60 王都へ
レアムバルの町を出発した私達は、魔物から身をまもるためガイア様に神域を展開してもらっていた。
靄のお陰で視界が全く効かないので、足元に見える道にそって歩かなければ直ぐに遭難してしまいそうだった。
そしてしばらく歩いていると、突然目の前に瓦礫が積み上がり道が消えていた。
それを避けようと右にずれてみると、そこにはボロボロに崩れた壁のような人工物があった。
その壁の厚みから町を取り囲む城壁ではなく、家の壁面のようで、壁の向こう側にも大量の瓦礫があり、その中に壊れた生活用品のような物もあった。
どう見ても、人が住んでいた家のようね。
そして自分の位置を見失わないように注意しながら周囲の状況を確かめてみると、沢山の家が破壊されているようだった。
「ここが、レアムバルの商業ギルドが言っていた魔物に潰された町のようですね」
私がそう言うと、ガイア様もグロウ様の同意の声を上げた。
「確かに、この破壊具合から見て、魔物の仕業に見えるな」
「あの大きな魔魚に破壊されたのじゃろう」
町が徹底的に破壊されているようで、今居る場所が道なのか破壊された家なのかさっぱり分からなくなっていた。
このままだと、廃墟の中で方向を見失いそうだった。
それに瓦礫の山は脆くなっていて突然崩れて生き埋めになる可能性もあり、鋭く尖った破片を踏んで足を怪我する危険もありそうだったので、このまま突き進むのを止めて元の場所に戻る事にした。
慎重に歩きながらようやく元の場所に戻って来ると、今度は瓦礫の周囲を回って道を探すことにした。
そしてようやく廃墟の町から伸びている道らしきものを見つけた。
しかもそこには馬車の轍のような跡もあった。
この道が王都に繋がっているのかどうか分からなかったが、道が伸びていれば次の町に辿り着けるだろうと判断した。
「では、この道を進んでみましょう」
「この先に王都があるのか?」
ガイア様が心配そうに聞いてきたが、靄が邪魔で位置が分からないのだから仕方が無いのだ。
それに轍があるというのなら馬車が通っているはずだし、見かけたら道を聞けばいいのよ。
だが私がそう思ったことは、頭上のグロウ様に察知されたようだ。
「アリーちゃん、トカゲの神域内にいると相手からは認識されないから、気を付けていないと馬車が通過してしまうぞ」
「あ、そうですね。危険感知で周囲を警戒しながら進みましょう」
そしてガイア様に背中に揺られながら進んで行ったが、一向に道を使う馬車がやってこなかった。
「誰も来ないな」
頭上のグロウ様がそう呟く声が聞こえた。
「本当に、ここ道ですよね?」
そして突然また廃墟が現れた。
今度は2度目なので、瓦礫の上を不用意に歩くような真似はしないが、それでも王都に通じる道を見つけなければならないので、再び瓦礫の周囲を回ってみることにした。
すると他の場所に向かう道は直ぐに見つかったのだが、あまりにも簡単だったのでもう少し調べてみる事にした。
するとこの廃墟の町から伸びる道が3つもある事が分かった。
そしてモステラの人達がノームと呼ぶ靄が上空高くまで広がっているので、鷹の目のマジック・アイテムも使い物にならなかった。
そして瓦礫の中から地図情報が得られないかとも考えたが、瓦礫の山は崩壊の危険があるし、その量が膨大なので、延々と探す羽目になりそうなのだ。
仕方が無いのでガイア様とグロウ様の意見も聞いてみる事にした。
「ガイア様、グロウ様、この町から外に向かう道が3つもあります。あ、やって来た道を含めると4つですね。どの道を選択したらいいと思いますか?」
「なんじゃ、そんなのアリーちゃんが決めた道で良いぞ」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
グロウ様は大らかというか、良い意味でいい加減な性格よね。
「アリソンよ、誰にも道を聞けないのなら、順番に進んでみたらいいのではないか?」
流石にレアムバルに戻るという案は出てこないか。
まあ、お2人がそのつもりなら旅を楽しみながら、カルテアに行くというのもありなのかもね。
「それでは道幅が一番大きそうで、かつ、道が荒れている中央の道から進んでみましょう」
「分かった」
「了解ぞ」
ガイア様の背中に乗って暫く進むと、私の耳に水が流れる音が聞こえてきた。
「ガイア様、近くに川がありそうです。落ちないように気を付けて頂けると嬉しいです」
「そうか、分かった」
まあ、道伝いに移動しているので、突然川の流れの中に突っ込むような事は無いと思うけど、気を付けておくに限るわよね。
やがてガイア様の足音が少し変わったのに気が付いて下を見ると、そこは石造りの構造物になっていた。
「あ、ここは橋ですね?」
「どうやらそのようだな」
危険感知では、靄の中には魔魚がうようよしているのに、眼下の川には魔物の反応は無いのね。
石造りの橋を渡りきると、今度は川に沿って道が曲がっていた。
人間の生活に水は必要だから、普通、川の傍には町があるはずなんだけど、モステラはどうなのだろうか?
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人間達と商品の取引をしていた場所から無理やり連れ去れたカンカは、鎖で身動きが出来ない状態で男達に抱えあげられていた。
マーメイド族にとって水の無い空間では自由に動く事もままならず、男達に運ばれていても抵抗できず黙って従うしかなかった。
あの時、一緒に居た2人の護衛役がどうなったのかも分からなかった。
男達は路地を右に左に曲がるとやがて目的の場所に着いたのか、1軒の家の門をくぐった。
そこは広い敷地の場所で周囲には壊れた樽やらゴミのようなものが散乱していた。
男達が建物の中に入ると、直ぐにカビと誇りの臭いが襲い掛かって来て、カンカは思わず顔を顰めた。
廊下から階段を下りて行くと、突き当りの扉を開けた。
そして放り投げられた。
慌てたカンカは、両手とヒレをばたつかせてなんとか鎖を振りほどこうとしていると、時間切れで地面に叩きつけられた。
「うぐっ」
鎖で拘束されていたせいで受け身が取れなかったカンカは、まともに腹から落ちで息が詰まった。
「ごほ、ごほ、こんな事をして、貴方達には敬意がないのですか?」
「魚のくせに何を言っているんだ? ああそうだった。魚には水が必要だったな」
そう言うと男はバケツに入っていた水をカンカの顔に向けてぶちまけた。
「きゃっ」
顔が泥まみれになったカンカは、男達が自分を見下しておかしそうに笑う姿にくやしさを覚えた。
近くに水があれば仲間に居場所を知らせる事ができるのだが、陸地ではそれも敵わなかった。
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アマハヴァーラ教の強制懲罰部隊のモステラ派遣軍隊長ドン・ブラウドフットは、懲罰部隊のトップであるゲイブリエル・ソールに直々に任命されてこの地に赴任していた。
ドンが命じられた内容は、この地でアマハヴァーラ教を信じない亜人の撲滅だった。
王都ダルチェの神殿長はこの地の亜人についての情報を持っておらず、全く使えない奴だった。
まあ、しょせんはモステラ人なので、最初から期待はしていなかったがな。
そして部下達を地方都市に派遣して情報収集をすると、なんと、沿岸都市ロエルが人語を喋る魚と交易をしていると言うではないか。
ドンが部隊を率いてロエルの町にやってくると、直ぐに拠点を作り、そこで活動を始めた。
ドンは部隊を2つに分け、1つは人語を話す魚の情報収集、もう1つは、そいつらを絶滅させるための罠の造成だった。
そして分かったのは、人語を話す魚はマーメイド族と呼ばれ、ノームの中でも泳ぐ事が可能で捕まえるのが非常に難しい事、水中でも同族同士の意思疎通の手段があると言う事だった。
それを踏まえて罠は連中を自由に動けない陸上に誘い込む方法が良いと思われ、海からドライウォールの中にある罠に誘い込むための水路を造る事になった。
急ピッチで進められていた造成がおおよそ完成したところで、魚共を誘い込むための生餌を捕まえる事にした。
ドンが罠の進捗を確認しているところに、生餌を捕まえに行った部下が戻って来た。
その顔を見れば結果は分かるのだが、念のため報告を聞くことにした。
「報告せよ」
「はっ、作戦は成功しました。人語を喋る魚を捕獲しました」
「アグアージョ、よくやった」
「はい、ありがとうございます」
よし、これでモステラ地方にはびこる人語を話す魚を絶滅させて、晴れて俺もアンスリウムに堂々と凱旋出来る。
人語を喋る魚共はアマハヴァーラ教の教えを否定し、神獣なるものを信奉する訳の分からない連中なのだ。
アマハヴァーラ教を信じない邪教徒を撲滅し、この世をアマハヴァーラ教徒だけにするという崇高な目的達成の手伝いが出来る事にドンは無類の喜びを覚えていた。
奴らを殲滅させれば、大神官様もきっとお喜びになられるだろう。
ドンは、大神殿において大神官様からお褒めの言葉を頂ける事を夢見て、計画を進めるのだった。




