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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第3章 モステラ
50/61

50 五里霧中

 

 グロウ様が造ってくれた即席の橋をガイア様の背に乗って大裂孔の反対側に渡っていくと、そこでは大地を覆う靄のせいで何も見えなかった。


 橋を造った時の音でモステラの警備兵がやって来るかもしれないのだが、この靄では既に待ち構えているのかも分からない状況だった。


 そこでグロウ様の教えてもらった危険感知を発動すると、靄の中に赤い輝点が沢山現れた。


 その数を見て、これは私とガイア様だけでは手数が足りないと思い、グロウ様も戦力として期待することにした。


「グロウ様、靄の中に敵が沢山いますので、対岸に着いたらすぐに分身体になって下さい」

「任せるのじゃ。わらわがトカゲよりも頼りになるところを思う存分見せつけようぞ」

「はい、期待しております」


 そして対岸に辿り着き靄の中に入ると、まるで空気の壁でもあるかのような抵抗を感じた。


 そして靄の中はひんやりしていて、肌には冷たい水滴がまとわりつくような感じだった。


 私はそれに構わず直ぐに神緑石に触れてグロウ様を具現化した。


「ガイア様、グロウ様、周囲に気を付けて下さいね」

「私に任せておれ」

「わらわが居るのだ。何も問題無いぞ」


 そして危険感知に反応がある赤い輝点は直ぐにこちらに来ることは無く、周囲を警戒するように動いていた。


「ガイア様、グロウ様、まだ見つかっていないようですが、周囲は敵だらけです」


 危機感知で反応した赤い輝点は、高速で移動するものとゆっくり漂うように移動するものの2種類あった。


 そしてこの靄は密度が濃く質量があるのか、まるで水中を歩いているような抵抗感があった。


 そんな中を泳いでる赤い輝点の1つがこちらを見つけたようで、突然方向を変えると一気に向かってきた。


 その速度はかなり早かった。


「ガイア様、グロウ様、敵が急速に接近しています」


 グロウ様に教えてもらった危険感知は広範囲の索敵に優れていて、ガイア様に教えてもらった魔眼で視る方法は敵の正確な位置が分かるので攻撃に向いているようだ。


 2人に警告を発すると、直ぐに神力で具現化した杖を構えて接近してきた赤い輝点に神力弾を放った。


 接近してきた赤い輝点と神力弾の輝点がぶつかると対消滅したが、それを合図にしたかのように他の赤い輝点が一斉にこちらに向かってきた。


 あ、やばい。


「ガイア様、グロウ様、大変です。一斉に襲ってきました」

「問題ない。私に任せるのだ」


 ガイア様がそう言いうと突然私は神域の中にいた。


 どうやらガイア様が神域を展開してくれたようだ。


 赤い輝点は神域を感知できず私を見失ったようだが、神域を展開していなかったグロウ様の方に向かって行った。


 グロウ様の傍で赤い輝点がいくつも消えると、残った赤い輝点は逃げるように遠ざかって行った。


 ガイア様が神域を解除すると、直ぐにグロウ様からの口撃が始まった。


「こんのおぉぉ、馬鹿トカゲがぁぁ、わらわを囮にするとは良い根性じゃのう」

「仕方がないではないか、私の神域に蛇は入れないのだからな」

「それなら神域を展開すると一言言えばよいじゃろうが」


 お2人の口論を聞いていると、どうやら分身体同士は同じ神域には入れないらしい。


 私は2人の口喧嘩を何とか抑えようとした。


「お2人ともそのくらいで止めて下さい。靄が晴れるまでどこにも行けませんから私は食事にします」


 そして食事をするのに場所を探すと、先ほどグロウ様が戦っていた所に光る石が落ちていた。


 私が1つ拾うと、グロウ様が声をかけてきた。


「それは魔石じゃな」

「魔石?」


 魔石といえば、ガイア様が魔物の動力源と言っていましたね。


「マジック・アイテムの動力源になる」


 ああ、これは使える石なのですね。


 なんだか売れそうなので、拾っておくことにした。


「ガイア様の神域の中で食事をしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないぞ」


 私はガイア様に展開してもらった神域の中で、ユッカで購入した干し肉と固パンという簡単な食事をとる事にした。


 食事を終えて人心地付いたところで、周囲を見回した。


「この靄、いつまで続くのでしょう?」


 私が疑問を口にすると、ガイア様がポツリと呟いた。


「モーフの奴が正気に戻らないと無理だぞ」

「え?」


 それってこの靄がずっと続くという事?


 モーフ様の神力だまりがこの靄に隠されて鷹の目のマジック・アイテムで見つける事はむりそうね。


 それなら町を見つけて、現地の人に神力だまりに繋がる情報を聞いて回るしかないわね。


 そうすると、ここから左手に進み、先大裂孔のユッカ側で見つけたあの橋に行って、そこから伸びている筈の道を辿るしかないって事か。


「ガイア様、グロウ様、先ほど見つけた橋の方に向かいますね」

「分かった」

「よしなに」


 私は人間に見つかった時の事を考え、見た目がアレなグロウ様には神緑石に戻ってもらう事にした。


 そしてガイア様と一緒に大裂孔に沿って橋の方に歩いて行った。


 一歩踏み外すと崖下に転落する危険な行為だが、こうしないと自分の位置が分からなくなるのでやむを得ないのだ。


 更に進むと、危機感知に赤い輝点が1つゆっくり近づいてきた。


 それは動きが鈍くどうやら靄の中を漂っているような感じなので、今のペースなら安全にすり抜けられそうだった。


 そしてすり抜けたと思った瞬間、こちらの動きに吸い寄せられるようにすうっと近づいてくると、傘の下にある沢山の触手を伸ばしてきた。


「バチ、バチ」


 触手が触った途端、まるで雷にでも撃たれたかのような強い衝撃を受け、触手が触れた右腕が痺れ上がった。


「きゃっ」


 うそっ、神官服には魔力を流していたのに。


 私は動く左腕を使って神力で杖を具現化すると、触手を伸ばしてくるそれに神力弾を撃ち込むとあっけなく消滅した。


「アリーちゃん、大丈夫かの?」


 私が痺れて動かない右腕を摩っていると、グロウ様が異変に気が付いたようだ。


「先ほどの魔魚の触手に触れた途端、腕が動かなくなりました」

「どれ、わらわが診てみようぞ」


 帽子状態のグロウ様でも分かるのだろうかと思っていると、意外と大丈夫だったようだ。


「これは神経毒じゃな。解毒すれば問題無いぞ」

「分かりました」


 私は神殿で習った解毒魔法を唱えると、右腕の痺れが消えていった。


「この神経毒なら、ユッカで摘んだ甲羅草の葉をすり潰して飲んでも解毒できるぞ」

「あ、そうなのですね」


 ひょっとして、この国では高くれるかもしれないわね。


 いずれにしてもそれは町に辿り着かなければ全く意味はないけど。


 危機感知に現れる赤い輝点に注意しながら橋の方に進んで行くと、ようやく橋が見える場所まで辿り着いた。


 そこから橋の方を見ると、靄が無いユッカ側の橋の上には動くものは無く両国間の交流はあまり活発ではないようだ。


 交通量が殆どないなら近づいても大丈夫だろうと、一気に橋の傍まで接近にしていった。


 周囲を観察すると、橋には人影は無かったが、橋の傍にある建物の中には人の気配があった。


 どうする、扉をノックしてみるか?


 だが、どう見てもあの中にいるのって国境の橋を守る警備隊よね?


 そこでバシュラールの傍まで行った時の事を思い出していた。


 王都を守る騎士団に有無を言わさず捕まって地下牢に放り込まれたし、神殿は私を助けてもくれなかったわ。


 その状況はモステラでも同じなんじゃないかしら?


 私が建物の中の人に声をかけるかどうか逡巡していると、ガイア様が振り向いた。


「アリソンよ、あの建物に用があるのではないのか?」

「いえ、また捕まったら面倒事に巻き込まれますから、止めておこうかと」

「それならこれからどうするのだ?」


 ガイア様がそう言っていたが、目の前には道標となる橋から続く道があった。


 この道を辿って行けば町に辿り着くはず。


 そこでモーフ様の神力だまりに関する情報収集をすればいいだろう。


「道にそって歩いて行けば、町に辿り着けると思います」

「そこでまた捕まったら、どうするのだ?」

「う~ん、でも町の人に会わないと、モーフ様の居場所の手がかりを掴めないんですよねぇ」

「確かにそうだな」


 私達はガイア様が展開した神域の中に入って魔魚からの攻撃を防ぐと、道にそって歩き出した。


 道伝いに進んでいるのだが、中々町に辿り着けなかった。


「アンスリウムだと国境付近に町があったのですが、他の地方はそうでもないようですね」

「アリソンよ、根を上げるのはまだ早いぞ」

「いえ、そんな事はないのですが、この靄の中だと景色を見て気分を変える事も出来ないので、ちょっと飽きてきただけです」

「ふふ、それは仕方が無いな」


 そんな事をガイア様とはなしていると、グロウ様が声をかけてきた。


「アリーちゃん、この先に魔物以外の反応があるぞ」

「あ、人の住む町でしょうか?」

「そこまでは分からぬが、魔物と戦っているようだから人かもしれぬな」

「え、それを早く行ってください。ガイア様急ぎましょう」

「ああ、分かった」


評価ありがとうございます。


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