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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
54/63

54 追い詰められた町2

 

 負傷兵が戦線に復帰して一息付けたところで、再び魔魚の攻勢が始まった。


 白く濁った靄の一部が黒くなると、そこから槍魚が鋭い頭を突き出してきた。


 その攻撃を領兵が盾で受けると、その左右に配置された領兵が槍を突きだして槍魚をノームの中に押し戻した。


 すると先ほどよりもはるかに大きな黒い影が現れると、顔を出したのは破城魚だった。


 その体は平べったく、鱗はまるで鎧でも着ているかのように固くあの巨体で突撃されると石壁も耐えられずに崩壊するのだ。


 そして最も都合が悪いのは、破城魚がドライウォールを突破してその大きな口を開くと口の中から大量のノームを噴き出すのだ。


 こいつを仕留めないと、街中に大量のノームを送り込まれ町が飲み込まれてしまうのだ。


 だが、退治したくても兵達が持っている剣ではあの鱗を貫く事が出来ないだろう。


 兵達もそれが分かっているから呆然と立ち尽くしていた。


 それでも何もせずに滅亡する訳にはいかないので、カルドナは大声を上げた。


「おい、あの化け物を止めるんだ。このままだと町がノームに飲み込まれるぞぉ」


 カルドナは叫びつつ馬を駆けさせると、その勢いを利用して一気に馬上槍を破城魚に突き立てた。


 だが、その鱗は固くカルドナの槍は弾き返され、その反動で馬ごと吹き飛ばされた。


「くそっ、駄目か」


 落馬したカルドナが破城魚を見上げると、その大きな目はまるでこちらをあざ笑っているかのように見えた。


 そして大きな口を開くと、街中に向けて白い靄を吐き出した。


 町中に白い靄が広がっていくと、視界が薄い靄がかかったように悪くなっていった。


 もう、駄目か。


 これをあと数回繰り返されたら、この町もノームに飲み込まれてしまうだろう。


 そして再び白い靄の中に黒い影が現れた。


 くそっ、どうしてここにバリスタが無いのだ。


 いや、強力な魔法を使える魔法兵でもいれば。


 だが、無い物ねだりしても破城魚を止める事はできない。


 それでも悪あがきをしない訳にはいかなかった。


「盾で押し返せぇ。剣で目を狙え」


 再び破城魚が姿を現すと盾を持って待ち構え隙を見て目を狙おうとしたが、その強烈な突撃に簡単に弾き飛ばされた。


 そして一気にノームの白い靄が街中に広がって行った。


 カルドナはその光景をみて諦めてしまった。


 恐怖に負けた兵達は武器を捨て逃げ出したが、カルドナにはもうそれを制止する力は無かった。


 そして最後の瞬間を待っていると、再びノームの中から破城魚がその巨体を現した。


 破城魚は、勝利を確信したかのように目をぎょろりと回したが、次の一瞬、それが恐怖に変った。


 破城魚の大きな体ぴくりと震えると突然爆散し、町に侵入していたノームも霧散していた。


 状況が掴めず固まったカルドナの頬に、爆散した破城魚の肉片が当たった。


「何が、起こった?」


 静まり返った中、この状況を発生させたと思われる人物の声が聞こえてきた。


「これはやり過ぎではないのですか?」


 +++++


 ガイア様の背中に乗って急ぎ足で進んで行くと、危険感知に白い輝点と赤い輝点が集まっていた。


「ガイア様、この先で戦闘が行われているようですが、囲まれているようで突破口を開かないと町にはいれませんね」

「問題無いぞ。ブレスを撃てばよいのだ」

「それだと後ろの町まで吹き飛ばしてしまいますよ」

「むっ、ではどうするのだ?」


 そこで私は頭上のグロウ様に声をかけた。


「グロウ様の神域に私を入れてもらえる事は可能でしょうか?」

「問題ないぞ。そこのトカゲは駄目だがな」

「分かりました。ありがとうございます」


 グロウ様との間で調整が取れたので、再びガイア様に声をかけた。


「ガイア様、すみませんが、神黄石に戻って下さい」

「むっ、それで大丈夫なのか?」

「はい、少しの間、グロウ様に手伝ってもらいます」

「むむ、アリソンの頼みでは仕方が無いか。分かった」


 そしてガイア様を神黄石に戻すと、今度は神緑石に触ってグロウ様に分身体になってもらった。


「グロウ様、神域の展開をお願いします」

「良いぞ」


 私がグロウ様の神域に入ると、直ぐに町を包囲している赤い輝点に向けて神力弾を撃ち始めた。


 それに合わせてグロウ様の分身体も両腕を開くと周囲に向けて神力弾を撃ち込んで、魔魚を次々と仕留めて行った。


 グロウ様の攻撃力はガイア様より劣るが、多くの弱い敵をやっつけるには効率が良かった。


 暫くの間グロウ様と戦っていると、周囲に魔魚の気配が無くなっていた。


 魔魚の集団を蹴散らすと、最後の大物が現れた。


 どうやらこの町を攻撃しているボスのようで、周囲の白い輝点が吹き飛ばされていた。


「グロウ様、敵の親玉が居ます。あれは私が対応しますね」

「駄目じゃ、トカゲに任せるのじゃ。アリーちゃんが疲れてしまうからな」

「やっぱりそうですか」


 私にはグロウ様が言った最後の言葉が聞こえなかったが、はっきりとガイア様に任せるようにと指示されたのでそれに従う事にした。


 グロウ様を神緑石に戻ってもらい、再びガイア様に分身体になってもらった。


「ガイア様、後ろの町に被害が出ない出力で、あの大きいのにブレスをお願いします」

「むむ、注文が細かいぞ」

「ガイア様ならできます」

「そ、そうか。分かった。私に任せるのだ」


 私はガイア様をおだてて、ブレスの威力を調整してもらう事にした。


「はい、よろしくお願いします。ですが、本当に町を壊さないように出来るだけ加減をしてくださいね」

「何度も言われなくても大丈夫だ。任せておれ」


 上機嫌なガイア様は、口をぱかりと開くと、そこに小さめの光が収束していった。


 それにより私の中から力が吸い取られていくような感覚があった。


 ガイア様のブレスが魔魚の親玉に当たると一瞬で消滅した。


「ガイア様、手加減はしてくれましたよね?」

「ああ、大丈夫だ」


 その言葉を確かめるため、私は赤い輝点が消えた靄の中から白い輝点がある町に入って行った。


 そこでは魔魚の破片を全身に浴びた兵士達が倒れ込んでいた。


 その姿を見て思わずガイア様に「これはやり過ぎではないのですか?」と言ってしまった。


 +++++


 領主館で破城魚が現れたという報告を聞いたエリアスが、いよいよ最後を悟った。


 エリアスは脱出用の馬車を用意すると、妻と娘に急いで乗るように身振り手振りを交えて急き立てた。


「早く乗るのだ」

「貴方はどうするのですか?」

「私は後始末をしなければならないから後で行く」

「お父様、本当に大丈夫なのですか?」


 エリアスは不安そうな妻と娘を何とか安心させようとなんとか笑顔を作ろうとしたが、血相を変えて駆けて来る伝令兵を見てその表情が固まった。


 妻と娘もそれが見えたようで、いっそう不安そうな顔をしていた。


 やがて伝令が馬を降りて駆け寄って来ると、礼もせずに声を上げた。


「報告します。魔魚の攻勢を防ぎ切りました」


 エリアスは一瞬何を言われたのか分からなかったが、馬車の中の妻と娘が歓声を上げたのでようやく勝った事を理解した。


「勝った、のか?」

「はい、アマハヴァーラ教の神官が破城魚を倒してくれました」

「・・・は?」


 いや、待て、今何て言った?


 あのアマハヴァーラ教の神官が我々を救ってくれたと言ったのか?


 そもそも神官に破城魚を倒すだけの力があるのか?


 エリアスは信じられない言葉を聞いて再び混乱していた。


 言葉が足りなかった事を理解した伝令は、慌てて言葉を継いだ。


「本当です。町を襲っていた破城魚は木っ端微塵に吹き飛び、その後からアマハヴァーラ教の神官が現れたのです。カルドナ様もそれを確認なされました」


 カルドナが確認したのなら間違い無いのだろう。しかし・・・


 エリアスが悩んでいると、オルティスがそっと傍にやって来た。


「伯爵様、アマハヴァーラ教の神官は、毒消しをするだけでも結構な金額を請求すると聞きます。今回はこの町を助けた訳ですし、法外な報酬を請求されるのではないでしょうか?」

「お前もそう思うか?」

「はい」


 エリアスがいくら伯爵だと言っても、滅亡寸前まで追い込まれた町に蓄えなんか殆ど無かった。


 法外な金額を請求されても払えるものじゃない。


 どうする? 無視するか?


 いや、そんな事をして心象を悪くしたら、金額を上乗せされてしまうか。


 ここは下手に出て、こちらの窮状を理解してもらうしかないな。


 ようやく覚悟が決まったエリアスは、伝令兵に声をかけた。


「街の危機を救ってくれた神官様には、礼を尽くさねばならぬ。都合が良ければ領主館に来てほしいと伝えるのだ。あ、これは強制じゃないからと、くれぐれも丁重に伝えるのだぞ」

「はっ、承知いたました」


 伝令兵が一礼して再び馬に乗ると、そのまま駆け出していった。


 その後ろ姿を見ながら、隣のオルティスにそっと尋ねてみた。


「なあ、やって来ると思うか?」

「まあ、あのアマハヴァーラ教の神官なら、こちらから言わなくても来るでしょうね」

「だよなぁ」


 そこでエリアスは「はぁ」とため息をつくと、馬車から降りてきた妻と娘がやって来た。


「私達はもう逃げなくてもいいのですね?」

「うん、ああ、そうだな」


 エリアスは馬車から降りてきた妻と娘と抱き合うと、そのぬくもりに生きている事を感じる事が出来た。


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