
「敵の敵は味方って事ね。ねえ、貴女達がよかったら奥でちょっと話をしない?」
私がシリルとカーリーに視線を移すと2人とも頷いたので、同意することにした。
「ええ、分かりました」
ギルドマスターに案内された部屋には、中央にソファセットが鎮座しており、壁には歴代ギルドマスターの肖像画が並んでいた。
「どうぞ、座って」
勧められたのは3人掛けの長椅子だったので、なんとなく私が中央でシリルとカーリーが両脇を固める事になった。
目の前にはギルドマスターが座り、本物の受付嬢がお茶を用意してくれた。
そしてお茶を飲みながら、ギルドマスターからロエルの状況について改めて説明してもらった。
それが済むとギルドマスターの顔が真剣なものに変ったので、ここからが本題なのだと分かった。
「買い取りの時、ユッカの事を言っていたけど、私の認識だとユッカは魔樹が蔓延していて、人間は結界の中だけしか生きられないはずだけど、今は違うのかしら?」
「ああ、それなら魔樹は出なくなったぞ」
「ええ、それに人々は森に入って、山菜やら薬草やらを摘み取っているわね。実に逞しいわ」
私が口を開く前にシリルとカーリーがユッカで見てきたことを話していた。
「その言い方だと、貴女達はユッカ出身ではないのね?」
「ああ、俺達はバキラ出身だ」
「バキラ・・・それは大変ね」
「まあ、お互い様ってところだな」
私は知らないが、モステラとバキラは隣国同士だからお互いの状況は分かっているようね。
「それで、貴女達はユッカの環境が改善した要因を何か知っているの?」
その質問にはシリルとカーリーも興味があるらしく、全員の視線が私に集まった。
全員の視線には悪意のような物を感じなかったので、情報を出しても大丈夫そうだった。
「ユッカの森の中にはエルフ族が住んでいるのです」
「モステラにマーメイド族が住んでいるのと同じような感じなのね」
ギルドマスターがそう相槌を打ってきた。
「ええ、それでエルフ達にここでの質問と同じ事を聞いてみたのです。するとエルフ達は普段は絶対に立ち入らない禁忌の地があると教えてくれました」
ギルドマスターの目が見開かれたので、エルフ達の言いう禁忌の地とマーメイド達が言う聖なる島に何か関連性がある事に気が付いたようだ。
「そして長老の許可を貰ってその地に行くと、環境を悪化させている原因が潜んでいましたので、それを直しました」
「では、モステラの環境を元に戻すにはマーメイド族が言っている聖なる島に原因が潜んでいて、それを直せば元に戻ると?」
ギルドマスターがそう聞いてきたので、私が肯定の意味を込めて頷いた。
「ええ、実際にその場所に行ってみなければ分かりませんが、可能性はあると思います。そのためには捕らえられていると言うマーメイド族に会って、その場所を教えてもらう必要があるのです」
すると、ギルドマスターの目が光ったような気がした。
「それは不幸中の幸いかもしれないわね。捕まっているマーメイド族はカンカさんと言って族長の孫娘なの、もし、彼女を解放する事が出来れば、族長も感謝の印として聖なる島への立ち入り許可を出してくれるかもよ」
簡単に言ってくれるけど、カラス達の拠点の中で何処にマーメイドが捕まっているのか情報が無いのよ。
ぶっつけ本番で潜入して、やみくもに探すなんて事は無理だからね。
「簡単に言ってくれますが、まさか連中の拠点に行って馬鹿正直にちょっとマーメイドに合わせて下さいと言えとでも?」
「ぶふっ、まさか、そんな事は言ってないわよ」
「それじゃあどうするのです? 少なくとも施設の見取り図と捕らえられているマーメイドが何処に居るのかの情報が必要ですよ」
「ああ、それなら多分手に入ると思うわ」
「え、どうやって?」
するとギルドマスターはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「さっき、連中が不穏分子とか言っていたでしょう。彼らは多分情報を持っていると思うわよ」
「え、という事は、不穏分子というのをギルドで匿っているのですか?」
「まさか、曲がりなりにもここは正当な商業ギルドなのよ。犯罪の片棒を担ぐことはしないわ。だけど、連中の隠れ家に関する情報は個人的に持っているわ」
この人何者なんだろう?
まあ、でも、それならガイア様とグロウ様のお力を貸してもらえれば、マーメイド族を解放出来るかもしれないわね。
私の事をじっと見つめていたギルドマスターから、やっぱりというか覚悟していた質問が飛んできた。
「連中の拠点に潜入して、囚われのお姫様を解放出来ると思っているわね? 貴女、いったい何者なの?」
ギルドマスターの目は鋭く、私が次に言う言葉が真実か嘘か見極めようとしているようだった。
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