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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
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63 脱出準備

 

 アマハヴァーラ教懲罰部隊モステラ派遣隊で王都ダルチェの留守役を命じられたエリアス・モロは、アンスリウムからやって来た神官が出頭に応じるのを待っていたが、その気配が無い事を訝り、神殿内の協力者に宿泊している部屋に様子を見に行かせると、既に出立した後だった。


 エリアスは、アンスリウムからやって来た神官がこちらの呼び出しを無視して出発した事に強い懸念を抱いた。


 隊長がロエルで重大な作戦を遂行中のこの時期にやって来たタイミング、ダルチェの神殿長と面会して直ぐに出て行った事で、なにやら嫌な予感を感じていた。


 ロエルでの作戦に悪影響を及ぼす可能性が無ければよいがその疑いが少しでもあるのなら、それを阻止するのが留守役の俺の仕事なのだ。


 覚悟を決めたエリアスは、逃げ出した神官を捕まえて尋問することに決めた。


 だが、ダルチェで信用がおけるのは懲罰部隊の隊員だけだったが、本体がロエルで作戦遂行中のため、動かせる人員は少なかった。


 人手不足の中で緑髪の神官を捕まえる方法は1つしかなかった。


 +++++


「神官様に一目惚れしたからです」


 私は最初何を言われているのか分からなかったが、次第に揶揄われているのだと理解した。


「ああ、そうですか。女性にはいつも同じ言葉を言っているような感じがしますね」


 真面目に聞いたのに、茶化された私は冷たくそう言い放つと、カーリーが噴き出した。


「ぶふっ、全く酷い対応ですよシリル。神官様、実は貴女がアマハヴァーラ神が環境を整えているわけが無いという言葉に興味を持ったのです。貴女に協力したらその意味を教えてもらえませんか?」


 この2人の少し褐色の肌を見てアンスリウム人ではないのは分かっていたが、それでもカラスと無関係であることを確かめないと何も話せないわね。


「私がそんな事を言ったと言うのですか?」

「ええ、神官様が見習いの試験を受ける日に、そう呟いたのをしっかりこの耳で聞きましたよ」


 シリルはそう言って自分の耳を指さしていた。


 まさか、あの時の独り言を聞かれていたとは思わなかったわ。


「お2人はどこの国の方ですか?」


 2人はお互い顔を見合わせてから、シリルが教えてくれた。


「俺達はバキラからやって来たんだ」


 バキラというとモステラのお隣さんですか。


 私が黙っていると、今度はカーリーが口を開いた。


「バキラでちょっとした問題が発生しているので、その問題解決のため情報提供をしてもらえないかと思ったのです」


 カーリーの顔には真剣さがあった。


 どうやら本当の事を話しているようだが、具体的な事は何一つ話していない事から、どこまで信じていいか分からないわね。


 カラスは狡猾なので、これが連中の常套手段かもしれないのだ。


「それにしても下級神官見習い試験で呟いた独り言を信じて此処まで追いかけて来るなんて、普通ならありえませんよね?」


 私がそう尋ねると2人は一瞬お互い顔を見合わせたが、やがてシリルが口を開いた。


「我々もユッカを経由してアンスリウムにやってきましたが、ユッカを抜けるには相当苦労しましたよ。それが、神官様の後を追って再びユッカの地に入ったら魔樹は出ない、迷いの森には王都バシュラールまで全く迷わないように直線の道にしか見えないブレス痕が出来ている。こんな偶然、普通ならあり得ませんよね? 誰がどう考えたって神官様が原因だと思うでしょう」

「あ、ははは」


 そう指摘されるともう笑うしかなかった。


「バシュラールに辿り着いて神官様の居場所を調べようとしたら、突然結界が消え、神官様がユッカに捕まっていると聞いたのに簡単に脱獄してるし、ボロボロの恰好で逃げ帰って来たユッカの騎士団に話を聞くと、神官様に返り討ちに遭ったと言っていましたよ」

「うっ」


 それは私ではなく、グロウ様が呼び出した魔樹の仕業なのに、言い返せない。


 だけど、私がユッカに捕まっていたことは、国家権力に接触しないと分からない事では?


「そして騎士団に聞いて神官様の後を追うと、これまた都合が良いようにモステラ国境までまっすぐ続く小道がありましたよ。もう笑うしか無かったですね」


 シリルはにこやかに笑っていたが、次の瞬間には大真面目な表情に変わっていた。


「神官様、ナッシュで攫われた時も単独で脱出しましたよね? ユッカ王家や無頼漢に捕まっても簡単に脱出して、迷いの森も苦も無く通過する。神官様は一体何者なのですか?」


 私は息を飲んだ。


 この男がカラスの一員で、私がアマハヴァーラ教に潜入した異教徒だと疑っている可能性はどれくらいあるのだろう?


 まだ、下手な事は言えないわね。


「それに答えるには、まだ貴方達は信用できていないわ」


 私がそう言うと、しばらく2人とも無言になった。


「分かりました。それでは神官殿の信頼を勝ち取るため、協力させてもらいましょう」


 もしかしてこの2人は、ロエルまで付いてくるつもりなの?



 私達が入った小さな食堂で朝食後にそんな話をしていると、次第に他の客達でテーブルが埋まって来ていた。


 そして陽気で声が大きい客達の話声がこちらにも聞こえてきた。


「おい、聞いたか、アマハヴァーラ教が懸賞金をかけた女がいるってよ」

「懸賞金? どれくらいなんだ?」


 仲間が興味を持ったのが嬉しかったのか、男はにやりと笑みを浮かべると、そっと掌を見せた。


「金貨5枚だそうだ」

「ほう、それは凄いな。それで、そんな懸賞金が付くんなら、相手は戦士職とかのとんでもない化け物女なのか?」


 そこまで話して、周りの客が興味を持って食事の手を止めたのを認めた男は、少し声を落とした。


「いや、成人したばかりの若い女らしい」

「え、そんなん沢山いるじゃないか。他の特徴と勝手無いのか?」

「ああ、ちゃんとあるぞ」

「それは何だ?」

「緑髪に緑眼らしい」

「そんな目立つ格好なら懸賞金をかけるまでもないんじゃないのか?」

「ああ、連中は王都から出さないように4つある城門で検問しているが、流石に街中まで手が回らないらしい。それで懸賞金をかけたらしいぞ」

「へえ、成程、なあ、それならちょっと探してみないか?」

「ああ、酒代には丁度いいな」



 男達の話を聞いて、カラス共が私を探しているのははっきりした。


 後は、連中に見つからずにどうやって王都から脱出するかね。


 今はフードを被って髪の色を隠しているけど、検問所はこのままでは通り抜けられないだろう。


「なあ、カーリー、神官様の髪の色を変える魔法ってあるか?」

「髪の色を変えるマジック・アイテムがあるはずだけど、この町で売っているかどうかは分からないわね」


 どうやらこの2人は私が王都から脱出するのに本気で協力してくれるらしい。


「あの、その必要はありませんよ」


 私がそう言うと、シリルが驚いた顔で聞いてきた。


「そう言えばアンスリウムでは黄色の髪でしたね。ひょっとして髪の色を元に戻すのですか?」


 それが出来れば簡単なんだけど、多分無理そうよね。


「違います。だけど、変装はしますので、問題ないかと思っています」


 私がそう言うと2人は、何を言っているんだという顔をしていた。



 待ち合わせ場所と集合時間と合言葉を決めて2人と別れると、私は誰もいない場所を探した。


 そして誰もいない小屋を見つけてそこに入り、ブレスレットの神緑石に触れてグロウ様の分身体を呼び出した。


「アリーちゃん、わらわに何か用かの?」

「はい、追っ手をまくために変装したいのです。そこで私の姿を老婆にすることは可能でしょうか?」


 私がそう提案すると、グロウ様はちょっと小首を傾げているような?


「老婆? アリーちゃん、本当に老婆に化けられるのかい?」

「はい、私はおばあちゃん子なので、老人に化けるのは問題ありません」

「うむ、分かった」


 グロウ様のユリのつぼみのような手がぱかっと開くと、そこからあの成長光線を浴びた。


 成長光線を浴びた私はつやつやだった肌がシワシワになっていった。


 ポケットから取り出した手鏡で自分の顔を見ると、目じりに皺が寄り、ほうれい線がくっきりと現れていて、どこからどう見ても老婆になっていた。


「アリーちゃん、わらわの力でその問題とやらを何とかしても良いのだぞ?」

「いえ、これで大丈夫だと思います。グロウ様、ありがとうございました。少しの間神緑石に戻っていて下さいね」


 そして私は、グロウ様を神緑石に戻した。


 さて、それではあの2人との待ち合わせ場所に行きますか。


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