59 荒れる議会2
「少しよろしいでしょうか?」
全員の視線を集めた男は、神国にある神具の管理を任されているイーモン・エスコット特級神官だ。
ロドニーは、議会であまり発言しない寡黙な男が一体何を言い出すのか少し興味を持った。
「実は大神官様専用の特級神具保管庫に、何者かが侵入しようとした形跡が見つかりました。私の権限では中に入って調べる事が出来ないので、実際に何かが盗まれたかどうかまでは分からないのですが、その痕跡を見つけたのはセンシブル殿がカルテア巡行に神官を派遣する前だったと記憶しております」
その物言いでは、俺が中にある宝物を盗んでカルテア巡行に送り出した神官に持たせたと聞こえるではないか。
この男は、宝物庫から物を盗まれたかもしれない責任を俺に押し付けようとしているのか?
そしてそのふざけた口を封じようとした瞬間、ニューウェルに先を越されてしまった。
「なんと、そうすると環境を整えていたアマハヴァーラ神の特級神具がユッカに持ち出されてしまったから、アンスリウムの環境が悪化したのだな? 全く、そのような大事な特級神具を持ち出すとは、なんと恐れ多い行為なのだ」
「成程なあ、その特級神具がユッカに行ったとしたらユッカの環境が改善して、我が国に食糧支援を申し入れる必要が無くなったと考えれば、これだけ強気に出てきたのも納得できるな」
ニューウェルのその言葉にすかさずバウアーが相槌を打った。
「実際どうなのだ? ユッカの環境は改善しているのか?」
スパージョンのその質問に答えたのはティンダルだった。
「まだ裏付けはとれていませんが、ナッシュの神殿からユッカに魔樹が出なくなったという話を聞いたことがあります」
「ナッシュというと、ユッカとの国境にある町だな」
「ええ、そうです。そしてユッカから流れてきた流民が、ユッカで収穫された山菜だと言ってナッシュの町で露店を出して販売しているそうなのです」
ティンダルの言葉に、バウアーとニューウェルが直ぐに反応した。
「それはユッカの食糧危機が解決したという事で、間違いなさそうだな」
「まさにそうだな。こうなって来るとセンシブル殿が行ったカルテア巡行に我が国の特級神具が持ち出されたという話に信ぴょう性が出て来るのではないかな?」
「まさにそうだな。ユッカ王家が我々に対して、これほど強気で出られるのも弱みだった食料問題が解決したからだと考えれば辻褄があうな」
くそっ、バウアーとニューウェルの奴らめ、随分と優越感に浸っているじゃないか。
疑神石の使用をうやむやにするため、全力で話の方向を特級神具の持ち出しというとんでもない作り話にすり替えようとしているのか。
「待って頂きたい。百歩譲って環境を改善する効果がある特級神具があるとしよう。だが大神官しか立ち入れない場所から、どうやったら持ち出せると言うのだ?」
するとエスコットがポツリと零した。
「センシブル殿が裏で手をまわしたのではないのか?」
こいつ、言うに事欠いてなんて事を。
「なっ、私は敬虔なアマハヴァーラ教信者だ。無礼な言動は慎んで頂きたい」
ロドニーが憤懣やるかたないと言った体でそう言い放つと、バウアーがニヤリと笑みを浮かべた。
「現に特級神具が持ち出されたような痕跡があるのだ。もしかしたら巡行に行った神官が、こっそり持ち出したのではないのか?」
「そんな事は無理だ。そもそも巡行に行った者は下級神官見習だ。そのような者が警備が厳重な場所に立ち入れる筈がない」
ロドニーは思わずそう口走ってしまったが、今度はニューウェルがニヤリと笑みを浮かべたので失言だった事に気が付いた。
「ほう、センシブル殿、厳しい旅が確定している巡行に見習いを行かせたのか?」
「なっ」
「それではまるで死んで来いと言っているようではないか」
「センシブル殿がそこまで血も涙もない男だったとは、見損ないましたぞ」
ニューウェルの指摘に、バウアーとティンダルが相槌を打っていた。
くそっ、この3人は明確に俺に罪を擦り付けるつもりだな。
「それで、改めて聞くが、その下級神官見習いの生死はどうなのだ?」
「バシュラールの神殿からは、到着していないと連絡があった」
「なんと、するとその神官見習いはバシュラールに辿り着けず、持ち出した特級神具は行方知れずになったという事か?」
バウアーがそう畳みかけて来ると、エスコットが口を挟んできた。
「神国の特級神具が持ち出された可能性があるのなら、その回収に全力を尽くしてもらわないといけませんね」
「それは私にあるかどうかも分からない物を、取り戻してこいと言っているのか?」
「あるかどうかが問題なのではないぞ。特級神具を持ち出したのか、持ち出していないのかを確かめる必要があると言っているのだ」
エスコットの奴、それはお前の仕事ではないのか?
一言、大神官に保管庫の中を確かめてもらえば済む話では無いのか。
「スパージョン殿、大神官に紛失した特級神具があるかどうか確かめてもらった方が良いのではないですか?」
だが、スパージョンは首を横に振った。
「センシブル殿、これだけ状況証拠が揃ったのなら、確かめてみなければならないのではないか? それに神への奉仕に勤しむ大神官様へ余計な心配事で心を惑わせることは良くない」
拙い、スパージョンが明らかに不機嫌になったぞ。
くそっ、くそっ、自分の評価を下げたくなければ、あるかどうかも分からない特級神具を探さなければならないのか。
ロドニーが黙っていると、スパージョンの鋭い声が聞こえてきた。
「センシブル殿、これは渉外担当の任務ではないのか? 迅速に対応する事を期待するぞ」
「しかし、巡行した神官が特級神具を盗み出したと言う証拠は、何処にもありませんが?」
それでももう一度抵抗してみたが、状況は芳しくなかった。
「そう思われても仕方がない状況証拠が揃っているのだ。自身の身の潔白を証明するためにも行動した方が良いのではないか?」
「・・・畏まりました」
スパージョンに頭を下げながら、バウアーとニューウェルそれにエスコットの勝ち誇った顔が実に腹立たしかった。
+++++
ロドニー・センシブル特級神官の補佐官コーディ・ソザートン上級神官補佐は、上司に命じられバシュラール神殿の神殿長カール・エマースト上級神官宛てに送った質問状の返信を受け取った。
やれやれ、急ぎだと言って送り出したがようやく返事が返って来たか。
これでメラニー・シーモア下級神官が本当にユッカに行ったのか、それとも強盗犯が名前を騙ったのかが分かる筈だ。
ソザートンは会議が終わった頃合いを見計らって上司の執務室の扉をノックすると、直ぐに中から不機嫌な声が返ってきた。
何か、会議で問題でもおこったのかと一瞬後悔したが、既にノックしてしまったので覚悟を決めて中に入った。
「失礼します。センシブル様、バシュラールから返事が返ってきました」
「そうか、こちらに」
ソザートンが手紙を上司のテーブルに置くと、早速上司が中身を確かめていた。
上司は手紙をじっと見つめながら、何か真剣な表情をしていた。
一体何が書かれているのだろうかと、不安になったところで上司が口を開いた。
「ソザートン、私の記憶が正しければメラニー・シーモア下級神官は、金髪に青い瞳をしていと思ったが、合っているか?」
「はい、その通りです」
上司はソザートンの返事を聞いて「はあ」とため息をついた。
「カール・エマーストが言うには、バシュラールに現れたメラニー・シーモア下級神官は緑髪に緑眼の女性神官だったそうだ」
「全然違いますね」
「ああ、本当に名前を騙った他人なのか、もしくは本人が変装していたかのどちらかだな」
「それなら面通しをすれば分かるかと思いますが?」
ソザートンが何気なくそう言うと、上司がニヤリと笑ったので嫌な予感がした。
「ほう、お前もそう思うか」
「え、ええ、そうですね」
「それならメラニー・シーモア下級神官を連れて、バシュラール神殿に調査に行くのだ」
「え、私も、ですか?」
ソザートンはユッカがどんな場所なのか聞いたことがあったので、一瞬固まった。
「お前とシーモアは、バシュラールに現れたと言うシーモアの偽物がアマハヴァーラ教の関係者じゃないと言う証拠を掴むのだ。そしてカルテア巡行に出たアリソン下級神官見習いの消息を確かめる事と、万が一亡くなっていた場合は、所持品を1つ残らず持ち帰るのだ」
「え、でも、何処に居るのかの手がかりが」
「ナッシュの町を出てユッカに入った事は分かっている。そしてバシュラールに辿り着いていないそうだ。なら、ナッシュからバシュラールまでの間のどこかで骸になっている可能性が高いのではないか?」
「ああ、それからアリソン下級神官見習いの顔を知っている者を何人か連れて行った方が良いだろう」
「えっ、下級神官見習いを連れて行くのですか?」
「なんだ、お前達は、私の巡行に見習いを当てがったじゃないか。今更、何を驚くのだ?」
「し、失礼しました」
ソザートンは上司の目が本気なのに戦慄を覚えた。
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