表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
64/73

64 三文芝居

 

 シリル達との待ち合わせ場所に時間ぴったりで着くと、既に2人は待っていた。


「お待たせしました」


 私がそう言うと、2人は眉根を寄せた。


「失礼ですが、ご老人、誰かと間違われていますよ」

「ひょっとしてボケ老人か?」


 2人の反応を見て、これなら問題なく城門を抜けられることを確信した。


「違います。アリソンです。どうです、凄い変装でしょう?」


 私がそう言うと、2人はあんぐりと口を開けていた。


「い、一体どうやって?」

「ちょっと待て、それが変装? 明らかに別人じゃないか」

「それじゃあ、合言葉で確かめますか?」


 2人は別れた時に決めた合言葉が合っている事から、老婆の姿をしている私を信じてくれたようだ。


「どうやったら自分の年齢を変えられるのです?」

「ふふふ、それは秘密です。それよりも、せっかく変装したのですから、検問所で質問された時のために、私達の関係性を事前に決めておきましょうか」


 私がそう言うと2人はちょっと考えてから、シリルが手を叩いた。


「それでは、年老いた母親と息子夫婦にしようか。カーリーもそれでいいよな」


 まあ、私の外見は老婆だからなんだっていいけどね。



 そして沿岸都市ロエルへの最寄りの出口である東門に到着すると、そこには検問所があった。


 私は同行しているシリルとカーリーに合図を送ると、検問所に向けて歩き出した。


 城の外がノームが覆う場所という事もあり外に出ようとする者は殆どいないため、直ぐに検問所に到着した。


 そこにはカラスの特徴である黒い鎧を着た兵士が立っていた。


 ふふふ、でも今の私はどこからどう見ても只の老婆なのだ。


 たとえ、髪の色が緑だろうと、瞳の色が緑だろうと、今の私は手配されている若い女ではないのだ。


 あそこに突っ立っているカラスにだって、私が手配書のアリソンだって分かりはしないのよ。


 黒い鎧を纏った男がじっと私を見ているような気がするが、気にしない、気にしない。


 そして目の前を通り抜けようとしたところで、男が口を開いた。


「待て」


 その言葉に私と同行していたシリル達もぴくりと反応した。


 +++++


 王都にある4つの門のうち、東門の検問所で通行人をチェックしていたエリアスは、目の前を緑髪の老婆が通り過ぎようとしているのを見つめていた。


 老婆は、やや前かがみになってちょっと頼りなさげに歩いていた。


 どこからどう見ても老婆なのだが、エリアスの感が何かおかしいと告げていた。


 エリアスは今まで自分の感に頼って何度となく難局を切り抜けた経験がある事から、今回もそれに従う事にしたのだ。


 +++++


 王都東門でカラスに呼び止められた私は老人に扮装しているので聞こえなかった事にしてそのまま城門から出てしまおうとしたが、それは相手もお見通しだったらしく、直ぐに行く手を塞がれてしまった。


「待て、待て、婆さん、あんたに言ったんだよ」


 駄目だったか。


 それにしても何でグロウ様に施してもらった変装が見破られてしまったの?


 私がそっと顔を上げると、そこにはこちらを覗き込む男の顔があった。


 だが、その顔はこちらの正体を見破ったというよりも、探っているような感じに見えた。


 それはそうよね、今の私は神官服も着ていないし、どこからどう見ても平民の老婆なのだから。


「婆さん、何処に行くんだ?」


 別にロエルの町は旅行禁止にはなっていないはず。


「ええっと、ロエルの町じゃよ」

「ロエルだと? 一体何しに行くんだ?」


 男の眉間に皺が寄ったところで、シリルが口をはさんできた。


「あのうちょっと良いですか。ロエルには爺様の墓があるんで、これから婆様を連れて墓参りに行くんでさあ」

「墓参りだと? お前、携帯型ドライウォールは所持しているのか?」

「ええ、ちゃんと所持しております」

「ほう、そうか。おい、こいつらを拘束しろ」


 あ、しまった。


 食料輸送とか重要な案件ならいざしらず、平民が個人的事情で高価な携帯型ドライウォールを使うなんて、そりゃ、お前ら誰だって思われてしまうわよねぇ。



 テーブルに座らされた私の前には見覚えのある男が座っていた。


 椅子の背もたれにもたれかかり、両腕を組んでこちらを態と見下ろしている姿は、明らかにこちらを威圧しているようだ。


 こちらを委縮させようとしているのが見え見えなのよ。


 でも私は余裕だった。


 なんたって、お祖母ちゃんやご近所のおばちゃん達が日頃話している会話を知っていたし、それを真似ればいいと分かっていたからだ。


「婆さん、歳はいくつだ?」

「63じゃ。どうじゃ、ぴちぴちしておるじゃろ」


 そして態と頬に手を当ててやると、それまで前のめりだった男が引いていた。


「その歳じゃ、腰が痛かったり、足が痛かったりしないのか?」

「いいや、どこも悪い所はないぞ」


 まあ、お祖母ちゃんは腰が痛いとか肩が痛いとか言っているけど、まだ10代の私にはそんな事はないからね。


 それに痛いなんて言ったら、それを理由に外に出るのを禁じられる気がするわ。


 目の前の男は、期待した答えが返ってこないのが不満そうだった。


「ロエルは随分遠いんだぞ。馬車ならまだしも、あんな場所まで歩いて行くつもりか?」

「何を言っておる。まだまだ若いもんには負けん」


 本当ならガイア様に背中に乗せてもらってらくちんな旅になる筈なのだけど、あの2人が居たらそれも無理そうよね。


「なんで、今頃ロエルに行くんだ?」

「爺様と一緒になってちょうど50年の節目の年なんじゃ」


 ふふ、絶対に大変とか疲れるとか言ってあげないわよ。


 でも、ここまで言われ続けているのにも飽きたわね。


 そうだ、ご近所のお祖母さんが、無礼な相手にそれとなく伝える方法だと言っていた言葉を使ってみようかしら?


 そして私はテーブルの上に態と視線を落とした。


「なんじゃ、ここは茶の一杯も出さんのか? さっきから質問ばかりされていい加減喉が渇いたぞ」


 男は目を見開いた。


 それは絶句しているといった感じだったが、直ぐに気を取り直すと私を睨みながら「おい」と声を上げた。


 すると扉が開き、男の部下らしき者が顔を出した。


「はい、何でしょうか?」

「この婆さんが茶が欲しいとよ。持ってきてやれ」

「分かりました」



 私は態とゆっくり出されたお茶をすすった。


「ずずっ。ふう、やっと人心地ついたわい」

「ああ、それは良かったな。いいか婆さん、ここは検問所だ。尋問中に茶を要求されたのは初めてだ」

「そうなのか」


 ご近所のお祖母さんは良く行っていたような気がするのだけど、これは時と場所を選ばないと駄目だったみたいね。


 男は気を取り直したようで、再び尋問を始めた。


「それで、行先は本当にロエルなのか?」

「そうじゃよ」


 私が肯定すると、男は眉間に眉を寄せた。


「なあ、婆ちゃん、何度も言うがロエルは遠いんだぞ。ノームの中をロエルまで辿り着けると思っているのか?」

「何、大丈夫じゃ。体は元気じゃからな」

「ノームの中には魔魚がうようよしているんだぞ? 本当に大丈夫か?」

「それなら息子夫婦がおるから大丈夫じゃ。あの2人は強いからのぅ」


 もしかして、この男は私の外見が老婆だから心配してくれているの?


 ひょっとしていい人だったりして?


「それにしても珍しい緑眼、緑髪だよな」

「緑髪はそうかもしれんが、緑眼はさほど珍しくはないじゃろう?」

「ほう、緑髪が珍しいのは知っているのか」

「そんなもん、町を歩いていれば嫌でも分かるじゃろ」


 ふふふ、お祖母ちゃんやご近所さん達の真似ならよく見ていたから得意なのよ。


 だんだん調子に乗って来たところで、扉をノックする音が聞こえてきた。


「入れ」


 男がそう言うと、扉を開けて入って来たのは灰色の下級神官見習いの服を着た幼さが残る小さな女の子だった。


「モロ様、急用とはどのような御用でしょうか?」

「ああ、この婆さんの服を脱がして本当にババアなのか確かめるんだ」


 いや、前言撤回。こいつはやっぱりカラスだ。


 モロと呼ばれた男は、私を見てにやりと笑みを浮かべると椅子から立ち上がった。


「まあ、ババアとはいえ女だからな。俺は席を外してやるよ」


 いや、絶対シワシワの体なんか見たくないというのが本音じゃないのか。



「それでは検査させてもらいます」


 下級神官見習いはそう言ってこちらにぺこりと頭を下げた。


 まさか本当に身体検査をされるとは思わなかったが、幼い女の子を困らせる訳にもいかないので、渋々服を脱ぐことにした。


 そして下着姿になると、見習いの子は私の腕をじっと見つめていた。


「あの、それは何ですか?」

「ああ、これは私のお祖母ちゃんの形見じゃよ」

「綺麗な石ですね」


 見習いの子は神獣様達の分身体が宿る神石を見ていた。


 まさかバレたとは思わないけど、取り上げられないように注意しておいた方がいいわね。


「これは只の石じゃが、私にとってはとても大事な物なんじゃよ」

「そ、そうなんですね」

「のう、少し寒くなったから服を着ても良いかね?」

「あ、もう、いいですよ」


 そして私が服を着ると、見習いの子は部屋から出て行き、代わりにモロと呼ばれた男が入って来た。


 その顔には不満そうな表情があった。


「ちっ、只の婆さんだったか」


 ふふん、グロウ様の能力なのだから見破られる訳が無いでしょう。


「もう、いいかの。そろそろ飽きてきたんじゃが」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ