66 沿岸都市
朝、起きてきた2人は私が10代の姿に戻っていたことから、また目を見開いて驚いていた。
昼間魔魚との戦闘で疲れた2人がぐっすりと眠っている隙にグロウ様に元に戻してもらっていたので、私が突然元に戻ったと思われたようだ。
それから眠る時にドライウォールの有効範囲を広げていたので、昼間有効範囲を狭めていたのは魔魚を退治して食料と魔石を得るのが目的だったらしい。
「神官様、元に戻られたのですね?」
「はい、もう姿を偽る必要が無くなりましたので、元に戻しました」
「それも国家機密なのですか?」
シリルが半ば呆れたような顔でそう聞いてきたので、ここは全力で乗っかることにした。
「ええ、そのとおりです」
そして何日もの野営を繰り返しようやくロエルに辿り着いた。
ノームの白い靄が突然消え目の前に町が見えたところで、シリルが携帯型ドライウォールを停止させた。
ロエルの町は通りを歩く人の姿が無く人口が減少した錆びれた町なのかと思ったが、何だか空気が重い感じがした。
「なんだか、異常を感じるわね」
私がそう言うとシリルが頷いた。
「ああ、確かに、それで神官様は直ぐにでも神殿に行くのか?」
神殿に行くと言ってもロエルにあるアマハヴァーラ教の関連施設はカラス共の拠点しかなく、リドル一族を識別できる人間が居るというカラスの拠点に、態々こちらから行く気は無いのだ。
確かにダルチェの神殿長にはマーメイドの解放をカラスに言ってくれないかとは頼まれているが、私の本来の目的はカルテアへの巡行であり、そのためにはモーフ様のお世話をして環境を戻し、船でカルテアに行くのが1番の近道なのだ。
まあ、その過程でマーメイドを救出する機会もあるかもしれないけどね。
それに可能性は極端に低いけど、捕らえられたマーメイドがこの地で悪さをしていたため捕まったのかもしれないじゃない。
今はどの行動が最善なのかを判断するため、情報を集める事が先決だった。
「今は止めておくわ」
「それじゃあ、この後はどうする?」
シリルがそう聞いてきたので、まずは都合の悪い事を話しておくことにした。
「その前にお願いなんだけど、この町はアマハヴァーラ教の神官が嫌われているらしいの。だから、この町では私の事を神官ではなく、アリソンと呼んで下さい」
せっかくレアムバルの漁師さんに忠告してもらったのだから、有効活用しないとね。
「そうなのか。分かった」
シリルが頷いたので、今度は次の行動について提案した。
「此処までの道中で手に入れた魔魚の肉や魔石を換金してしまいましょう。そこでこの空気が重い理由を教えてもらえるかもしれないでしょう」
ダルチェからここまで来る道中で結構魔魚に襲われたので、それを撃退した分だけ魔魚肉や魔石が沢山手に入れていたのだ。
魔魚は腐敗しないようにガイア様に保管してもらっているが、何時までもガイア様に保管してもらう訳にもいかないわよね。
「ああ、商業ギルドか。ちょっと、探してくるから2人はここで待っていてくれ」
「あ、ちょっと」
私が手分けした方が良いと言おうとしたが、既にシリルの姿は遠く離れていた。
「仕方がありませんよ、ここで待っていましょう」
カーリーは慣れているのか、そう言うと腰かける場所を探してのんびりしていた。
私はカーリーほど呑気ではないので、この町に入ってから感じている重たい空気が気になって仕方が無かった。
その空気に耐えられなくなってカーリーにシリルを探しに行こうと言おうとしたところで、家の影からシリルが姿を現した。
「お~い、見つけたぞぉ」
その声を聞いたカーリーが素早く立ち上がると、私に声をかけてきた。
「さ、アリソンちゃん、行きましょうか」
「え、ええ」
どうやら私がシリルに言った事をちゃんと聞いてくれていたようだ。
シリルと合流すると、そっと囁いてきた。
「商業ギルドで問題が起こっているようだったが、それでも行くか?」
「ええ、むしろ簡単に情報が得られそうだし好都合じゃない」
私がそう言うと、シリルは半ば呆れたような顔をしていた。
「そうやってもめ事に首を突っ込むから、問題に巻き込まれるんじゃないのか?」
「そんな事ないわよ」
態々面倒事に首を突っ込みに行った記憶はないわ。
それに決して運が悪いなんて事も無いはずよ。
ナッシュの町で攫われたのは私を狙っていたんだし、迷いの森に入った時はたまたま私の姿が目に付いただけよ。
あれ、森の手前で私が目立つ行動をしたから目に付いたんじゃ。
大神殿でとんでもない物を見つけたのは私じゃないし・・・あれは、私が鍵を開けちゃったからだったわね。
ううん、私が運が悪いなんて事は絶対無いはずよ。
私は強く否定すると、問題が起きていると言う商業ギルドに向かう事にした。
私達が商業ギルドの建物の中に入ると、そこでも空気は重いままだった。
それに活気も無かった。
「活気が無いけど、何かあったのですか?」
私が受付の女性にそう声をかけると、「はぁ」というため息が返ってきた。
「外の人? 珍しわね」
受付の女性も暇だったのか、それとも誰かに愚痴を言いたかったのか分からないがとても饒舌だった。
それによるとこの町に居るカラス共が取引にやって来たマーメイド族を捕まえてしまったため、浮遊魚の毒消しの材料が手に入らなくなったそうだ。
毒消しの在庫がほぼ底をついたため漁師達は魔魚狩に出られなくなり、漁師達は収入の途絶に、町は食料確保手段の途絶に暴動寸前となっているらしい。
一部の者はカラスの拠点を襲撃して捕らえられているマーメイドを解放しようといい、別の者は隣町に逃げ出そうとしていた。
成程、それなら私にはその両方を短期的には解決できそうね。
その間にこの町でモーフ様に関する情報を得られたら、ノーム自体をなんとかできるかもしれない。
相手から有用な情報を仕入れる為には、まずは好印象を持ってもらう必要があるわね。
「そうだったのですね。それでは買い取りをお願いしたいのですが?」
「買い取りですか? 分かりました。こちらに出してください」
受付嬢はそう言って隣のカウンターをさししめした。
買取カウンターの男性職員は、私が手ぶらなのを見て怪訝そうな顔をしていた。
「お嬢ちゃん、持ち込み品はポケットの中かい?」
おじさんは明らかにこちらを馬鹿にしているような素振りだった。
「ああ、それならこちらです」
私はゴーレム馬にしか見えないガイア様の口の中から魔魚を取り出した。
「お嬢ちゃん、その馬は何なんだ?」
「これは収納用のマジック・アイテムですよ」
「へえ、そんな自立型のマジック・アイテムもあるのか?」
ガイア様の詳細を喋る事はできないので、ここはスルーしておくことにした。
カウンターの上には魔魚が山と積まれ、その隣には同じように魔石の山が出来上がっていた。
そのあまりの量に、おじさんの顔が先ほどまでこちらを小馬鹿にしていたものから、今では驚愕という言葉が似あう程変わっていた。
「凄い量だな」
「ええ、それとこれもお願いしますね」
そう言ってレアムバルで現金に代えなかった残りの甲羅草を取り出した。
おじさんは甲羅草を鑑定して目を見開いた。
「これは浮遊魚の毒消しに使えるぞ。一体どこで仕入れて来たんだ?」
「それはユッカで採取した薬草です。レアムバルの商業ギルドでも情報を教えてきましたから、あの町で手に入るかもしれませんよ」
「へえ、そうなのね。大量の食糧と貴重な情報はとても助かったわ。まさかユッカから旅行者が来るとは思わなかったけど」
久しぶりの大量入荷に商業ギルド内が湧きたったところで、私の印象も良くなっただろう。
私は早速質問してみる事にした。
「この町で立ち入りが禁止されている場所とか、変な噂が立っているような場所はありませんか?」
「え、おかしなことを聞くのね」
それでも受付嬢は嫌な顔をすることも無く、何やら思い当たる事を思い出してくれているようだ。
「そういえば、マーメイド族から聖なる島があるって聞いた事があったわね」
聖なる島だって?
何だか神獣様の居場所のような響きがあるわね。
「それは何処にあるのですか?」
「そこまでは知らないわ。マーメイド族が人族が作った武器が欲しいと言っていたので、理由を聞いてみたことがあったのよ。そうしたら、聖なる島に行くのに邪魔な魔魚を排除するのに使うんだって教えてくれたのよ」
こうなってくると、カラスが捕らえていると言うマーメイド族に会う事が最優先事項になってしまったわね。
問題はどうやって会うかだけど。




